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「入門経済思想史 世俗の思想家たち」ロバート・L. ハイルブローナー

2022/12/30公開 更新
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「入門経済思想史 世俗の思想家たち」ロバート・L. ハイルブローナー


【私の評価】★★★☆☆(75点)


要約と感想レビュー

 2001年出版された古い本ですが、「経済学」というものを俯瞰するために手にした一冊です。一般的にアダム・スミスといえば、「神の見えざる手」という言葉に象徴されるように、自由放任の資本主義者の代表というイメージです。確かにアダム・スミスは、生産・消費した量こそが国富であり、自由な経済活動を制約する制度は国富の増大を邪魔するものであると非難しています。「自由」よりもよい結果を生む「制約」を、考え出すことが難しいということなのでしょう。


 この本を読んでみると、アダム・スミスが評価されるようになったのは、その主張の「自由放任」のところだけを当時の資本家や政治家が引用したからです。一部を都合よく切り取って、それを誇張するのは現代社会と同じなのです。アダム・スミスは、道路や教育など公的投資が必要であることも指摘していますが、多く人は「自由放任」のところしか紹介しないのです。


・スミスは、私的セクターが引き受けない事業・・・道路と教育・・に対する公的投資の有用性を明確に認識していた(p109)


 19世紀には、マルサスが人口問題について、問題提起しています。人口は急激に増加しますが、食糧は土地に制約され、食糧や資源が不足すること予想されたのです。私達はこうした主張が、機械化や都市化、食糧生産技術の向上、出生率の低下などにより先進国では顕在化しなかったことを知っています。


 しかし、こうした人口問題については、ローマクラブが資源の有限性を指摘したり、実施に中国で一人っ子政策が行われていたことから論理的には正しそうに見え、それに対して人工的に対処したくなるということが課題なのでしょう。もちろん食糧不足の地域もありますから、人口が増えすぎると問題なのか、人口が減ると問題なのか、はたまた人工的に対処しようとすること自体が傲慢なことなのか議論は尽きないところです。


・農場では子供は資産となりうるが、都市では子供は債務である・・・このような状況は、マルサスの時代にはぼんやりとすらわからなかった(p150)


 もう一人興味を惹かれたのは、「共産党宣言」「資本論」を書いたマルクスでしょう。彼は金銭感覚のない貧乏な物書きでした。友人のエンゲルスが書いた戦争の記事に対し、「もう少し誇張しなけりゃだめだよ」などと軽口を叩いている事例を紹介しています。貧乏なマルクスは大英博物館に通いながら、資本家(ブルジョア)に一泡ふかせてやるために、暴力的な共産主義革命によって社会を転覆しよう!と、少し誇張させて「資本論」を書いていたのです。


 マルクスが書いたのは「社会主義」の過渡期には、「プロレタリア独裁」が行われ、その後に「純粋」共産主義となるであろう、ということだけで、ソ連や中国といった人民を圧迫する独裁国家が生まれることまでは書いているわけではありません。マルクスのプロレタリア革命のところだけを切り取って、一部の革命家がマルクスの主張をうまく活用したということなのです。


・(マルクスは)金銭欠乏状態にあった。だがマンチェスターにいたエンゲルスは・・マルクス家に小切手や貸し金を休みなく提供した。もしマルクスが折り目正しく金勘定のできる人物だったなら、家族は体裁を保って生活できていたかもしれない(p241)


 この本の最後の章で、著者は、「経済学は科学か?」と問いかけます。こうして読んでみると、経済学とはその時代の状況を分析し、一つの仮説やモデルに当てはめようとしていることがわかります。もちろん仮説やモデルが正確に予測できるはずもなく、その結果を知っている私達はその正しい部分だけを評価して現代社会で活用しているわけです。寒くなれば氷河期が来ると主張し、暖かくなれば温暖化と騒ぐ科学者と似ていると感じました。また寒くなればモデルを変えて、氷河期が来ると言い始めるのです。


 過去の思想家の原書をすべて読むのは現実的ではありませんので、こうした評判の良い本で、大枠をおさえていくことで理解を深めていくのが現実的なのでしょう。経済学については、評価するほど調査していませんので、あくまで書籍としての読みやすさで星3としました。ハイルブローナーさん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・アダム・スミスは友人に自分の蔵書を誇らしげに示しながら、「私は本だけを心の友としている」と、自らを評している(p70)


・スミスの時代には、・・・一人の母親から20人もの子供が生まれても、そのうち二人とは行きていないということも、珍しくはない」とスミスは言っている(p103)

・ソ連の侵攻が明らかにしたように、資本主義がその口実を提供していようがいまいが、征服と植民は続くだろう・・・王朝国家がもつ権力への渇望を理解するのは簡単なことである(p325)


・ヴェブレンの目に映った近代人は、・・カネを貯め込んだことと、それを見せびらかすこと・・・かつて戦利品の頭の皮を小屋の前にぶら下げたことの現代版となった(p377)


▼引用は、この本からです
「入門経済思想史 世俗の思想家たち」ロバート・L. ハイルブローナー
ロバート・L. ハイルブローナー、筑摩書房


【私の評価】★★★☆☆(75点)

目次

第1章 前奏曲
第2章 経済の革命―市場システムの登場
第3章 アダム・スミスのすばらしい世界
第4章 マルサスとリカードの陰鬱な予感
第5章 ユートピア社会主義者たちの夢
第6章 マルクスが描き出した冷酷な体制
第7章 ヴィクトリア期の世界と経済学の異端
第8章 ソースタイン・ヴェブレンの描く野蛮な世界
第9章 J.M.ケインズが打ち出した異論
第10章 シュンペーターのヴィジョン
第11章 世俗の思想の終わり?



著者経歴

 ロバート・L. ハイルブローナー (Robert L. Heilbroner)・・・1919年生まれ。ハーバード大学卒業。New School for Social Researchの大学院在学中に出版した『入門経済思想史』が大きな成功を収める。現在、同校教授


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