「大地の咆哮 元上海総領事が見た中国」杉本 信行
2007/03/27公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★☆☆(76点)
●著者は外務省において中国スクールの一員として、
中国に深く関わってきたキャリア官僚です。
2005年に著者が総領事であった
上海の日本総領事館で館員が中国の
諜報活動により自殺したことが発覚し、
さらには自ら末期ガンであることがわかり、
闘病生活の中でこの本を執筆しています。
外交官の本音が書かれてあると
考えて良いでしょう。
●これまで日本は、日中友好の名のもとに、
一貫して中国の経済発展のために金を出し、
国際的にも中国を擁護してきました。
そして実際に中国が経済発展した根底に
日本のODAが貢献したことは
明らかなようです。
・1989年6月、天安門事件が起こった。事件後、ヨーロッパ各国は手のひらを返すように、対中姿勢を硬化させて経済制裁に踏み切り、ココムに関してもより厳しさを増した。・・四面楚歌に陥った中国を逆に擁護する立場をとったのは日本だった。(p101)
●また、中国の経済発展にともない民間企業が
中国に進出しているようですが、
進出している企業がトラブルに
あうことが多いようです。
それについての記述は、
やや他人事のように感じましたが、
それは外交官には普通の感覚なのでしょう。
・大使館に持ち込まれるさまざまな苦情・・・中国企業側が判決を履行しない・・・工場を建設していざ操業という段階になって、日本企業が移転を迫られた・・・労務管理や売掛金回収のトラブルで、日本人が換金されるケース(p165)
●中国が国家として進めてきた反日教育、
極悪非道な日本人というイメージは
中国全土に浸透しており、
すでに共産党でもコントロールできないくらい
大きなものとなっているようです。
さらには、そうした反日教育のために、
中国指導部は日本に対し、
強固な対日政策をとらざるをえない
状況にもなっているわけです。
・日常的にTVドラマや記録映画を通じて、極悪非道な日本人のイメージが定着している。・・・そうしたイメージづくりは、これまではすべて共産党宣伝部が横断的に行ってきたわけである(p223)
・中国指導部としては、組織的あるいは偶発的な反日運動が、社会の各層に鬱積した不満のはけ口として一般大衆を巻き込んだかたちで発展した場合には、これらのエネルギーが直接党あるいは政府批判に向かわないように、強固な対日政策を取る危険性がきわめて高まっていると指摘せざるを得ない。(p236)
●日本という国が、経済援助により共産党独裁国家を崩壊させ、
民主的な国家へ導く深遠な戦略を成功させた国家となるのか、
それとも、経済援助により敵国を発展させ、
その国に滅ぼされる愚かな国家となるのか、
中国へ行ったことがない私は判断できませんが、
その判断は歴史が示してくれるのでしょう。
■この本で私が共感したところは次のとおりです。
・文化大革命末期の体験を含む長年の中国勤務を通じ、正直「中国に生まれなくてよかった」と思うこともあった。(p7)
・金を人に貸すならば、あげたつもりで貸さねばならない。借りた金は返さないのが原則なのに、返すとは馬鹿げている、といった風潮が少なからずある。(p262)
・実際、中国の党幹部や役人はすさまじい特権を享受している。日本でもマスコミが伝えてはいるが、日本人にはなかなかイメージできないかもしれない。(p220)
・胡耀邦は胡錦濤の恩人である。その恩人であり最も親日的であった胡耀邦が、個人的な信頼関係を築いたとされる中曽根総理の靖国神社参拝問題で批判を受け、その後失脚してしまった。それ以来、靖国神社問題は中国の指導者にとり、いわば鬼門となった感がある(p244)
▼引用は、この本からです。
【私の評価】★★★☆☆(76点)
■著者経歴・・・杉本 信行(すぎもと のぶゆき)
1949年生まれ。1973年外務省入省。
1981年経済協力局技術協力第一課主席事務官。
1983年在中華人民共和国日本国大使館一等書記官。
1986年在フランス日本国大使館一等書記官。
1991年経済協力局国際機構課長
1993年交流協会総務部長(台湾)
1996年欧州連合日本政府代表公使。
1998年在中華人民共和国日本国大使館公使。
2001年在上海日本国総領事館総領事。
2005年日本国際問題研究所主任研究員。
2006年8月肺がんにて永眠。
・2004年春、上海の日本総領事館で、一人の館員が、このままでは国を売らない限り出国できなくなるとの遺書を残して死んだ。私は、そのときの総領事であった。(p6)
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