「石つぶて 警視庁 二課刑事の残したもの」清武 英利
2017/10/25公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(80点)
要約と感想レビュー
外務省の松尾克俊逮捕
2001年に、外務省でロジスティクスを担当するノンキャリアの松尾克俊が逮捕されました。ロジスティクスとは、首相の外遊や要人来日の出入国手続きから会場、車両、ホテル、諸物品まですべてを手配する仕事です。
首相の外遊の費用は官邸の機密費から支出され、松尾はなんと11億円を着服し、競走馬購入、愛人へプレゼント、マンション購入などに使われていました。松尾は首相一行が宿泊するホテルに泊まり、そこのレターヘッドを持って帰って偽造書類を作成していたのです。
・外務省でそのサミットの裏方の一切は、1981年のカナダ・オタワサミットから3種職員と呼ばれるノンキャリア職員のみで対応することになっていた(p39)
刑事の給料は安い
役人の汚職、横領を捜査するのは、警視庁捜査二課(382名)です。その捜査二課の第四、第五、第六知能犯の九つの班員101名が贈収賄事件を専門に摘発する刑事なのです。外務省の案件ではピークで100人以上の体制で捜査を行っています。それだけ贈収賄事件を立件するためには労力がかかるのです。
それにしても刑事は給料は安く、休日であっても外泊する時には、上司に届けを出さなくてはいけないという。共産党員と親しくすることは許されないし、政治的中立の保持や、秘密保持の観点から記者との接触も制限されているという。
・狙いはいつもサンズイである・・コンベン(詐欺)やセナカ(背任)、ギョウヨコ(業務上横領)も大きな犯罪だが、やはり一つ格が下だ。汚職の役人を捕まえるというのが二課刑事の命なんだよ(p48)
外務省は愛人を抱えて一人前
外務省は不倫が咎められない役所であり、愛人を抱えて初めて一人前だと言われていたという。実際、1997年に週刊ポストが『外務省高官の「2億円」着服疑惑』という記事で外務事務次官秘書の杉山晋輔が、外務省の機密費を使って、一年半の間に二億円を超える機密費を使ったという。ちなみに、杉山氏は19年後の2016年に外務事務次官となっているのです。
外務省も簿外の資金が必要であり、発覚しても問題が大きくならないようノンキャリアに担当させているのでしょう。それにしても松尾克俊は、自分の競走馬や愛人に流用するとは、あまりにもやり過ぎました。そして、同じ役人でも、愛人を抱えて一人前の外務官僚と、家に帰らず捜査する刑事の落差が印象的でした。清武さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・刑事は仕事に比して給料も安いうえに、なんと窮屈な職業だろうか・・外泊の際には、休日であっても上司に届けを出さなくてはいけない・・近所との交流は、政治的中立の保持や、秘密保持の観点から好ましくないとされている。共産党員と親しくすることも原則として許されない。記者たちとの接触も、それが刑事の情報収集目的でない限りは、ご法度だ(p126)
・「決まり事だけをやる奴は良い警察官になるかもしれないが、良い刑事にはなれない」というのが口癖である(p260)
・「清濁併せ呑むようでないと、サンズイはできない。正義感だけしか持ち合わせていない刑事は枝葉末節に走って、本質を見失うことがある」という証言や、「犯罪捜査は管理しすぎてはできないところがあるものだ。管理化された捜査など意味がない」という古い刑事の話には耳を傾ける価値がある(p366)
・きわどいネタ元を持つ先輩主任と口論・・ブラック(ジャーナリスト)みたいな奴からもらってくるんじゃなくてさ。あんな奴らと会って、綺麗な報告書を出しても、捜査を始めたとたんに新聞なんかに暴露されちまっているじゃないか。ブラックから情報をもらっても、そんな相手には情報を返さなくちゃいけないんだろう。それじゃあ、何のための情報なんだい(p81)
【私の評価】★★★★☆(80点)
目次
序章 半太郎
第1章 捜査二課の魂
第2章 浮かび上がる標的
第3章 地を這う
第4章 情報係とナンバー
第5章 パンドラの箱
第6章 聖域の中へ
第7章 涜職刑事の誇り
第8章 束の間の勝利
事件のあとで
著者経歴
清武英利(きよたけ ひでとし)・・・1950年宮崎県生まれ。立命館大学経済学部卒業後、75年に読売新聞社入社。青森支局を振り出しに、社会部記者として、警視庁、国税庁などを担当。中部本社(現中部支社)社会部長、東京本社編集委員、運動部長を経て、2004年8月より読売巨人軍球団代表兼編成本部長。11年11月、専務取締役球団代表兼GM・編成本部長・オーナー代行を解任され、係争に。現在はノンフィクション作家として活動。著書『しんがり 山一證券 最後の12人』(講談社+α文庫)で2014年度講談社ノンフィクション賞受賞。
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