「前向きに、あきらめる。一歩踏み出すための哲学」小川 仁志
2023/03/18公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★☆☆(76点)
要約と感想レビュー
スーパーの一角の占いコーナーに「哲学悩み相談」のブースがあって、大学で哲学を教えている著者が、人生に悩んだ人にアドバイスしていくという仮想ストーリーでわかりやすい一冊です。その相談者は、歴史学者になりたいという40歳のサラリーマン、ベンチャ企業に転職を誘われている30歳のサラリーマン、遠距離恋愛で交際を続けるかどうか悩むアラサー女子など。いずれの相談も、人それぞれであり、はっきりした答えがないものなのです。
まず、著者が伝えたいことは、悩むことは自分の成長と、より正しい判断をするために必要なプロセスであるということです。著者は悩むことを、「思考を溜める」「哲学する」と表現していますが、現状を把握し、情報を集め、次の打ち手を考えるには時間が必要なのです。そうした時間は苦しく一見無駄に見えますが、自分の性格と思いを理解し、判断基準を明確にしていくことは自分を作り上げる必要な作業なのでしょう。
・思考を溜める・・あえてふらつくことである・・・「溜めらう」のは自分のためなのだ(p63)
そして悩んだ結果、次の打ち手としてタイトルのように「前向きにあきらめる」という選択肢もありえるのです。本当にやりたいこと、実現したいことに絞るために、それ以外はあきらめるということもあるでしょう。商売であれば、50種類ある商品を4種類に絞るという戦略もありえるのです。
日本のことわざに、「肉を切らせて骨を断つ」「損して得取れ」という言葉がありますが、大事なことを大事にすること、大事なことに集中すること、選択と集中でうまくいくことも多いのです。一方で、あきらめないということは、よく聞こえるかもしれませんが、逆に選択から逃げているということでもあるのです。
・小さな運を捨てることで、大きな運にめぐり逢う(p92)
それ以外の選択肢としては、著者は「一歩進む」と表現していますが、何もしないのではなく、ギリギリまで状況を見極めようとすることもありえるでしょう。「一歩進む」というよりも「保留する」という表現が正しいのかもしれません。日本人はどうしてもあきらめられない人が多いという前提で書かれた一冊のように感じました。もし、あきらめやすい人であれば、「一歩進む」を繰り返すことであきらめないという判断もありえるのだと思います。
いずれにしろ何を選択したにしろ何が正解となるのかは人それぞれであり、その結果を受け止めるのは自分なのですから、悩めるだけ悩んで決断したいものです。小川さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・途方に暮れる・・作戦変更を強いられることなのだ(p19)
・哲学はね、視点を変えることが大事なんです(p49)
・古代ローマの哲学者セネカは、怒りが収まらないなら、それまで待てという(p54)
・今昔物語集・・受領(ずりょう)は倒るるところに土をつかめ・・転んでも、足が折れても、心が折れても、何かをつかめばいい(p129)
・人から見れば勝ちではなくとも、自分自身の中に敗北がなければ、それでいいのではないだろうか(p147)
【私の評価】★★★☆☆(76点)
目次
第1章 あきらめる
第2章 ためらう
第3章 捨てる
第4章 降りる
第5章 開き直る
終章 邂逅
著者経歴
小川 仁志(おがわ ひとし)・・・哲学者・山口大学国際総合科学部教授。1970年生まれ。京都市出身。京都大学法学部卒業。名古屋市立大学大学院博士後期課程修了。博士(人間文化)。米プリンストン大学客員研究員(2011年度)。専門は公共哲学・政治哲学。商社、市役所、フリーターを経た異色の哲学者。「哲学カフェ」を主宰するなど、市民のための哲学を実践している。各種メディアでも積極的に発言。
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