「地図と領土」ミシェル・ウエルベック
2020/07/02公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(84点)
要約と感想レビュー
■タイトルの「地図と領土」は、
この小説の主人公ジェドが、
最初に開いた個展が
「地図は領土よりも興味深い」
だったからです。
ジェドは、ミシュランの地図を
拡大して写真に撮り、
芸術家として成功者となります。
写真一枚が20万円程度で売れる
「市場価格」がついたのです。
その後、主人公ジェドは画家に転向し、
前回同様プロのマーケッターの協力を
得て、個展を成功させます。
ジェドの絵画は30億円で売れたのです。
・もちろん、19世紀の印象主義水彩画には、実に美しい作品があったでしょう。でも、もし今日、この景気を表現するとしたら、ぼくは単に写真を撮ります。反対に、背景の中に人間がいるとしたら、農夫が遠くで柵を直しているというだけのことだったとしても、きっとぼくは絵画を選びたくなるでしょう(p127)
■この小説の面白いところは、
芸術家として成功した主人公ジェド他、
経済的に成功したものの自分のやりたいことを
できなかったジェドの父親、
キャリアウーマンとして成功を目指す恋人、
成功しているが孤独な小説家などの
出演者を通じて現代フランス社会を
斜に構えて表現していることでしょう。
金持ち外国人を受け入れるフランス社会。
ミシュランなど大企業の影響力。
すべてをお金で評価される資本主義社会。
人生のほとんどを会社人間として生きる
フランス人。
そうしたフランス資本主義社会を
芸術家の人生という資本主義の異端とも
いえる職業を通じて表現しているのです。
・父親を見ていて理解できたのは、人間の存在は〈仕事〉を中心に組織されるものであり、仕事の規模はさまざまであるにせよ、それこそが人生の最重要部分を占めるということだった。勤労の歳月が過ぎれば、それよりは短い、諸々の病気の進行によって特徴づけられる時期がはじまる(p92)
■作者はフランスの有名な作家らしいが、
田中康夫の「なんとなくクリスタル」を
思い出しました。
「なんクリ」は当時のバブルの生活を
揶揄した一冊でしたが、この本は
現代の資本主義社会を揶揄しているのです。
芸術家として金持ちになったが、
芸術とは何なのか。金とは何なのか。
仕事とは何なのか。家族とは何なのか。
命とは何なのか。
あまり考えすぎないほうが
幸せに生きられそうです。
ウエルベックさん、
良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・フランス人にはもはや、フランスでヴァカンスを過ごすだけの経済力がなくなっていることに、会社は早いうちから気づいていた。昨年フレンチ・タッチ(旅行エージェント)が実施したアンケートによれば、顧客の75%は中国、インド、ロシアの三か国が占めていた(p55)
・二人から数メートル離れた席では、中国人一家がゴーフルとソーセージをむさぼり食べていた。元来、このシャトーホテルで朝食にソーセージを出すようになったのは、タンパク質豊かなボリュームのある朝食を願う、伝統順守のアングロサクソンの観光客たちの希望に合わせるためだった(p88)
・フランスの田舎でよそ者はいつになったら受け入れてもらえるのかと問うならば、受け入れられることは〈決してない〉といのが答えである・・・彼らにとってパリジャンは、ほとんど北ドイツやセネガルから来た人間と同じ程度によそ者なのだ。そして彼らは何といっても、よそ者が好きではない(p372)
・レストラン関係者たちはセレブを好む・・・セレブが来る店であるということが、頭の空っぽなお金持ち連中にとって本物の誘引力を及ぼすと知っているからだ・・・そして一般的にセレブはレストランを好むから、レストランとセレブのあいだにはごく自然に、一種の共生関係がなりたつ(p72)
・芸術家をめざしているという人間に何人も会ったことがある。皆、親に養ってもらっていた。そのなかで成功を収めた者はひとりもいなかった。おかしな話さ、表現への欲求、この世に自分の足跡を残したいという欲求は強力なものであるはずだ。ところが一般的にいって、それだけでは十分ではない。いちばんの動機、自分の力を超えたろころまで人間を引っ張っていく強力な力、それはやっぱり、単に金銭的な欲求なんだよ。(p33)
・世界を芸術によって表象することが可能だと自分に思わせたものはいったい何だったのかと彼は一瞬、考えた。世界は何であるにせよ、芸術的感動の主題ではありえない。世界は、魔術的要素も特別な興味も欠いた、ひたすら合理的な装置としての姿を現していた(p247)
・ウィリアム・モリスか・・・ほら・・・モリスの物の見方が多少わかりますよ。1889年にエジンバラで行われた講演の一節です・・・ようやくすればわれわれの芸術家としての立場は以下のとおりである。われわれは商業的生産によって息の根を止められた職人仕事の最後の代表者なのだ(p241)
・コントが何といっているか、ご存知でしょう・・・人類は生きている人間よりも大勢の死んだ人間から成り立っているというのです。いまやわたしはそこまで来ているのですよ。死んだ人間ともっぱらつきあっているのです・・・ローテーブルにはトクヴィルの『回想録』の古い版が置いてあった(p238)
・セックスしたのだろうか?おそらくしていない・・・こんなふうにためらいを覚えるということもまた不安を誘う要素であり、終わりが近いことを告げているのかもしれない。性行動とは脆弱なものである。入るのは難しく、出るのはたやすいのだ(p229)
・「週末、どこかに行こうか」・・・その手のカップルはいずれ難しい時期が訪れたときのために〈美しい思い出〉を蓄えておきたいと願っているのだし、そうした思い出があればカップルの〈危機〉さえ乗り越えられるかもしれないのである(p82)
▼引用は、この本からです
ミシェル・ウエルベック、筑摩書房
【私の評価】★★★★☆(84点)
目次
第一部
第二部
第三部
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