人生を変えるほど感動する本を紹介するサイトです
本ナビ > 書評一覧 >

「二十世紀から何を学ぶか〈上〉1900年への旅 欧州と出会った若き日本」寺島 実郎

2019/05/27公開 更新
本のソムリエ
本のソムリエ メルマガ登録[PR]

二十世紀から何を学ぶか〈上〉一九〇〇年への旅 欧州と出会った若き日本 (新潮選書)

【私の評価】★★★☆☆(79点)


■TBSサンデーモーニングの
 コメンテーター寺島 実郎(じつろう)氏は
 どのような歴史認識を持っているのか
 知るために手にした一冊です。


 この本の内容は寺島さんが1997年に
 米国三井物産ワシントン事務所長から
 三井物産業務部総合情報室長に
 異動してから2年間で書いています。


 寺島さんの20世紀は、
 資本主義と社会主義が対立した
 世紀であったというものです。


・二十世紀は「社会主義」に悩み抜いてきたともいえる。
 特に、欧州は東からソ連・東欧という社会主義圏の
 圧力を受け、それぞれの国の社会主義・共産主義
 勢力の攻勢を内包しつつ20世紀を駆け抜けてきた
 わけで、その点がアメリカと決定的に異なる。
 アメリカは、骨の髄まで20世紀資本主義の総本山(p70)


■アメリカが長かったせいか、
 寺島さんには欧米人の考え方が
 よくわかるのでしょう。


 欧米人は技術を開発し、
 戦争を繰り返し、
 植民地を作りました。


 その一方で、欧米人は
 市場経済を作り、民主主義を作り、
 グローバル化を推進しています。


 世界とは平和を愛する諸国民ではなく
 自らの利益の最大化を考える
 野生の平原なのかもしれません。


・『レ・ミゼラブル』・・欧米人は
 このミュージカルを観て「よく泣く」・・・
 『レ・ミゼラブル』は、1832年6月のパリ暴動・
 市街戦を背景としたストーリーなのだが、
 1789年のフランス革命以後、19世紀を通じて
 フランス国民が「民主政治の在り方」を巡って
 どれほど苦悶してきたか、そのことへの
 感受性無くしてこの物語への共感は
 おぼつかないのである(p41)


■欧米の考え方がわかった。
 世界の歴史もわかった。
 では何を学んだのか。


 実は、その点については
 あまり書いていないのです。
 下巻も読んでみます。


 寺島さん、
 良い本をありがとうございました。


───────────────


■この本で私が共感したところは次のとおりです。


・ワシたち日本人のインテリは、どいつもこいつも
 みんな狭い意味の小専門家なのだ。
 海軍の仕事をしているやつは、海軍だけ。
 ほかのことはかえりみない。海軍以外のことは
 なんにも知らない(秋山真之(さねゆき))(p19)


・漱石のロンドン日記に残るこの言葉・・・
 「未来は如何あるべきか。自ら得意になるなかれ。
 自ら棄るなかれ。黙々として牛のごとくせよ。
 孜々(しし)として鶏のごとくせよ。
 内を虚にして大呼するなかれ。真面目に考えよ。
 誠実に語れ。摯実に行へ。汝の現今に播く種は
 やがて汝の収むべき未来となつて現はるべし(p25)


・ベルサイユ講話会議を精査して痛感するのは、
 日本は広く世界の大勢に眼を開くことなく、
 自分の権益だけしか理解できない存在だった
 という悲しい現実である(p48)


・ロンドン時代のマルクスは何で食べていたのか。
 最も大きな収入源は「ニューヨーク・デイリー・
 トリビューン」紙に書き続けた論説であり、
 それは十年間に500回を超す。僅かに週2ポンド
 程度の収入であった。このことで、後に
 ケネディ大統領が「もしアメリカのジャーナリズムが
 マルクスの原稿料をねぎらなかったら、
 マルクスはあんなに貧乏しなかったであろう。
 そしてあんな革命論なんか書かなかったろう」
 というジョークを言った・・(p75)


・(南方)熊楠(みなかたくまぐす)は
 コピー機もなく大英博物館で膨大な書物からの
 「抜書帖(大部のノートで53冊)を
 黙々と作成した(p103)


・1910年のウィーンの人口210万人のうち
 一割近くがユダヤ人・・新たに流入した難民の
 東方ユダヤ人は、不衛生で貧しい生活を
 余儀なくされ・・ユダヤ人のプレゼンスが
 目立つほど「反ユダヤ主義」が誘発され、
 ウィーンは反ユダヤ主義の温床ともなっていった・・
 ヒトラーの反ユダヤ主義は、ウィーンでの
 満たされない暗い青年時代に
 醸成されたことは間違いない(p123)


・憲法とか兵制は1945年以降に解消・変革を
 迫られたが、ドイツ帝国型の国家官僚主導の
 統治機構については現在までも根強く継続して
 きたとさえいえる。今日、日本は米国型の
 「規制緩和、市場主義」の導入を迫られているが、
 これも別の角度からすれば
 「ドイツ帝国型の国のカタチ」の残滓に対する
 米国の苛立ちと挑戦でもある(p206)


・米国流資本主義を突き詰めるならば、
 「株主資本主義」という性格が強く・・・
 欧州流の資本主義は「ステークホルダー資本主義」
 とでもいうべきもので、株主のみならず、
 企業を取り巻く様々な利害関係者、
 例えば従業員、取引先、地域社会、国家、
 地球環境などにバランスよく付加価値を
 配分する経営を志向する性格が強い(p237)


・日本には約7万人の人が国会議員、
 都道府県議員、市町村議員として
 飯を食べている。つまり職業的代議員である。
 職業としての政治家、つまり代議員が
 不可欠であるというならば、その正当性を
 絶えず立証しなければならない(p154)


この記事が参考になったと思った方は、
クリックをお願いいたします。
↓ ↓ ↓ 
blogranking.png

人気ブログランキングへ


二十世紀から何を学ぶか〈上〉一九〇〇年への旅 欧州と出会った若き日本 (新潮選書)
寺島 実郎
新潮社
売り上げランキング: 316,087

【私の評価】★★★☆☆(79点)

[Amazonで購入する]

[楽天ブックスで購入する]



■目次

第1章 一九〇〇年パリ
第2章 一九〇〇年ロンドン
第3章 一九〇〇年ウィーン
第4章 一九〇〇年ローマ
第5章 一九〇〇年マドリッド
第6章 一九〇〇年ハーグ
第7章 一九〇〇年サンクト・ペテルブルク
第8章 一九〇〇年ベルリン
終章 一九九九年世紀末に向う欧州


にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ第3位
にほんブログ村

<< 前の記事 | 次の記事 >>

この記事が気に入ったらいいね!

この記事が気に入ったらシェアをお願いします

この著者の本


コメントする


同じカテゴリーの書籍: