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「日本人はなぜいつも「申し訳ない」と思うのか」長野 晃子

2005/08/18公開 更新
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日本人はなぜいつも「申し訳ない」と思うのか


【私の評価】★★☆☆☆(68点)


要約と感想レビュー

 ベネディクトの「菊と刀」(1967年)で示された「日本は恥の文化」について、その間違いを指摘しながら、日本の治安の良さを、日本人の考え方・文化から考察する一冊です。なぜ日本人は東日本大震災で暴動を起さず、泥棒をせず、共に助け合うことができるのか。ルース・ベネディクトは恥と考え、著者は罪の意識であると考えています。つまり、日本人は欧米人と同じように罪の意識があるのであり、欧米人と違うという主張はどうだろうと疑問を呈しているのです。わたしは両方だと思うのですが、どうでしょうか。


 著者が、ベネディクトの「菊と刀」はアメリカのプロパガンダであると断言しているのが、新鮮でした。日本の素晴らしい文化を研究したというよりこれから占領する日本を分析し、その分析結果が占領政策に反映されたと著者は考えたのです。日本とアメリカは戦争を戦った国同士ですので、そうした意味合いはあるのでしょう。


・ベネディクトは『菊と刀』を米国の戦争プロパガンダのための政治論文として書いたのであり、ダグラス・ラミスの言葉を借りれば、「(日本は)アメリカにとって当然敵となるべき国、理論的にも道徳的にもアメリカが第二次大戦で打ち負かして当然至極であるような国」として描いた。(p171)


 また、「忠臣蔵」の解釈についてベネディクトの分析不足を指摘しているところでは、自分の「忠臣蔵」についての知識不足、理解不足がわかり、もう一度「忠臣蔵」を見てみたいと思わせてくれました。忠臣蔵では吉良を切りつけた浅野が切腹となります。吉良は無罪放免。


 もともと天皇の勅使の扱いについて、接待役の浅野家と礼儀作法の指南役の吉良家とで対立があったとの話があります。そうした背景からの刃傷沙汰に対し、喧嘩両成敗とならなかったことに、浅野側に不満が溜まっていたということなのでしょう。


・「家康公以来の御定法」である喧嘩両成敗を公儀は守らなかった。したがって幕府に代って吉良に制裁を加えることで、幕府がし残したことをやり遂げ、定法を守らなかった幕府に抗議しようとしたわけである。(p224)



 この本では、欧米の文化では善悪をはっきり分ける文化であることを指摘しています。私は宮崎駿が好きなのですが、「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」などが、欧米の人に理解されないところがあるという話を不思議に思っていたことがありましたが、その理由の一部がこの本で理解できました。たとえば、「もののけ姫」でのタタリ神は打ち倒す敵ではなく、鎮められるべき神です。しかし、英語吹替版では、evil(邪悪)なものと訳されているのです。これは、欧米では善と悪の構図でしか世界を理解できないためなのです。


・欧米人はとりわけこのタイプの英雄の一人勝ちのサクセス・ストーリーが好きなので、善と悪との戦いの構図を持たず、最後に英雄がハッピーにならないストーリーは理解できないのだ。(p192)


 日本の文化を欧米と比べながら知ることで、ある種の誇りをもてる一冊ということで★2つとしました。論文調の文体が苦にならない人には、★3つでしょう。


この本で私が共感した名言

・日本人にとって努力を認められなかったときほど悔しいことはない。私自信もまさにそうだ。浅野は誠心誠意努力したが認められなかったことが悔しかったのだ。それが浅野をして吉良に斬りかからせた動機ではないだろうか(p211)


・欧米キリスト教文化圏では、・・・「神の命令だからしてはいけません」、日本文化圏では、「他人を害するから、他人に迷惑をかけるからしてはいけません」と教育されている。(p51)


・欧米では、命令に違反したとして厳しく罰せられる・・・体罰といえば、英語には「鞭を惜しめば子がだめになる」、フランス語には「愛する者は厳しく罰する」などということわざがある。(p54)


・日本の場合には、・・・若者たちにとっての怖い話が、・・・悪いことをすれば自分に返ってくる話である。・・・このような自罰型民話は、日本人の良心を研ぎ澄まし、・・・日本を治安の良い国に作り上げている重要な日本の文化的要素の一つだと私は思っている。(p116)


・日本の伝説、大衆娯楽映画や芝居には、このメッセージ、すなわち「法はみんなを守るもの、ゆえに、みんなで法を守ろう。法を守らないものには、それがお上であっても命をかけて抗議する」というメッセージが込められているものが非常に多い。(p236)


・欧米の伝説のなかには、欧米人が好んで語る「義賊もの」がある。日本の義民と欧米の義賊とのあいだには決定的なちがいがある。日本の義民は遵法者であるが、欧米の義賊は無法者なのだ。(p244)


日本人はなぜいつも「申し訳ない」と思うのか
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【私の評価】★★☆☆☆(68点)


目次

第1部 自分に裁かれる日本人と神に裁かれる欧米人
第2部 日本人の遵法精神はどこからくるのか


著者経歴

 長野 晃子・・・1938年生まれ。現在、東洋大学社会学部教授。1976~77年フランス国立リヨン第三大学客員助教授、1987~88年フランス国立ストラスブール人文科学大学客員教授


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