「やめられないギャンブル地獄からの生還」帚木 蓬生
2024/05/23公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(85点)
要約と感想レビュー
ギャンブル依存症は治らない
大谷翔平の通訳だった水原一平さんがギャンブル依存症だった、ということで手にした一冊です。
最初にギャンブル障害者の手記が6例紹介されているのですが、これを読まないとギャンブル依存症の本質はわからないと思います。息子の結婚費用を使い込んでしまった人、赤ちゃんがうるさいので、車に残してパチンコを打っていた主婦、職場の互助会の積立金を使い込んでしまった人など、ギャンブル障害者の人生はめちゃくちゃです。
ギャンブル障害の特徴は、ギャンブルをやめたくてもやめられないこと。罪を犯すことの恐怖よりも、目の前のお金が重要になること。そして、平気で嘘を言うことです。水原一平さんが大谷のお金を盗み、平気でみんなに嘘を言っていたこととまったく一致するのです。
借金と虚言があれば、百発百中ギャンブル障害の診断がつきます(p115)
ギャンブル障害者は嘘をつく
ギャンブル障害者は、ギャンブルで借金で首がまわらないことが露見すると、「スミマセン。これからは 一切ギャンブルはしません」と素直に謝るのだという。ところがこれがまったくの嘘で、普通の人である親族は簡単に騙され、ギャンブル障害者の借金の肩代わりをするのです。またすぐに、ギャンブルに手を出してしまい、関係者は落胆させられるというパターンが繰り返されるのです。
さらに多くの場合、ギャンブル障害者は、すべての借金を白状しません。その心理は明確ではありませんが、精神科医の著者の見立てでは、全く借金のない状態に慣れていないので、無借金の状態に耐えられないというのです。
ギャンブル障害者は基本的に治りません。だから、借金を肩代わりしてはいけません。借金は法的に整理して、保険を使って病院に入院させるか、専門家の治療を受けさせるのです。そして親族は、援助せず、期待もせず、自分自身の人生を大切にして生きるべきだと著者は助言しているのです。そこまで割り切るのもすごいと思いますが、それだけギャンブル障害者は治らないのです。
ギャンブル症者は放置し、自分だけの楽しみと生き方を見つけることです(p232)
ギャンブル障害者の治療方法
ギャンブル障害者は基本的に治らないのですが、ギャンブルをやめさせることは可能です。そのために効果的なのが、GA(ギャンブラーズ・アノニマス) です。GA(ギャンブラーズ・アノニマス)とは、ギャンブル依存症による自助グループで、ギャンブル依存症の人たちが、過去の自分の経験や現在の状況を語り合う場です。
同じギャンブル依存症の人たちの話を聞くことで、自分のギャンブル依存と向き合うことができるようになるというのです。ところが、このGAも効果は永久ではありません。1週間、1ヶ月もすると、ギャンブルをしたくなってしまう人が多いのだという。
だから、継続的にGAに参加しつつ、本人に渡す小遣いは、毎日百円から五百円玉一個と少額にするという。なぜなら数千円という現金を持つと、それをギャンブルに使ってしまうことがあるからです。
ギャンブル障害の特徴は、アルコール依存症や、覚醒剤などの薬物依存と同じく、進行性で自然治癒がないという事実です(p113)
パチンコ・スロットがギャンブル依存の入口
著者が警告するのは、日本ほどギャンブル野放しの国は、世界のどこにもないということです。特に問題なのは、パチンコ・スロットです。著者の患者百人のうち、何と82人が、パチンコ・スロットによってギャンブルにはまり込んでいたという。テレビや新聞ではパチンコ・スロットの広告を出しています。日本ではギャンブル依存症になるようにマスコミから扇動されているのです。
著者が指摘するのは、日本のパチンコ・スロット産業の年商は約30兆円で、トヨタの年商30兆円と同じ規模です。パチンコ・スロットは全世界で767万台設置され、日本にその六割が集中しているのです。パチンコ・スロット産業は、日本人を破滅させる巨大なアヘン窟のようなものなのです。
ここまで日本のギャンブル産業を大きくしてしまった裏には何があるのでしょうか。もう少し調べたいと思います。帚木(ははきぎ)さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・人間の脳は、同じことを無制限に続けていると、それにはまってしまう機能と構造を持っている(p11)
・借金・・私のクリニックを初診した百人の平均は、1300万円でした(p119)
・米国を例にとると、ギャンブル障害で入院治療を受けている患者の四割に刑事犯の前歴があるといわれています(p170)
・肩の力をぬき、本人へ援助の手もさしのべず、期待もせず、自分自身の生活を大切にすることを優先すべきです(p232)
【私の評価】★★★★☆(85点)
目次
一、ギャンブル地獄であえぐ人たち
二、ギャンブル地獄の正式診断
三、ギャンブル地獄の二大症状は借金と嘘
四、地獄へいざなうギャンブルの種類
五、ギャンブル地獄で〈意志〉はない
六、ギャンブル地獄での合併症
七、若年化するギャンブル地獄
八、ギャンブル地獄で起こる犯罪
九、ギャンブル地獄の女性たち
十、ギャンブル地獄では家族も無力
11、地獄から生還する道はただひとつ
12、自助グループこそ地獄に垂れた蜘蛛の糸
13、通院治療と入院治療
14、ギャンブル地獄生還途上の試練
15、ヒト社会のギャンブル行動
著者経歴
帚木蓬生(ははきぎ ほうせい)・・・1947年福岡県生まれ。東京大学文学部仏文科卒。九州大学医学部卒。福岡県中間市の「通谷メンタルクリニック」院長。1993年『三たびの海峡』で第14回吉川英治文学新人賞、1995年『閉鎖病棟』で第8回山本周五郎賞、1997年『逃亡』で第10回柴田錬三郎賞、2010年『水神』で第29回新田次郎文学賞を受賞
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