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「日本の「水」が危ない」六辻 彰二

2020/08/13公開 更新
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【私の評価】★★★☆☆(74点)


要約と感想レビュー

 水道事業について興味があったので、手にした一冊です。2018年に水道法が改正され、水道事業への民間企業の参入が期待されています。


 赤字の水道事業に対し、民間参入により人件費を削減し、運営も創意工夫を取り組むことでコスト削減を狙ったものなのでしょう。民間となれば赤字はありえませんので、水道料金も合理的なものとなることが予想されます。


・日本で初めて下水処理場の経営にコンセッション方式を導入した浜松市は、市の直営と民間事業者による運営で20年間にかかる経費を、それぞれ約600億円、約513億円と試算しており、これによって約86億円以上の経費が浮くと見込んでいる他、事業者から経営権の対価として25億円を受け取っている(p51)


 水道事業の民営化は、世界では実績が数多くあります。課題があるとすれば、水道料金が上がった。水の品質が悪化した。といった事例があるようです。


 コスト削減をしようとすれば、水質が悪化するリスクがあり、メンテナンス費用を下げれば漏水率が上がるリスクがある。さらに予想以上に費用がかかれば水道料金を上げることになるわけです。


・アトランタでは1999年、コンセッション方式に基づき、フランスのスエズが出資するユナイテッド・ウォーターに水道事業を委託した。しかし、ユナイテッド・ウォーターにもとで水道職員が4年間で半減されたため、安全対策に手が回らなくなり、茶色く濁った水道水が出るようになった。そのため、ユナイテッド・ウォーター自身が水道水の煮沸を呼びかけただけでなく、毎年のように水道料金が引き上げられた(p68)


 結論としては、公営か民営かという議論よりも、経営力の有無だったり、公益事業としてお客さまに納得してもらうコミュニケーション力が必要なのだと思いました。


 民間でも品質が下がることもあるし、結果的に水道料金が上がる場合もある。それをどう折り合いをつけるのか、ということです。


 現状の赤字の公営のままでは将来を見通せない中で、このまま税金で穴埋めしていくのか、民営化してみるのか、そこは政治判断なのでしょう。


 六辻さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・日本の場合、水処理の機器やろ過素材の開発といった技術分野に強い企業は多いが、公営が長かったため、水道事業の経営そのものにノウハウや実績を持つ企業がほとんどない(p56)


・東京の水道における漏水率は3.6%で、当時ヴェオリアが水道を経営していたベルリン(5.0%)や、完全民営化を果たしていたロンドン(26.5%)を抑えて一位だった(p111)


・民間の技術・人員だけでなく資金も活用する仕組みとして、プライベート・ファイナンス・イニシャチブ(PFI)がある・・・民間企業は性能発注に基づく経営の主体として、大きな裁量が認められる。契約が20年前後の長期間であることも手伝って、PFIにはコスト削減の効果が大きいといわれる(p28)


・フランスでは1980年代にコンセッション方式が普及し、フランス環境省によると2010年段階で上水道の約30%(人口の75%)、下水道の約24%(人口の50%)が民間企業によって運営されている(p62)


・発展途上国での水ビジネスは1990年代に一気に加速した。例えば、ラテンアメリカだけでも、1990年代から2006年までの間の水道事業への民間参入の案件は少なくとも163件にのぼり、このちコンセッション方式は101件を占めた。その多くは、当然のように古い歴史と豊かな財源・ノウハウをもつ欧米の水企業によって落札された(p35)


・水道事業への民間参入が必ずしも多くない大きな理由は、多くの政治家やエコノミストが強調するほど、民間企業の参入によるコスト削減やサービス向上の効果が上がらなかった・・・多くの統計的な調査は民間委託の効果を裏付けていない(p67)


・PPP(官民連携;パブリック・プライベート・パートナーシップ)発祥の地イギリス首都ロンドンでは、1990年代に赤痢患者が急増した。最近では2018年12月、イギリス南西部のコッツヲルズで、テムズ・ウォーターが環境規制に違反して汚水を河川にそのまま流し、自然環境を損ねたとして、裁判所から200万ポンドの罰金を命じられている(p40)


・パリ市は水道事業を委託していたヴェオリアやスエズへの監査を強化し、事業者の請求金額が経済的に正当化される水準より25~30%高く設定されていたことや・・・コストが実態以上に膨らんで水道インフラのメンテナンスが遅滞していたことが発覚した・・・パリ市は2010年、ヴェオリアとスエズのコンセッション契約終了にともない、水道事業を公営に戻した(p65)


・フィリピン・・・1997年には26%に過ぎなかった24時間水道を利用できる住民の割合が、2006年には99%に至った・・・1997年から2008年までの間に下痢発生の割合が51%下落するなど衛生環境が改善した一方、漏水率は1997年の63%から2011年には11.2%にまで下落した・・・水道料金も、1997年から2008年までに1000%以上高騰したと推計している(p80)


・ボリビア・・・アメリカの水企業ベクテルの現地法人アグアス・デル・トゥナリ・・・所得に応じた住居区ごとに異なる料金体系を導入したうえで、水道料金を平均35%引き上げた(p84)


・大口利用者も年々減少している。さらに、大口利用者のなかには料金が割高になりやすい水道を嫌い、私設の専用水道を導入するケースまである・・・自治体にとってその不足分を小口の一般利用者に転嫁することはハードルが高い(p117)


・水道事業を持続的なものにするうえで重要なことは、公営か民営かという経営主体の問題ではなく、水道事業を監督し、ムダを排除するための情報の透明性や説明責任を向上させる、いわゆるガバナンスの改善である(p236)


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▼引用は、この本からです

六辻 彰二、ベストセラーズ


【私の評価】★★★☆☆(74点)



目次

第1章 なぜ、いま「水道法改正」なのか
第2章 「水道民営化」で成功・失敗した世界の事例
第3章 日本の水道水は安くて安全?
第4章 日本の水市場を狙う海外水メジャー
第5章 水道法改正10年後の日本の水はこうなる!


著者経歴

 六辻 彰二(むつじ しょうじ)・・・1972年生まれ。国際政治学者。国際政治、アフリカ研究を中心に、学問領域横断的な研究を展開。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。


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