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【書評】「M&Aアドバイザーの秘密 トラブルと苦労の日々」村藤 功

2018/01/18公開 更新
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M&Aアドバイザーの秘密


【私の評価】★★★☆☆(73点)


要約と感想レビュー


外資系は上司が人事権を持つ

外資系コンサルティング会社を渡り歩いてきた著者の業界話が、おもしろい一冊です。


外資系は、上司が人事権を持つ徒弟制度。コンサルティング会社は産業スパイ。自由の国では資格が重要など、働いた人でなければ、わからない話が楽しいのです。


著者の経歴は、会社が破綻したり(2回)、事業部が廃止になったり、特に運が悪かったようです。


ベインは大変なコンサルティング会社だった・・産業スパイのようだと思いながら、日本の工場に電話をして、コスト構造について質問したこともある。雇い主がアメリカの競争相手だということを言わず、市場調査なのでよろしくお願いしますといいながら、気のいいオジサンに工場のコストの数字を教えてもらうのだ(p10)

M&Aの闇

著者はM&Aが専門ですので、後半は企業の吸収・合併についての専門の話になります。


M&Aで垂直統合する場合、自分がやっていない事業を買収する場合は、当たり前のことですが、想定していた合理化が可能かどうかは事前にわかりにくいことが多いのです。よくあるパターンは、競争力のない事業者を引き受けて、自分の製品力を損なってしまうこともあるという。


また、あまり多すぎる買い手候補も手間がかかりますが、1社だけにしてしまうと交渉しづらくなるので、金をかけるデュディリジェンスに進む買い手候補は3社から5社くらいが適正だという。


M&Aでは、東芝の7000億円の特別損失を思い出しました。東芝は、2015年原発建設会社のS&W社を買収。買収にあたり、遅れていたS&W社の建設工事の建設費増額と期間を延長。ところが1年後に、その建設工事で約7000億円という超過費用が判明し、東芝が負担することになったというものです。


「なんでそんなことになるの?」と疑問に思っていましたが、この本を読んでもその答えはありませんでした。7000億円もの追加費用が予想されていれば東芝は契約しないでしょうし、そういう費用は責任を取らないという契約になっているのが常識らしいからです。


嘘をついたり、隠し続けたりしていた問題は、売却後も問題が発覚した時点で契約中の表明・保証条項(Representation and Warrantees)により責任を取らなければならなくなる。騙したり隠したりしても、重大な問題は後で発覚しないわけがない(p116)

資本主義では何でも金しだい

ハノイで高級官僚に会っての情報収集では、賄賂を出さないと何も進まないことがあるという。プロジェクトはしたいが違法行為もしたくない。ジレンマに陥るのです。


著者は外資系企業でキャリアを積みましたが、最初は海外経済協力基金か国際協力基金に入りたいと思ったという。ところが、国際協力基金は、単なる海外への人材斡旋業でくだらないという評判で、海外経済協力基金も、大蔵省、通産省、外務省、経済企画庁の四省庁出身者支配で、基金に直接入ったところで出世できるわけがないのでやめたという。


資本主義では、何でも金しだい。金からは逃げられないのだと思いました。東芝のように騙されないように気を付けましょう。村藤さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言


・自由の国アメリカでは、次の仕事は自分で応募して決めていくのである・・ただ私は常々不満だったのは、面白いチャレンジングな仕事はすべてMBAが必要とされるか、MBAが望ましいとされていること(p20)


・私の人事権を握っていたのは顧客でなくて仕事の上司であった・・外資系は合理的だという幻想があるようだが必ずしもそれは正しくない。属人的な徒弟制度の下で、私は徒弟もしくは奴隷として振舞うことを期待されていたのに期待外れだったということだ(p34)


・鈴木自動車が合弁会社としてやっていた重慶長安汽車の中国側パートナーの深セン上場にあたって鈴木自動車に株を買ってもらったり・・スズキやシャープは・・渋ったが、中国政府が裏にいて合弁事業を継続したいなら買えというようにほぼ強制に近いやり方をしていたため、スズキやシャープにたいした選択肢はなかったようだ(p41)


・営業譲渡は、買い手が、ターゲット事業の不良資産や偶発債務を回避したい場合に選択され、使われる。ストラクチャーとして合併や吸収分割を使うと、事業の譲受人は法人全体を引き受けることになるので、法人に不良資産や偶発債務があれば、これを逃れることができない。(p130)


・LBOに狙われやすいターゲット・・
 1 事業の過小評価
 2 リターンを生まない投融資
 3 最適でない資本構成
 4 賢くない経営陣
 いいターゲットがあれば、LBOを行って、
 1 不要な投融資の処分、
 2 事業の売却、
 3 資本構成の最適化を行うことにより成功できる(p172)


M&Aアドバイザーの秘密
M&Aアドバイザーの秘密
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村藤 功
創成社
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【私の評価】★★★☆☆(73点)


目次


第1章 M&Aアドバイザーになるまで
第2章 M&Aアドバイザーの日々
第3章 うまくいくM&Aのプロセス
第4章 M&A取引のストラクチャリング
第5章 企業価値評価の方法
第6章 M&Aのことば


著者経歴


村藤功(むらふじ いさお)・・・九州大学大学院経済学府産業マネジメント専攻教授。ベリングポイントアドバイザー。東大法卒、ロンドン・ビジネス・スクールMBA。戦略コンサルティング会社ベイン、メロン銀行アジア太平洋地域審査部、CSFBロンドンのM&A担当を経て帰国後CSファースト・ボストン証券でM&A担当。香港のアジア専門投資銀行ペレグリンに転じたのち、1998年からアンダーセンのコンサルティング部門で財務戦略部門を統括。KPMGのコンサルティング部門との統合に伴いアンダーセンのパートナーからベリングポイントのマネージングディレクターへ。2003年4月開校の九州大学ビジネススクールで、企業財務、M&Aを担当。アジア提携担当として中国瀋陽の東北大学客員教授。スカパー「ビジネス・ブレークスルー・チャンネル」番組講師を経てコンテンツ委員会委員、クロスFMラジオ「BBIQモーニングビジネススクール」金曜日財務担当。経済同友会会員。経産省主催の地域金融人材育成システム開発委員会と財務管理人材育成システム開発委員会委員長


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