東芝の粉飾決算を予言した「不発弾」相場英雄
2017/04/26公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(83点)
要約と感想レビュー
主人公が働く証券会社は、大蔵省の総量規制によるバブル崩壊と営業特金の解約を促す通達により営業特金で大きな損失を出します。営業特金とは、投資する銘柄と株数、価格や売買のタイミングを証券会社に一任するのです。その特性上、口頭で利回りを保証しているため、証券会社は一部の顧客に損失補てんすることになったのです。
その他の一部企業は、海外への損失を飛ばしました。主人公は損失の飛ばしを紹介する金融コンサルタントとして、独立したのです。損失の処理方法では2つ紹介されており、一つ目はデリバティブを用いた仕組債による海外への飛ばしです。仕組債は、ある条件を満たせば利益が出ますが、条件が満たせなければ、損失が出るギャンブルのようなものです。ギャンブルですから、利益が出る可能性は、その利益の大きさに反比例して小さくなっていきます。
・日本の平均株価の先物、そしてロンドンの銀行間金利のオプション、その他いくつかの指標金利のオプションを組み合わせた仕組債です・・仕組債は一種の賭け事です・・35億円の損失を五年間も表面化させない。裏返せば、五年後は株価が昨年末並みの市場最高値レベルに戻っているだろう、そんな見通しを前提に仕組債は作られています(p192)
二つ目は、海外の企業のM&Aを行い、利益が出れば損失と相殺させ、損失が出ればこれまでの損失と合わせて目立たなく処理するという方法です。オリンパスの海外M&A,東芝のウエスチングハウス買収と日本郵政のトール・ホールディングス買収が同じ構図に見えてきます。この本では東芝のパソコン事業での粉飾決算だけでなく、原子力部門の損失隠蔽を予想しています。この本が出版されて2年後に、東芝はアメリカ原子力発電事業で巨額の損失を計上することになるのです。
それ以外にも自動車メーカーが系列のレンタカー会社に在庫を押し込んだり、下請けの部品会社に売り上げ協力をさせたりして、利益の調整を行っていることも告発しています。東芝のように今後問題となるのでしょうか。
・パソコンや家電の不振を隠していた1500億円分に加え、三田電機は原発事業の減損2000億円を後に計上したが。だが、実態は世間に発表した分よりも1000億円多い、つまり本当の減損は3000億円だったのだ。この1000億円分を海外企業のM&Aに見せかけて隠すよう助言したのが・・(p365)
また、損失を海外に飛ばすアドバイスしている主人公の金融コンサルタントを、犯罪者として描いているのに違和感を持ちました。損失を飛ばす判断をしているのは、企業の経営者であって、コンサルタントはアドバイスだけのはず。法治国家では、法律の定める範囲で商売しても良いはずなのですが、日本では許されない場合もあるのですね。相場さん、良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・平均株価が短期間で9000円以上も下げた。大蔵省だって局長通達のインパクトが強すぎたことを後悔している・・・(p183)
・日本に時価会計が導入され、運用損を一気に開示せよと大蔵省が言い出したらどうなるか・・稼げるときに稼いでしまおうというのが本音だろう。外資系金融機関は、日本に時価会計が導入されておらず、その間隙を突いた商品を売り出すことになんの後ろめたさも感じていない(p209)
・海外の新興企業を成長の見込み大として買収、あるいは出資する形で金を出す。数年後、見込みが外れたことを李勇に特損を計上し、以前からシコっていた損失の存在をうやむやにするのだ(p297)
▼引用は、この本からです。
【私の評価】★★★★☆(83点)
著者経歴
相場英雄(あいば ひでお)・・・1967年新潟県生まれ。1989年に時事通信社に入社。2005年『デフォルト債務不履行』で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞しデビュー。2012年BSE問題を題材にした『震える牛』が話題となりベストセラーに。2013年『血の轍』で第26回山本周五郎賞候補、および第16回大藪春彦賞候補。2016年『ガラパゴス』が第29回山本周五郎賞候補になる
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