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「ミルトン・フリードマンの日本経済論」柿埜 真吾

2020/02/13公開 更新
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【私の評価】★★★★☆(89点)


要約と感想レビュー

 財政赤字にしても公共事業を拡大して景気を支えるのがケインジアンです。増税して国の収入、支出を増やしていく財務省の考え方に近いのでしょう。その一方で、貨幣供給量を重要視して民間活力に期待するフリードマンのような人を、マネタリストというらしい。


 フリードマンは国の公共事業は、生産性の低いインフラ投資が多く短期的には良くても、長期的には債務を増やして問題を残すとしています。確かに国の支出は、国に依存する人を増やすだけで百害あって一利しかないように感じます。


・フリードマンは日本の財政刺激策を有効でなかったばかりか、それ自体、問題をもたらしたと主張する・・・財政刺激策と呼ばれるものの大半は、非常に生産性の低いインフラ建設に関わるものである・・これらは日本に巨額の長期債務を残したが、日本が高齢化社会を迎えるにつれて、深刻な問題になるだろう(p144)


 特に、バブル経済の崩壊から失われた20年は、日銀の貨幣供給量が不十分だったとしています。消費税増税を続けるなかで、貨幣供給量を増やさず、無駄な公共事業を増やすだけだったのです。


 貨幣供給量という視点は、モノポリーのようなゲームでいえばプレーヤーが持っている貨幣や不動産の量のことでしょう。貨幣供給量が減ると経済活動が停滞する。貨幣供給量が増えると経済が活発化するのは、直観的に当然のように感じます。


・1991-1999年のハイパワード・マネーの成長率は5.2%にすぎず、1980-1990年の平均7.9%を大きく下回っている。貨幣の伸びの低下を容認し続ける日銀に、フリードマンは・・1994年のインタビューでは、日銀の金融政策の失敗がバブルとその急激な崩壊を招いたとし、「これは遠目の批判かもしれないが、日銀は誤りを正すのが遅くて、そのためにリセッションを長引かせ、深刻なものにしてしまったように思われる」と述べている(p132)


 フリードマンは徴兵制廃止、変動相場制導入、働くだけ収入が増える生活保護などを提唱してきました。フリードマンとは社会を観察して、仕組みが正しければ、自然と人間がそこに適応していくという考え方のように思えました。


 もう少しフリードマンについて調べてみます。柿埜(かきの)さん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・人々の消費水準が現在の所得ではなく、将来得られると予想される平均的な所得(恒常所得)に依存する(p30)


・1974年頃の日銀の幹部は「『カネが増えると物価が上がる』という単純な真理」を軽視したことによる大インフレの失敗を反省し、マネーサプライ重視の金融政策の必要性を理解していた(p105)


・バブル経済批判・・・すべては1987年のルーブル合意に起因する・・ドルを買い支えた。この結果、日本の貨幣量は10%以上のスピードで増加、これが景気過熱と地価、株価のバブルを煽ることになった。慌てた日銀は引き締めに転じたが、「やり過ぎたのですよ。通貨供給量の増大に対して、ブレーキを強く踏み過ぎたわけです(p130)


・フリードマンは、日本政府の対応を「彼らは拡張的金融政策を伴わない拡張的財政政策で時間と金を無駄にしている」と揶揄した・・フリードマンは、中長期的には政府支出拡大はむしろ有害で、小さな政府こそ経済成長をもたらすと考えていた(p142)


・2013年以前の日銀関係者には、当時の日銀の失敗を認めまいとする風潮が強いように思われる。だが、貨幣量の急落を警告し、ハイパワード・マネー拡大を求めていた経済学者は、鳩中雄二・三和総合研究所主任研究員、岩田規久男・上智大学教授や原田泰・郵政省郵政研究所第二経営経済研究部長をはじめ、決して少なくなかった(p157)


・フリードマンは消費税には大きな政府につながりやすい傾向があることを警告していた・・増税による財政再建よりも社会保障改革を通じた歳出削減による財政再建のほうが成功する可能性が高く、経済への負担も小さい(p216)


・1968年・・フリードマンはニクソン大統領の経済アドバイザーに加わった・・若者の職業選択の自由を奪い、適性のない学生を無理やり採用する徴兵制は極めて非効率だというフリードマンの議論に最終的には全員が説得されたのである(p36)


・ベーシックインカムも、じつはかつてフリードマンが提唱した画期的な貧困対策、負の所得税を発展させたものである。従来の生活保護制度は、受給者が働くと、その分給付額が減らされてしまうため、受給者の就労を妨げてしまう欠点がある・・・フリードマンは受給者自身の稼ぐ所得が増えるにつれて、収入も増えていく仕組みを導入すれば、貧困層の生活を助け、自立を支援できるはずだと考えた(p42)


・変動相場制・・・フリードマンは投機の積極的な役割を指摘し、為替の変動自体は悪ではないことを明らかにした。為替レートを不安定化させる投機とは外貨を高いときに買い、安いときに売るような取引であり、通常、投機家に損失をもたらす。成功する為替投機は将来の変化を正しく予想し、むしろ為替レートを安定化させる働きを持つものである(p68)



柿埜 真吾、PHP研究所


【私の評価】★★★★☆(89点)


目次

ミルトン・フリードマンの生涯
フリードマンの貨幣理論
フリードマンの日本経済論
日本の金融政策―固定相場制下の金融政策
狂乱物価から物価安定へ
日米貿易摩擦とフリードマン
バブルの崩壊と金融政策
日本の構造問題へのフリードマンの見解
量的緩和のための闘い
実証主義者としてのフリードマンの一貫性
フリードマンの遺産



著者経歴

 柿埜真吾(かきの しんご)・・・1987年生まれ。2010年、学習院大学文学部哲学科卒業。2012年、学習院大学大学院経済学研究科修士課程修了。2013‐2014年、立教大学兼任講師。現在、学習院大学大学院経済学研究科博士後期課程。


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