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「トクヴィルが見たアメリカ: 現代デモクラシーの誕生」レオ・ダムロッシュ

2019/11/06公開 更新
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トクヴィルが見たアメリカ: 現代デモクラシーの誕生


【私の評価】★★★☆☆(78点)


要約と感想レビュー

 トクヴィルとは何者なのでしょうか。トクヴィルは1800年代、フランスの貴族として生まれ、大学を卒業し司法官となります。しかし、フランス革命の影響で処刑されそうになり、あやうく政変で生きながらえます。トクヴィルは政府への忠誠心を追求されることを恐れ、友人のボモンと共にアメリカの刑務所を調査するという名目で18カ月(のちに9か月に短縮)の調査旅行を提案し、アメリカを旅することになったのです。


 そこで見たアメリカ合衆国は王政も官僚も軍隊もない、個人主義と拝金主義の新しい民主国家でした。当時のフランスでは、当局の許可をもらわないかぎり、20人を超える集会はいっさい禁止だったにもかかわらず、アメリカの憲法では「人民が平和的に集会し、不平のもとを正すよう政府に請願する権利」が明確に記載されていたのです。トクヴィルの疑問は、フランスのような中央政府の指統制のない中で、アメリカ人の独立と個人主義がどうしてひとつにまとまるのかを理解することでした。


 当時のアメリカは領土を西方へと拡大し、いつの日か内戦によって国がバラバラになるのではと予想されるほど、階級間・地域間・人種間の関係が緊迫していたのです。例えば、労働者の日給が一ドルだった時代に、ニューヨークには二人の億万長者がおり、所得税はなく、その価値の1%が課せられる財産税が徴収されていました。


・(アメリカとは)対照的に、革命後のフランスでは当の「デモクラシー」という言葉が、暴徒支配を連想させるものとして悪評を買っていたうえ、国王と強力な中央政府と巨大な軍隊が存在し、立法府の選挙で投票できる有権者の数も微々たるものだった(p17)


 当時のアメリカのビジネスモデルはインディアンの土地を安く買いたたき、農地として開墾し、値上がりしたら売却して西に向かうというものでした。西の土地にいるインディアンには土地を引きかえにいくばくか金を払いますが、インディアンは酒におぼれ得た金も生活も失うのです。誠実(ナイーブ)なインディアンを酒と金と力で欺くことは、西欧人にとっては簡単なことだったのでしょう。


 トクヴィルの分析では、スペイン人は残虐行為によってインディアンを支配しようとして失敗しましたが、アメリカ人は合法的にインディアンの人間性の法則を尊重しつつインディアン社会を破壊することに成功したのです。


 また、当時は黒人と有色人種はつねに差別され、ホテルも劇場でも汽船でも、白人からずっと離れた席を設けられ、商取引からは排除されていました。ミシシッピ州の上院議員は、「すべての人間は平等です。もちろん白人のことですが。独立宣言の意味する範囲では、黒人は人間ではありません」と公言していたのです。


・彼ら(インディアン)と触れ合ったすべての人が、彼らの誠実さ、善意、寛大さを称讚することに同意します。確かに、彼らと取り引きするヨーロッパ人にも大きく優った点がひとつあるにはあります。ただしそれは彼らのことを絶えず欺くという点においてなのです(p123)


 こうしたアメリカ旅行の経験から中央集権化に反対するトクヴィルは、1849年にはフランスの外務大臣となっていますが政権は短命となり、米国流の政治は実現はできませんでした。フランス革命後の政治体制が不安定であったなかで、アメリカが民主制が一つの理想としてトクヴィルの参考となっていたのでしょう。


 面白いのは当時のフランスとアメリカの恋愛観の違いです。フランスでは、結婚は通常家族間で取り決めされていたのに、アメリカ人は自由恋愛で、個人の選択で結婚していたのです。また、フランス人から見ると、アメリカ人に一般女性の堅い貞節さに驚き、その一方で、数百の売春宿が商売として繁盛していることに驚いたのです。


 その後のアメリカは南北戦争を経て、奴隷制を廃止し、平等と自由という民主主義を形作っていきます。もう少し1800年代について調べてみたいと思います。ダムロッシュさん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・当時の抜け目ない農民は保有地を売却し、西へと移住して森の外に新しい農場を切り拓き、再び値が上がるのを待つ・・・西への移住は未来永劫続くはずだった。というのは、そこでは土地をさらに安く買うことがつねに可能だったからである(p95)


・アメリカ人の国民性を深く調べれば調べるほど、彼らが地上のすべてのものの価値をこの唯一の問いに応じて決めていることが分かる。それはどれだけお金を生み出すか、である(p50)


・トクヴィルが認識したのは、アメリカの選挙運動は異常なほど対決的で、フランスには存在しないような出版の自由によって煽り立てられていることだった(p61)


・ボモンは強い反商業的な偏見をもっていたので、知事が恥ずかしげもなく自分の兄弟は食料雑貨店主でいとこは行商人だと言ったことに驚いた(p88)


・最高裁判所の陪席判事ジョン・マクレーン・・われわれは連邦という仕組みによって、小国のもつ幸福と大国のもつ勢力を兼ね備えているのである(p177)


・「自由な土地」であるオハイオ州の側はきちんと耕作されて栄えているのに対し、ケンタッキー州の側は手入れが行き届かずみすぼらしいという事実・・・ケンタッキー州は奴隷制の支配下にあって、オハイオ州はそうでないということです(p178)


トクヴィルが見たアメリカ: 現代デモクラシーの誕生
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【私の評価】★★★☆☆(78点)


目次

第一章 トクヴィルの来歴
第二章 第一印象──ニューヨーク市
第三章 「すべてがあたらしい世界の証明である」
第四章 森のロマンス
第五章 ボストン──精神の状態としてのデモクラシー
第六章 フィラデルフィア──寛容の精神、結社の伝統、禁獄の実情
第七章 「西部」のデモクラシー
第八章 ニューオリンズを目指して
第九章 馬車で南部を往く
第十章 期待はずれの首都
第十一章 名著の完成
第十二章 アフター・アメリカ



著者経歴

 レオ・ダムロッシュ (Leo Damrosch)・・・1941年比マニラで米国聖公会宣教師の子として生まれる。幼少期をフィリピンで過ごし、1950年に家族とともに米メーン州へ。イェール大を卒業したのち、英政府マーシャル奨学生としてケンブリッジ大トリニティ・カレッジに留学。その後、プリンストン大で博士号を取得した。1989年にハーヴァード大に着任し、現在、ハーヴァード大名誉教授。本書のほか、ルソーの伝記Jean-Jacques Rousseauで知られ、同書は全米図書賞の最終候補となった。


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