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「あと1%だけ、やってみよう 私の仕事哲学」水戸岡 鋭治

2017/10/27公開 更新
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あと1%だけ、やってみよう 私の仕事哲学


【私の評価】★★★★★(93点)


要約と感想レビュー

 「ななつ星 in 九州」、883系「ソニック」、885系「かもめ」などをデザインした水戸岡さんの一冊です。水戸岡さんの列車のデザインは正直、かっこいい。その独創性がどこからくるのかといえば、過去に感動したことをコピーしているのだという。アイディアはいつも人から、時代からもらうというのが、水戸岡流なのです。


 しかし、その"かっこいい"を実現するためには、猛烈な反発に立ち向かわなくてはなりませんでした。鉄道業界ではじめてのことを実現しようとするのですから、当然といえば当然なのでしょう。独創的な人は、保守的な人から攻撃されるのです。そうした反発や意見を聞いて、妥協してしまったり、安易につくってしまうと、楽だけど何も差別化されていない、ありきたりのもので終わってしまうのです。本当は誰もそんな仕事をしたいはずがない、と水戸岡さんは考えているのです。


・787系「つばめ」・・・この列車で中心に据えるべきは、「食堂車」だと早い段階で企図・・しかし、このプランは、JR九州社内から猛烈な反発を買うこととなります(p20)


 無垢の木を使おうとすれば、品質が安定しないじゃないかと反対されるので、それがいい味を出すと説得する。ガラスを多用する。割れたらどうするんだと言われれば、危険な部分はポリカを使う。食堂車を作りますといえば、食堂車は儲からないと反論され、いえ、儲かりますよ、と説得する。


 このように優秀な会社員とは、できない理由を探すプロなのです。それに対して、工夫でできないことをできるように対応したり、良い点を示して説得したりすることが求められるのです。例えば、ぎりぎりまで仕様を明確にしないことで、反論を封じて一気に決めてしまったり、逆に、事前に打診を繰り返すなどの工夫を続けたのだという。


 会社員からは、「水戸岡さんの好みで選んだり、つくったりしている」と言われることがよくあるそうです。水戸岡さんの答えは、それは誤解です。私はいつも、第三者の視点で、客観的に提案していると答えるのです。つまり会社員から見ると、難しいことを好き嫌いでやっているように見えるのでしょうが、水戸岡さんには、お客様を感動させるにはこれが必要である、という合理的な判断をしているというわけです。


・「鉄道ではやったことがない」という技術にしても、なぜ、やったことがないのか。まったくできないことなのか。では、できない理由は、予算なのか。スケジュールなのか、あなた方の技術のレベルなのか・・実は、できない理由はどこにもなかったりするわけです(p27)


 自分のやりたいデザインを作るために水戸岡さんは、対立構造をつくらないようにして、十分対話をして、ほかの人を理解するようにしているという。理解をしたから賛成ということではなくて、理解したけれど賛同はできない、ということなのです。


 水戸岡さんの仕事のモチベーションは、「感動」だという。感動をどう仕事の中に、商品の中に落とし込めるのかを極めているのです。ただ、14室ある部屋をそれぞれ違うと楽しいでの、すべて違うデザイン、色、素材、模様の内装にしようとすれば、当然手間がかかります。関わる人たちに、「みんな、1%上げようよ」と言って、賛同してもらわなければ、手に入らないのです。


 水戸岡さんは、鉄道デザインの宮崎駿だと思いました。日々の生活のために仕事をしているのではなく、すぐにはお金にはならないけれど子どもや世代のためにやっているのです。面倒くさいことを、メンバーを引っ張っていき、とんでもないところに運んでいくのです。そしてその作品に多くの人が感動するのです。


 「とことん試行錯誤すれば見えてくる」というのが、水戸岡さんの教えですが、常に考え、止まり、考え、また進むと表現する仕事に人は感動するのでしょう。そして、水戸岡さんの思いは、子どもたちが、その仕事に対し、あの質を超えてみようと思ってくれれば嬉しい、そうなることを信じてものをつくっているという。水戸岡さん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・あれは水戸岡さんの真似をしているんじゃないか、と指摘されることもときどきありますが、私自身はまったく気にしていません。というのも、私もまたコピーをしているからです(p34)


・美しい街は、その街に住んでいる人の意識レベルの高さの表れであり、駅前の商店街のシャッターが下りている街は、あるいは駅前に立って貧しいと感じる街は、やはりそういう意識の街なのです(p74)


・私は、この人と仕事をするとまずい、と思った相手には近づきません。その人にどんなに才能があっても、お金儲けがうまくても、危ない人とは絶対に仕事をしない。お金儲けはヘタでも、フェアプレイをする人が私にとっては大事なんです(p176)


・私たちがほかに負けないような努力をして、素晴らしいものができるんだったら、みんな死ぬほどの目に遭って、もしそれで死ぬならその方がいいよ、というぐらいのことはいつも思っています(p190)


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【私の評価】★★★★★(93点)


目次

第1章 それができない理由はどこにもない
第2章 デザインは街をつくることができる
第3章 私を育ててくれたJR九州の仕事
第4章 感動をデザインする―「ななつ星」の場合
第5章 少し無理すると、ひとつ上のものができる
第6章 一緒に仕事をする人と、一緒に感動する
第7章 次世代が幸福になる仕事でなければ意味がない



著者経歴

 水戸岡/鋭治(みとおか えいじ)・・・1947年、岡山県生まれ。岡山工業高校卒。デザイン事務所を経て、1972年ドーンデザイン研究所を設立。不動産広告のパース画、家具や建築などのデザインを手がける。1988年、福岡市の「ホテル海の中道」のデザイン担当をきっかけに、JR九州の鉄道デザインにも着手。「つばめ」「ソニック」などの特急列車や九州新幹線のデザインで注目を集める。さらにローカル線や路面電車やバス、気動車、駅舎から街づくりなどを通して、全国の地方の活性化にも貢献している


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