人生を変えるほど感動する本を紹介するサイトです
本ナビ > 書評一覧 >

「土と内臓 (微生物がつくる世界)」デイビッド・モントゴメリー

2021/05/11公開 更新
本のソムリエ
本のソムリエ メルマガ登録[PR]


【私の評価】★★★★☆(85点)


要約と感想レビュー

 この本が教えてくれるのは、化学肥料や農薬を使うことにより栄養価の低い野菜が増えてきたことと、抗生物質の使いすぎでアレルギーや喘息といった免疫系の病気が増えていることが、つながっているということです。化学肥料や農薬を使った農業は、短期では収穫量を増やしますが、土壌の微生物を殺し、養分を失わせ、土を固くしてしまい、生産性はだんだん低下していきます。


 抗生物質は短期では病原菌を殺し、致命的な病気を治療することができますが、免疫系をコントロールしている腸内細菌が死滅することで、免疫系の不調を訴える患者が増えています。つまり西欧の農薬・肥料と医療の抗生物質は表面的な問題を解決しようとして最も大切な「微生物」を殺すことによって、別の問題を作り出しているのです。


 例えば、1940年6月8日に『ネイチャー』誌に発表された論文では、学校が化学肥料で栽培した野菜から、化学肥料を使わない有機野菜に切り替えたところ、少年たちを悩ませていた鼻づまりが解消し、風邪やインフルエンザの発生も目に見えて減ったという。


・実験は、一世紀以上にわたり自家製堆肥を施した試験区で土壌の窒素含有量が三倍になっていることを示した。対照的に、化学肥料を施した区画に加えられた窒素は、雨水に流されるか地下水にしみ出すかして、ほとんど土壌から失われていた(p97)


 印象的だったのは、体内に存在する常在菌を維持することが、健康に大切であるということです。例えば、急性虫垂炎(盲腸)の原因となり、いらいない臓器と言われてきた虫垂は、下痢になって病原体や常在菌が排出された時に、常在菌を供給する役割をになっているのだという。同じように致命的な下痢となったときには、肛門から健康な人の便を移植することで、常在菌が再定着させて治療する方法もあるという。


 こうした抗生物質の使いすぎによる課題は数多いのです。他にも、細菌性膣症を抗生物質で治療すると一ヶ月後の治癒率は45~85%で、六ヶ月後には半数が再感染しますが、健康な人の常在菌であるラクトバチルスを移植すると一ヶ月後の治癒率が約90%になるという研究がいくつかあるという。


・1958年・・・健康な提供者から採取した便を致命的な下痢にかかった四人の患者に肛門から注入する、初の糞便微生物移植(FMT)を実施・・・四人全員が急速に回復・・・抗生物質に反応しない患者への最後の手段とされていた(p270)


 農薬や抗生物質は、短期の効果は高いのですが、長期的にはすべての微生物を殺してしまうため耐性菌の発生も含めて問題が多いとわかりました。農薬と化学肥料は初めはきわめて効果的だが、その効き目は急に低下し、望み通りの結果を得るために必要な量が増え続けるという点で、ヘロインのように依存性が高いとしています。致命的な病気でなければ、日本古来の有機堆肥や漢方など薬品を使わない対応で十分であるということなのでしょう。


 微生物の話は、葉緑体やミトコンドリアが対外から細菌を取り入れたものであるなど、どこまでも拡散していきます。本の厚さも含めて内容でお腹いっぱいになる一冊でした。モントゴメリーさん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・ペルー、中国、日本、インド、いずれの場合も生産性の高い農業を代々続けられる秘訣は、有機物を土地に戻すことにある(p100)


・健康な食事の鍵はバランスに多様性・・・そして精製炭化物をはずすこと・・といたってシンプルだ(p281)


・原生生物が好気性細菌を取り込みながら消化できなかったとき、新しい生物が誕生した・・・現在、取り込まれた好気性細菌の子孫はミトコンドリアの名で知られており、多細胞生物の細胞内でエネルギー供給源として働いている(p70)


・葉緑体は・・・日光を利用する細菌の末裔で、今日では光合成を行う生命体すべての内部に存在する。ミトコンドリア同様、葉緑体は植物の細胞核にあるものとは別に独自のDNAを持つ(p73)


▼引用は、この本からです


【私の評価】★★★★☆(85点)


目次

第1章  庭から見えた、生命の車輪を回す小宇宙
第2章  高層大気から胃の中までどこにでもいる微生物
第3章  生命の探究生物のほとんどは微生物
第4章  協力しあう微生物
第5章  土との戦争
第6章  地下の協力者の複雑なはたらき
第7章  ヒトの大腸微生物と免疫系の中心地
第8章  体内の自然
第9章  見えない敵細菌、ウイルス、原生生物と伝染病
第10章  反目する救世主コッホとパスツール
第11章  大腸の微生物相を変える実験
第12章  体内の庭
第13章  ヒトの消化管をひっくり返すと植物の根と同じ働き
第14章  土壌の健康と人間の健康おわりにかえて 


>


著者経歴

 デイビッド・モントゴメリー(David R. Montgomery)・・・ワシントン大学地形学教授。天才賞と呼ばれるマッカーサーフェローに2008 年に選ばれる。ワシントン州シアトル在住。


 アン・ビクレー(Anne Bikle)・・・生物学者。公衆衛生と都市環境および自然環境について活動している。ワシントン州シアトル在住。


にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村へ


この記事が参考になったと思った方は、
クリックをお願いいたします。
↓ ↓ ↓ 


人気ブログランキングへ


メルマガ[1分間書評!『一日一冊:人生の智恵』]
3万人が読んでいる定番書評メルマガです。
>>バックナンバー
登録無料
 

<< 前の記事 | 次の記事 >>

この記事が気に入ったらいいね!

この記事が気に入ったらシェアをお願いします

この著者の本 ,


コメントする


同じカテゴリーの書籍: