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「だまされて。―涙のメイド・イン・チャイナ」ポール ミドラー

2018/03/01公開 更新
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だまされて。―涙のメイド・イン・チャイナ


【私の評価】★★★★★(93点)


要約と感想レビュー

 著者は米国の大学で中国語を学び、20年間、中国製造業と米国輸入業者との仲介をしてきました。20年間の経験から得られた結論は、中国製品の品質問題が解決することはないということです。


 多くの人が、中国の経済が発展すれば、品質問題は解決するだろうと予想していました。しかし、実際には中国の業者が儲かり始めると、安い材料に変更したり、厚さを薄くするといった"効率化"が密かに行われていくのです。


・僕はボディウォッシュをあまり使わなくなり、熱い湯だけでシャワーをすますようにした。さらに石けんも使わなくなった。べつに意図したわけではなかったが、心のどこかで「わざわざ危険な目に遭わなくても」と思い始めていた。中国の製造業で働くうちに、信じる心を僕は失っていった(p266)


 中国でのビジネスのパターンは、次のとおりです。中国に進出した米国輸入業者は、なんでこんなに安く製造できるんだ!と驚きます。なぜなら、中国の工場は原価で商品を作ってくれるからです。しかし、それはビジネスを受注するための戦略なのです。


 製造装置を購入し、作業員を採用し、生産が安定してくると、明らかに不良品であっても中国の工場は発送しようとします。さらには、コスト削減のために勝手に材料を変更したり、厚さを薄くしたりする。発送を拒否すると、もうその商品を製造しない、とか、製造単価を上げと取り引きしないなど交渉(脅し)してくるのです。


 新たな製造者を見つけ、育てるのに時間がかかることを中国人は知っているからです。結局、米国の会社は、中国の不良品をある程度は受け入れ、ある程度は自分の費用で対応するしかないのです。


・品質は時間とともに改善され、国が発展すれば問題も減るだろうと中国通の人たちは言う。しかし僕自身の経験によればまったく逆で、時間とともに新たな策略を考え出すからますますひどくなるだろう・・しだいに僕は、こうした考えを輸入業者に話すようになった。品質ごまかし計画を防ぐのは絶対に不可能だと指摘し、工場には敵わないと(p271)


 中国人は永遠に製造原価で、商品を作ってくれるわけではありません。多めに作って、別の会社に高値で転売する。輸出レベルの製品を作れるようになってきたら、値上げを要求する。または材料や設計を分からないように変更してコスト削減する。


 なぜなら、どこの中国の会社も同じようにしているからです。なぜ、中国人観光客が中国でも売られている製品を日本で買うのかがわかりました。中国製品は結局、信用できないのを中国人が知っているからなのです。ミドラーさん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・カギとなるのが、利益ゼロで生産を引き受ける戦略だ・・工場にとって給与なしのインターンシップみたいなものだ。輸出レベルの製品ラインを生産できるようにさえなれば、うちと組んでみないかとほかの顧客を口説けるのだから・・(p314)


・工場側は間違いなく、客を喜ばせるという考えを持っている。しかしそれは最初だけ、
 あるいは自分が苦しいときだけであって見せかけの謙遜、一種のパフォーマンス、仕事を取るための手段である。ある程度の成功を収めてしまうとみずから皇帝のようになり、輸入元をただの請願者の立場に追いやってしまう(p171)


・ショールームの製品はどうやらアメリカの会社から送られてきたサンプルのようだった・・アメリカの住所を用意して買い手のふりをするのだ・・競合メーカーにアプローチして製品サンプルを要求する。それを中国に運びこんで、自社のショールームに納めるわけである・・取引を始めるにはまず、すでに稼働しているかのように客を騙さなければならない・・(p117)


・かつて流行ったジョークに「中国での50対50の合弁事業とは?」というのがあった。落ちは、「外国企業が1年目に50%、2年目に残りの50%を失う投資手段」というものだ。これがウケるのは、中国では実際にこんなことが起こったからだ(p223)


・経験を積んだ貿易商は・・見本市はカモをひっかけるためのものだと考えている。製造業者のほうもそう考えるようで、ふだんの価格より見本市での価格のほうが高かったりする・・フェアに訪れる輸入業者は工場が他の業者にも同じ価格で出すことを期待しているのだが、中国ではそうが問屋が許さない(p98)


・中国ではあまりに多くのものがニセなので、事業の何がどうなっているのか白日の下にさらすのはほんとうに難しい。(p237)


・材料のすり替えや模造が本当にやりきれないのは、工場が最後には被害者に責任をなすりつけることである。製品の質を落としている件がばれたとき、帝王化成は傷口に塩を塗るような反駁をしてきた。「こんな値段しか払わないで、何ができるっていうのよ?」(p181)


・工場経営者たちは・・工場同士の競争だけでなく、原材料を提供するサプライヤーとも戦っているのだ。いつでも誰かがどこかで倹約しようとして、グレードの劣る製品を高い製品として売ったりする(p136)


・中国における品質問題をわかりにくくしている背景は、メディアの報道に仕方にもある・・鉛入り塗料が玩具に使われていたことがわかると、突然「玩具産業の問題」になってしまう。メラミンが乳製品に入っていたなら「乳製品産業の問題」になる。実際はもっと普遍的で、「中国の問題」なのだ(p281)


・輸入元はたいていエージェントを通したくない。理由のひとつは、エージェントは最適のサプライヤーを選ぶのではなく、いちばんいい仲介料を払うところに取引を持っていこうとするからだ。そうしたサプライヤーはたいがいエージェントの友人か親戚・・(p116)


・この工場では、同じ省出身の作業員が全人員の4分の1を超えないようにしている。ケヴィンによれば、同郷の出身者が増えすぎると、よくないことを企みかねないという(p29)


・作業員の手が荒れているのに気づいた・・手の皮が剥げているのが見えた・・洗剤を詰める作業から外せば処罰したかのようで、作業員は面子を失いかねない・・結局は、感染した手をそのままにして作業に当たらせたほうがいいというわけだ・・こんな不衛生な環境で生産していることが知られれば、対外的なイメージは最悪ではないか。この言い方が気に入らなかったのか、姉さんは眉をつりあげた。「誰がみつけるっていうのよ?」(p78)


・世界的な投資家ジム・ロジャーズは・・家族そろって中国へ移住すると発表してニュースとなった・・しかしこの「チャイナ買い」一家が腰を落ち着けたのはシンガポールだった(p276)


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■引用は下記の書籍からです
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目次

Episode1 消えた作業員の謎
Episode2 トラブルこそ飯のタネ
Episode3 「サンプルさえくれればね」
Episode4 「でかい話があるんだ」
Episode5 「見ればわかるでしょ!」
Episode6 グローバル商売のど派手なカーニバル
Episode7 これでよかったんだよ
Episode8 苦労のひと粒
Episode9 チャイナ・ゲーム
Episode10 模造品文化
Episode11 動物実験はしていません
Episode12 合弁事業の特効薬
Episode13 捨てられたトロフィー
Episode14 「聞き違いだよ」
Episode15 「プライス ゴーアップ!」
Episode16 居たくない場所
Episode17 新しい工場
The Last Episode 利益ゼロ



著者経歴

 ポール・ミドラー(Paul Midler)・・・アメリカ人。大学で中国語と歴史を学び、1990年初頭に代に中国へ移住。一時帰国し、ペンシルベニア大学ウォートンスクールでMBA、同大学ラウダー研究所で国際研究修士号を取得。過去20年におよぶ中国でのキャリアにおいて、業種も規模も異なるさまざまな欧米企業と、数百に及ぶ中国との製造業者との間で、ビジネスの仲介を続けてきた。本書が初の著作となる。


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