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「随想録」高橋是清

2017/08/22公開 更新
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随想録 (中公クラシックス)


【私の評価】★★★☆☆(74点)


要約と感想レビュー

 高橋是清といえば、世界恐慌に積極財政で対応した財政家として有名です。


 日本銀行、横浜正金銀行を経て、日本銀行副総裁。日露戦争の外債募集に成功し、日本銀行総裁に昇進後、大蔵大臣となっています。原敬首相暗殺後、首相就任。その後、七度大蔵大臣を務めますが、軍の予算を削減したためか二・二六事件で暗殺されています。


・寺内内閣の時代に陸海軍の国防計画として、海軍は八八艦隊の完成、陸軍は四個師団の増設といふことが決定し、それが元帥会議に御諮詢(じじゅん)となり、元帥会議は陛下に奉答していて、いはば確定不動のものになっていたのだ(p43)


 是清の考え方は、経済の専門家でありながら物質的なものより精神的なことを重視しています。


 つまり、「金さえあれば何でもできる」というのは最低の人間で、金は衣食が足りればいい。まずは、自分の仕事を一生懸命に感謝しながら仕事をするのが良いとしています。もし不満があれば、独立起業すればよいということです。


・肉体の慾望を満足することを、人生唯一の快楽として、外に精神的快楽を追求する趣味を持たないものは、その人の地位や、技能の如何に拘らず、私はこれを最も下劣な身分のものだと思ふ。現金主義に流れて、ただ金を溜めるために齷齪する者や・・(p140)


 世の中の人間というものをよく見て、知っている人だなと思いました。現実の人間を知りながらも理想として、精神的なものを追及した人だと感じました。


 高橋さん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・高橋は外国為替を管理する法律によって、円レートの低位安定を図る一方で、多額の赤字公債の発行を財源とする積極財政を展開する。ケインズの乗数理論を先取りしたと評価される・・(p6)


・私が日本銀行に居つてどうも大蔵省と意見が合はなかった。その時分金利が低いから金利をもっと引き上げてデフレーションをやれという。そう無理をしてはいかぬと言うのが私の理論、日本銀行の利息を引き上げろと云うのが大蔵省の意見であった(p18)


・代議政治を布くには、先ず国民の教育が肝要である。国民に政治の理解なくして代議政治をなす時は、愚民は常に野心家の傀儡となり、悪用される恐れがあって結果は却って面白くない(p70)


・シフ(ヤコブ・ヘンリー・シフ ロスチャイルド系財閥系で、リーマン・ブラザーズに合併されたクーン・ローブ商会の代表者。慈善家でもあった。1847~1920)氏は日本に対する勲功によって勲二等か何かを賜はつたと記憶しているが、日露戦争の時の外債を、不自由なく募集することの出来る条件を作つて呉れた人である(p73)


・職務について、世に立つ以上は、その職務を本位とし、それに満足し、それに対して恥ぢざるやうに務めることが、人間処世の本領である(p84)


・いかなる場合でも、何か食ふだけの仕事は必ず授かるものである。その授かった仕事は何であらうと、常にそれに満足して一生懸命にやるから、衣食は足りるのだ(p84)


・不平をおこすくらいなら、そこに使われて、サラリーを貰ふことを已めるがよろしい。サラリーマンを廃業して独立するがいい。独立してやれば、何事も自分の力量一杯であるから、不平もおこらぬだらう(p85)


・金を貯めることが、人生奮闘の最終の目的となって、身を肥やし、栄華を極め、肉慾的の奢りをほしいままにせんがために齷齪と働いたところで、その労力はなんらの価値もなく、また、かくして貯めた金は、全然、塵埃に等しいものであると思ふ(p90)


・政治家にせよ、学者にせよ、農商工業家にせよ、銀行家にせよ、辯護士にせよ、はた又医士にせよ、その職業に何たるを問はず、各々その職務に成功し、後世に名を遺すと云ふことは、人生の最も大切なる事である。(p111)


・何か事を成さうとするとき、自分の得手勝手でかうしたいと思ふ。そして、『自分はかうする』と一途に押し切らうとするが、なかなか押し切れるものではない。・・どこかに無理ができて、意外な結末になりがちである。どんな場合でも、たとひ自分の考へが正しく見える時でも、威圧や暴力で行わせることは、絶対に慎まなければいけない(p132)


・日清戦争以来、・・日本人が、上下ともに支那人を馬鹿にするといふ一般的な気風・・これが間違いのもとなのだ(p12)


・私は考へるに、真実の楽天的境地といふものは、人事を尽くした後でなければ得られるものではない(p158)


・今日我が国では兎角資本と云ふものを軽視する、資本対労働、偶々金のある人の言行が悪いために資本そのものまでも憎むやうになつて来た。資本なしで何の仕事が起るか、資本と労働と互いに喧嘩するものではない、一致して行かなければならぬ(p277)


・職務に成功する基本は何であるかと申せば、それは教育であります・・大凡(およそ)学問なるものは古来先輩が啓発したところの智能の累積したものでありまして後世図書の蒐集となって伝わり居るのであります・・修めた学問を実際に応用する事に努力してこそ、始めて教育の効果が現れるのであります(p363)


随想録 (中公クラシックス)
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高橋 是清
中央公論新社
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【私の評価】★★★☆☆(74点)


目次

明治大帝の御高徳
原が刺さるゝ朝
原君や牧野君らのこと
政治家の第一歩・山本権兵衛氏のこと
経済演説の嚆矢
政党の内情と困った人達
護憲運動と私の立場
私の「決意」
田中義一君のこと
井上準之助君の死を聞いて
シャンド氏の親切



著者経歴

 高橋是清(たかはし これきよ)・・・明治・大正・昭和期の財政家、政治家。1854年(嘉永7年)幕府御用絵師の子として江戸に生まれ、仙台藩足軽高橋家の養子となる。藩の留学生として渡米して苦学。文部省、農商務省を経て、日本銀行に入り、横浜正金銀行を経て、日銀副総裁に就任。日露戦争外債募集に成功した。日銀総裁に昇任後、山本権兵衛内閣の蔵相となり立憲政友会に入党した。原敬首相暗殺ののち、首相・政友会総裁に就任。都合七度蔵相を務める


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