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「激変する世界の変化を読み解く 教養としての地理」山岡 信幸

2023/06/21公開 更新
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「激変する世界の変化を読み解く 教養としての地理」山岡 信幸


【私の評価】★★★☆☆(76点)


要約と感想レビュー

欧米の植民地主義

最近の大学入学共通テストの「地理」は、暗記力を求めるのではなく、データや基本的な知識から状況や課題を読み解くものとなっているという。予備校で「地理」を教えている著者は、勢い世界や日本の現状と課題を教えることになってしまっているわけです。


最初のほうで、資源の話が出てきます。資源については、やはり欧米の植民地主義によってアフリカや中東の国々が振り回されてきたことがわかります。太陽の沈まない帝国といわれたイギリスは、アフリカだけでも南アフリカからエジプトまで勢力を拡大していたのです。現在経済制裁を受けているイランは、イスラム革命で現体制となる前には、米英の工作活動によって軍事クーデターが仕組まれ、パーレビ2世による親英米の政権が作られたことがあります。ウクライナで、2014年に親ロシア政権が転覆させられたため、ロシアがクリミア併合したのと同じような構図なのです。


・イギリスの植民地政治家セシル・ローズは、大陸南端のケープ植民地(ケープタウン)をオランダから奪い、さらに北に向かってポルトガルの勢力を追い払いつつ内陸に支配地域を拡大。そこが、ローズの名からローデシアと名付けられます(p49)


日本の食糧自給率

日本の関係では、食糧問題について多くのページが割かれています。まず、日本の米の生産量は1967年頃に年1445万トンをピークに現在は2の1になっています。貿易自由化の中で、日本は米を守るために、関税化を拒否する代わりに最低輸入機会を割り当てていますが、義務ではないのに、日本は枠いっぱいの米を輸入しています。これは裏に「密約」があるのではないか?と著者は疑問を呈しています。


農林水産省は、日本の食料自給率37%と低いことを問題視していますが、これも貿易自由化を遅らせるため、わざと自給率を低く計算している可能性があります。品目別の自給率は重量で計算していますが、総合食料自給率は熱量(カロリー)で計算して小さく見せているのが不自然です。また、自給率には海外から輸入した飼料で育てた牛や豚や鶏は自給率に含まれないなど、自給率は低めに計算されているといえるのでしょう。


それ以外にも、日本は耕作面積当たり農薬使用量が世界トップクラスの農薬大国だということ、毎日、推定で140万食分以上のコンビニ弁当が廃棄されていることなど、日本の食糧問題は課題が多いと思いました。農林水産省が食糧自給率を高めようとすればするほど、役所が介入するほど、悪くなっていくように感じるのは私だけでしょうか。


・肉1kgを得るのに、牛は穀物飼料10~11kg以上を必要としますが、豚なら3~3.5kg、鶏なら2.2~2.3kgで足りる(p87)


日本の食糧輸入

日本では、牛肉の輸入はオーストラリア、米国から、豚肉の輸入は米国、デンマーク、カナダからが多いことがわかります。面白いのは鶏肉の輸入で、ブラジルが圧倒的に多いです。ブラジルでは除草剤に耐える高収量の遺伝子組換え大豆が導入され、この大豆の搾油後の油かすで養鶏をしているというのです。


国際的に安いところで作って、高く売れるところで消費するというのが経済合理性が高いと思われますが、ロシアのウクライナ侵攻などを見ると、バックアップとしての食糧確保も大切だと感じました。日本政府に過度に期待するよりも、自分で食糧確保を考えたいものです。山岡さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・男だらけの湾岸諸国・・ドバイに住む自国民30万弱・・外国人を含むドバイの総人口は300万人弱(p31)


・ベンゲラ鉄道も中国の援助で修復され、2014年に運行を再開・・2019年にはタンザン鉄道とベンゲラ鉄道は連結・・中国の存在感がアフリカで高まっている(p51)


・オーストラリアの「イギリス離れ」・・イギリス国家に替えて、国民投票で人気だった"Advance Australia Fair"が1984年に正式な国家となりました(p210)


・ブラジル・・バイオエタノールの増産はとうもろこしやさとうきびの需要を圧迫しており、価格高騰を招いています(p73)


▼引用は、この本からです
「激変する世界の変化を読み解く 教養としての地理」山岡 信幸
山岡 信幸、PHP研究所


【私の評価】★★★☆☆(76点)


目次

第1部 地理の変化から激変する世界を読み解く
 第1講 地図と交通
 第2講 資源・エネルギー
 第3講 農業・農林水産業
 第4講 文化と生活
第2部 お金の流れの変化から激変する世界を読み解く
 第5講 輸出品が示す世界の変化1]東アジア・東南アジア編
 第6講 輸出品が示す世界の変化2]南アジア編
 第7講 輸出品が示す世界の変化3]西アジア編
 第8講 輸出品が示す世界の変化4]アフリカ編...
 第9講 輸出品が示す世界の変化5]ヨーロッパ編1
 第10講 輸出品が示す世界の変化6]ヨーロッパ編2
 第11講 輸出品が示す世界の変化7]ロシア・米国編
 第12講 輸出品が示す世界の変化8]中南アメリカ編
 第13講 輸出品が示す世界の変化9]オセアニア編
 第14講 輸出品が示す世界の変化10]日本編



著者経歴

山岡 信幸(やまおか のぶゆき)・・・東進ハイスクール・東進衛星予備校の講師として、30年以上の指導歴を持つ。ベーシック講座から難関大対策講座まで主要な講座を数多く担当。「地理は暗記科目ではない」。因果関係や背景の理解を中心に展開される授業は、工夫された視覚資料と丁寧な説明で、地理が苦手な生徒も思わず引き込まれる。『山岡の地理B教室』(ナガセ)は、地理入門書のスタンダードとされており、上梓以来、データを更新しつつ版を重ねている。また『地理B一問一答〈完全版〉』は一問一答形式でNO.1の売上げを誇る。


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