「邂逅の森」熊谷 達也
2017/07/10公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(84点)
要約と感想レビュー
大正から昭和にかけて秋田県の山で猟をして生きるマタギを主人公とした小説です。タイトルの「邂逅」とは、思いがけなく会うこと。山で猟をして生きるマタギが、獣や人と出会いながら生きていく意味なのでしょうか。
若いマタギの主人公は、町長の娘を妊娠させてしまい、鉱山労働者として村を追われます。鉱山では、ヤクザ下りの弟子ができ、マタギの仕事が忘れられない主人公は、弟子の故郷でマタギを始めることを決意しました。
・マタギが猟のために山入りする際、守らなければならない掟や禁忌には、女に関するものもある。たとえば、山入り中には、女の話や色話をしてはならない(p42)
主人公は、村ではよそ者です。村に入る条件としては、身売りされた過去を持つ弟子の姉と所帯を持つこと。
貧乏な村を狩猟の収入で支え、16年後には一人娘を同じマタギ仲間に嫁がせることができました。引退を考えるなかで、大熊が出現し、主人公は大熊との一騎打ちに向かうのですが・・。ここから先は、本書を読んでください。
・マタギの身体は、半分は親がら、残りの半分は山がら貰ったものだからな。欲を出しすぎねば、必要なものは山の神様が授けてくれるべや(p127)
大正の時代にも貧困のために娘を売ることがあったことを知りました。スカリ(頭領)、ブッパ(射手)、ケド(狩小屋)、コヨリ(小刀)といった山言葉も知りました。秋田の方言もよかった。
熊谷さん、良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・軍用払い下げの村田銃がマタギに行き渡るようになった今でも、アオシシ狩りでは小長枝(コナガイ)を使ってヘラマタギをすることが多い。貴重な弾を使う必要はないということ・・むやみに鉄砲を撃てば、上層に積もったばかりの新雪が音もなく剥がれ・・(p14)
・冬山はよ、晴れれば天国、吹雪けば地獄つうもんだべしゃ(p80)
・人は、歩いた数だけ山を知る。山のことは山に教われ、獣のことは獣に学べ。それがマタギの鉄則である(p54)
・皮を剥がされたアオシシは、腹を割いて内臓を抜き出したあとで四肢が切断された。ばらされた四肢をあらためて肋骨(ザル)の内部に納めてから麻袋に入れて万吉が担いだ(p22)
【私の評価】★★★★☆(84点)
目次
第一章 寒マタギ
第二章 穴グマ猟
第三章 春山猟
第四章 友子同盟
第五章 渡り鉱夫
第六章 大雪崩
第七章 余所者
第八章 頭領
第九章 帰郷
第十章 山の神
著者経歴
熊谷達也(くまがい たつや)・・・1958年、宮城県仙台市生まれ。東京電機大学理工学部数理学科卒業。中学校教員、保険代理店業を経て、1997年「ウエンカムイの爪」(集英社)で第10回小説すばる新人賞を受賞して作家デビュー。2000年、凶悪犯罪の陰に見え隠れするニホンオオカミを追った「漂泊の牙」(集英社)で第19回新田次郎文学賞受賞。2004年「邂逅の森」(文藝春秋)で第17回山本周五郎賞、第131回直木賞を受賞
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