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「ローマはなぜ滅んだか」弓削 達

2019/06/11公開 更新
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ローマはなぜ滅んだか (講談社現代新書)


【私の評価】★★★☆☆(71点)


要約と感想レビュー

異民族を排斥したときローマは衰退した

ローマ史の専門家である著者が、編集部からの「ローマはなぜ滅んだか」というテーマに対して回答した一冊です。専門家の立場から言えば、ローマ滅亡には多くの要因があり、そんなに簡単には答えられないのです。


ただ、現代と同じように異民族を取り込み拡大したローマにも、異民族を排斥する気分はあったのです。例えば、カルタゴとローマは対立しており、ローマでは反カルタゴをとなえれば愛国者として人気が出たのです。「カルタゴを滅ぼせ」というのが、ローマの右翼の合言葉だったのです。


ローマは周辺諸国に侵攻し、その地域をローマの属州としてローマに取り込みました。いわゆるグローバル化です。優秀な原住民は、軍人や政治家として抜擢、優遇されるのですが、その反動として有能な異民族への反発もおこります。これが異民族の排斥です。


興味深いのは、優秀な異民族(ゲルマン人)を排斥したときに、ローマが衰退したということです。著者は、優秀な異民族がローマから排斥されることによってローマが弱体化し、周辺勢力が相対的に力を持つようになったと仮説を述べています。


(ゲルマン人の)スティリコ処刑・・・ローマ人兵士がローマ在住の(ゲルマン人)同盟部隊の家族の殺戮の挙に出たのである・・ゲルマン人なるがゆえに排斥すれば、政府によい人材は集まらない・・・西(ローマ)にとって大きな損失を意味した(p209)

ローマ帝国時代の主産業は農業

歴史の評価とは、状況証拠からの推測であり、難しいものだと感じました。異民族を排斥したから衰退したのか、衰退したから異民族を排斥したのか。状況が同じであれば、同じような結果が生まれるのか、人の考え方も技術も違うのだから結果は異なるのか。まだまだ歴史を学び続ける必要があるようです。


ローマ衰退の原因よりも、ローマの実態のほうが面白く読めました。例えば、ローマでは多数の奴隷を使ってぶどうやオリーブを栽培する奴隷制大農場や、大牧畜経営をイタリアで展開したということ。五、六世紀の時代にあって、農業と商工業の収益の比率が、20対1ほどであり、ローマ帝国時代の主産業は農業であり、大部分の市民は農民であったということ。都市の富裕層や有力者は地主で、地代から富を得ていたのです。


また、現在の日本の消費税は10%ですが、ローマの属州への課税の最大の収入源は、各州への農産物に対する十分の一税だったのです。この税金を騎士が徴収を請け負い、大きな権益となっていたという。普通のローマで暮らす人は、その日暮らしの貧農だったのです。


そして現代と同じように年金の考え方があって、ローマ市で、ローマ市民一人がみっともなくない程度の生活できる費用は、年2万セステルティウス(500万円)と奴隷二人だったというのです。弓削さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・ローマ元老院議員と騎士のもう一つの収入源は、属州の都市や従属王に対する貸付金の利息であった。・・・利息は年率12%と規制されたこともあったが、ほとんど守られたことはなく、ブルートゥスについては48%の利息をとったことが伝えられる・・この時代、イタリアでの金利は5%が標準であったから、これは正に高利貸であった(p81)


・ネロは、アフリカ州の半分を所有した6人の地主を殺してその土地を全部手に入れた・・・カリグラ帝(在位37~41)はガリアにいたとき・・富裕者数人を選んでそれらに死刑を課し、その財産を没収・・(p118)


・タキトゥスはここで、平和とは、凶暴性をやわらげ、不精の心をつくり出し、勇気と独立と自由の精神を失わせるもの、と考えている(p192)


▼引用は下記の書籍からです。
ローマはなぜ滅んだか (講談社現代新書)
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弓削 達
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【私の評価】★★★☆☆(71点)


目次

権勢の絶頂にあって没落の日を思う
現代世界との構造的類似性
ローマ帝国の繁栄とは何か
「そのとき人類は最も幸福であった」
すべての道はローマに通ず
最大の富豪―皇帝
「食べるために吐き、吐くために食べる」
性の自由を謳歌して
ローマを支えたゲルマン出身者
「周辺」と「中心」の逆転をうけいれられるか



著者経歴

弓削達(ゆげ とおる)・・・1924年、東京に生まれる。東京商科大学(現、一橋大学)卒業。専攻は経済史、古代ローマ史。経済学博士。神戸大学・東京教育大学助教授、東京大学教授、フェリス女学院大学学長などを歴任。


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