「蔦重(つたじゅう)の教え」車浮代
2017/07/11公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(88点)
要約と感想レビュー
ミリ単位の木版技術
現代のサラリーマンが江戸時代にタイムスリップして、江戸の知恵を学ぶ時代小説です。歌麿、写楽の浮世絵を出版した蔦屋(つたや)重三郎(蔦重)と出会い、弟子入りします。当時の版元では、本を売るだけでなく出版物の版木を彫る掘師と、それを摺る摺師が作業する製造部門が併設されていました。
木版で印刷物を作るということは、文字や髪の毛の一本一本を反転させて板に彫り込むのです。欧米の人々が、なぜど浮世絵に熱狂したのかといえば、日本独特の色彩・構図だけでなくミリ単位の木版技術や、色を何色も重ねて一ミリのズレもない技術を見たからなのです。
『やりもしねえで、知ったようなことをぬかすんじゃねえ』は、蔦重がよく使う小言の一つだが、まさしくその通りだと思う(p270)
蔦屋重三郎は出版社の経営者
蔦屋重三郎は、遊郭吉原のガイドブック編集長から版元となった成り上がり者でした。多色摺りの錦絵を中心とした狂歌絵本を出版したり、歌麿を売りだしたり新しいジャンルを切り開いていきました。有力者を接待し、絵の上手い職人を探し出し、歌のうまい人に書いてもらう。まさに出版社の経営者だったのです。
当時の江戸は幕府の統制が厳しく、自由な出版が難しい時代でした。商習慣も法令も十分整備されておらず、騙されることも多かったのでしょう。著者は蔦重に、『世の中の全ての人を、悪人だと思え』と言わせています。周りを全て悪人だと思えば、甘えが消え、人に騙されなくなるということです。
けどよ、人ってのは失敗したり騙されたりして、怒りや悔しさを腹に溜めるから、なにくそ!っつって伸びんじゃねえのかい?(p40)
江戸時代は義理人情
江戸時代にタイムスリップすることで、江戸の生活がリアルに伝わってきました。江戸時代から『情けは人のためならず』と言われており、蔦重も「おめえが前を向いている限り、俺はできるだけ後押ししてやるよ。今の俺も、そうやって支えてくれた人様のおかげでおうしていられる。」と言っています。
「恩送り」や「徳を積む」という知恵を持っていたのです。かけてもらった恩を下に送り、人にかけた情けは、いずれ自分に返ってくるのです。自由競争というよりも義理と人情こそ、日本らしい知恵だと思いました。車さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・手紙の最後で蔦重は、「上から見下ろす眺めと、下から見上げる眺めとは、遥かに違う」と教えてくれた。(p361)
・いいんだぜ、俺を恨んでも。怒りや悔しさってのは、何よりの力になるからな。大事なのはその時の感情を覚えているこった(p159)
・いい機会だから教えておいてやる。天分に甘えちゃならねえ。人ってのはたいがい、得意なモンや好きなモンで大きな失敗をするもんだ(p167)
・江戸の人々は、しばしば『今日様(こんにちさま)』という言葉を使う。朝起きるとまず、お天道様に向かって『今日様、今日もよろしくお願いします』と拝み、『生きていられるのは今日様のおかげだよ』と諭し、『今日様に申し訳ないよ』と小言を言う(p268)
【私の評価】★★★★☆(88点)
著者経歴
車 浮代(くるま うきよ)・・・時代小説家/江戸料理文化研究所代表。江戸風キッチンスタジオを運営。故・新藤兼人監督に師事しシナリオを学ぶ。第18回大伴昌司賞大賞受賞。著書は『蔦重の教え』(双葉文庫)、『落語怪談えんま寄席』(実業之日本社文庫)、『春画入門』(文春新書)、『天涯の海酢屋三代の物語』(潮文庫)、『江戸っ子の食養生』(ワニブックスPLUS新書)など20冊以上。国際浮世絵学会会員。
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