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「ミトロヒン文書 KGB(ソ連)・工作の近現代史」山内 智恵子

2021/03/10公開 更新
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【私の評価】★★★★☆(84点)


要約と感想レビュー

 ミトロヒン文書とは、1992年にKGBの第一総局で文書管理をしていたワシリー・ミトロヒンがイギリス大使館に持ち込んだメモです。KGBの中でも読む人が限定される機密文書から書き写したものでその一部が公開されています。ミトロヒン文書にはKGBから日本社会党への資金援助や政治家、マスコミの工作員の氏名、暗号名が記載されているのです。


 例えば、日米安保条約改正をめぐって起きた学生反対運動の高まりをKGBが絶好の好機と考え、「安保闘争」を盛り上げただけでなく、偽の日米安保条約附属書を作り、「日本はアメリカに支配されている!」「日本は海外に武力進出するのか!」と、政治不信と安保反対運動を煽ったというのです。


 もちろんこのミトロヒン文書自体がソ連による対日撹乱工作の可能性もあり、事実関係を確認する必要があるのでしょう。


・1970年2月26日、ソ連共産党政治局は、日本社会党の幹部および党機関紙への助成金として、十万兌換ルーブルの支払いをKGBに対して承認しました・・・今の1億8000万円弱に相当します。このような助成金が毎年支払われていたようです(p207)


 面白いのは、東京駐在で工作活動をしていたKGB情報将校レフチェンコが、亡命後の1982年に証言した内容とミトロヒン文書の内容で共通点が多いということでしょう。日本人協力者リストを見ると、政治家、新聞社、ジャーナリスト、財界人、学者、外交官と幅広く獲得していることがわかります。新聞やテレビを見ていると、なんでこんな報道をするのかといぶかしく思うことがありましたが、単に工作員が工作活動していると考えれば当たり前のことだと理解できます。


・ミトロヒンのメモによれば、KGBは読売、朝日、産経、東京の各新聞社の幹部クラス記者を少なくとも5人、工作員として獲得していました。朝日新聞のブリュム、読売新聞のセミョーン、産経新聞のカール(またはカルロフ)、東京新聞のフィージー、そして、大手紙の上席政治記者としか特定されていないオデキです・・・1970年代に最も重要だった新聞記者は、当時サンケイ新聞編集局次長で社長の個人的な相談相手でもあったカント(本名Y・T)(p214)


 トランプ大統領は「フェイクニュース!」とよく言っていましたが、アメリカも情報工作しているし、他国も情報工作している現状を知っているからなのでは?と思いました。ミトロヒン文書が事実なのかどうか検証することも大事ですが、各国、各勢力が工作員を通じて世論を誘導しようとしていることを理解することも大事なのでしょう。


 思ったより正しい情報を得ることは難しいと感じました。仕事でいえば、現場、現物、現実を把握するという基本が難しいのです。国際的な情報戦争の現実を再確認させてくれる一冊でした。山内さん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・プーチン大統領は2000年に大統領に就任した直後に二人の墓と記念碑に詣でているのですが、その二人とは、ユーリ・アンドロポフとリヒャルト・ゾルゲでした(p4)


・レーニンはコミンテルンに加入する世界各国の共産党に、非合法機構の設立を義務付けました。そして、各国共産党に、それぞれの国で非合法活動を行って戦争や内乱状態を引き起こすよう、コミンテルンを通じて指導していきます(p90)


・ソ連解体前の最後のKGB第一総局長によると、上が喜ぶように阿(おもね)った情報ではなく、率直な報告ができるようになったのは、なんと、ゴルバチョフが「グラスノスチ」を導入してからだそうです(p134)


・一方イギリスでは・・・キム・フィルビーが着々と出世していきます・・・1944年9月、共産主義の工作員摘発を任務とする第九部の部長になります。ソ連の工作員を摘発する事務局のトップが、ソ連の工作員だったわけです(p164)


▼引用は、この本からです


【私の評価】★★★★☆(84点)


目次

序章 ミトロヒン文書を知らずに現代史は語れない
第1章 ミトロヒン文書とは何か
第2章 KGB対外工作の歴史(1)チェカーを形作ったもの
第3章 KGB対外工作の歴史(2)大テロルから終戦まで
第4章 KGB対外工作の歴史(3)西側の逆襲
第5章 ミトロヒン文書と日本―戦後の対日工作
第6章 帝国の終焉



著者経歴

 山内智恵子(やまのうち ちえこ)・・・1957年東京生まれ。国際基督教大学卒業。津田塾大学博士後期課程満期退学。日本IBM株式会社東京基礎研究所を経て現在英語講師。2013~2017年まで憲政史家倉山満氏、2016年から評論家江崎道朗氏のアシスタント兼リサーチャー(調査担当者)を務める。特に近年は、アメリカのインテリジェンス・ヒストリー(情報史学)や日米の近現代史に関して研究し、各国の専門書の一部を邦訳している


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