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「食べることと出すこと」頭木弘樹

2020/12/03公開 更新
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【私の評価】★★★★★(95点)


要約と感想レビュー

潰瘍性大腸炎とは

潰瘍性大腸炎になった著者のエッセーということで、安倍元首相の病気を学べるなぁと思い、手にした一冊です。潰瘍性大腸炎の患者数は日本では20万人で、欧米では日本の十倍程度の発症率らしいのです。


潰瘍性大腸炎は発症すると、下痢と下血が続き、投薬しながら症状が収まるまで食事制限することになります。仮に、症状が収まっても刺激のあるものを食べればすぐに再発する可能性がある。そうした恐怖の中で食材を気にしながらの生活が延々と続くのです。


・私は13年間、ずっと「豆腐と半熟卵とササミの日々」だった(p76)


潰瘍性大腸炎に治療法はない

潰瘍性大腸炎という難病となった著者の闘病エピソードと、著者の心の動きが秀逸なのです。例えば、下痢が続くという特殊な病気ゆえに病院でもらしてしまった。看護婦さんにお湯と布巾をお願いしたら、バケツと雑巾を渡されたとか。断食治療中には、何か食べたくて口でもぐもぐして、その後、口から出してしまうことも試したが、頭がカッカッと混乱してしまうとか。友人と食事に出かければ、食べられない食材なので食べないと、わかっているはずなのに、「ちょっと食べてみたら・・」と親切心なのか圧をかけてくるとか。


潰瘍性大腸炎の根本的な治療法は確立されていませんが、手術で症状を大きく改善したり、効果的な薬があるのだという。ただし、良い薬は免疫を弱めるので、潰瘍性大腸炎を治そうと薬の量を増やすと免疫が弱くなって他の病気になってしまう。安倍首相もこうした難病の不安と付き合いながら政治判断をしてきたのだな、と想像していました。


・看護婦さんがいかに下の世話で大変か、かいま見るだけでもかなり驚き、こんな仕事を引き受けてくれるとは、本当に天使としか思えないと感嘆したものだ(p144)


努力は万能ではない

気楽に手にしたのですが、著者の病気と心の描写に圧倒されました。よく「努力は裏切らない」と言われますが、治らない病気になると、「努力は万能ではない」ということをいやでも認識することになるのです。ひきこもっていた期間が長くなればなるほど、外に出るということは、とても困難になるとの記載もあり、その困難さは経験しなければわからないのでしょう。


著者は介護されているとき、おいしそうに食べる人がよしとされるところがあり、それが圧力となっていたという。そのため、無理しておいしそうに食べている人がけっこういるというのです。心の問題というのは、いろいろあるとわかりました。新しい世界の見方を教えてくれる一冊ということで、★5としました。頭木さん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・なぜ、「漏らすこと」だけが、そこまで人に心理的ダメージを与えるのか・・・恥をかくと、服従しやすくなる(p149)


・難病を発症する前、私は急に精神状態がおかしくなっていた・・・なんだか心がすさんで、誰かとケンカをしたくてしかたがなかった・・・病後は身体が弱くなったために、身体の心の影響を強く感じるようになった。なんだか腹を立てやすかったり、悲しかったり・・・(p264)


・私が世間話として軽く「手術のとき痛くて・・」という話をすると、驚いたことに、そのおじさんが、急にぽろぽろと涙をこぼし始めた。そのおじさんは、アルコール依存症でもあり、そのせいで麻酔がうまく効かなくて、やはりかなり痛かったらしい(p234)


▼引用は、この本からです

頭木弘樹、医学書院


【私の評価】★★★★★(95点)


目次

はじめに 「食べて出す」ことが、あたりまえでなくなったら?
第1章 まず何が起きたのか?
第2章 食べないとどうなるのか?
第3章 食べることは受け入れること
第4章 食コミュニケーション――共食圧力
第5章 出すこと
第6章 ひきこもること
第7章 病気はブラック企業
第8章 孤独がもれなくついてくる
第9章 ブラックボックスだから(心の問題にされる)
第10章 めったにないことが起きる/治らないことの意味
あとがき 白石さんとホワイトボード



著者経歴

頭木弘樹(かしらぎ・ひろき)・・・文学紹介者。筑波大学卒業。大学3年の20歳のときに潰瘍性大腸炎を患い、13年間の闘病生活を送る。


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