「論文捏造はなぜ起きたのか?」杉 晴夫
2015/02/27公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★☆☆(78点)
要約と感想レビュー
STAP細胞問題を切り口に、現在の大学の在り方について提言する一冊です。 著者が考えるSTAP細胞問題の原因の一つは、権威ある学術誌への論文掲載の誘惑です。『ネイチャー』等の権威ある学術誌に論文を掲載できれば、引用される可能性が高くなり、人事評価で優位に立てるらしい。
化学関係では再現できない論文がかなりあるらしいのです。それだけ、学術誌に論文を掲載することが人事評価に影響するかでしょう。STAP細胞問題でも、これくらいは大丈夫と思った人がいたのかもしれません。
・『ネイチャー』掲載論文の共著者に名を連ねれば、ほんの一部の実験の手伝いをした未熟な研究者であっても、インパクトファクター「30」が加算され、昇任人事で圧倒的優位に立つのである(p37)
そして、もう一つの原因は、国家予算を使う研究の非効率さです。6月にならないと予算が使えない。予算は年度内に使い切らなくてはならない。そして、成果だけは求められる。そのため、ちょっと実験結果に手を加えて論文を書いてしまおうという人がいてもおかしくないということです。
実際、ちょっと結果に手を入れて論文を書く人が多いのでしょう。A新聞のように角度を付ける新聞社もあるくらいですから、化学の世界でも角度を付ける人がいるのです。
・実際の研究費が大学に交付され、研究が可能になるのは、6月である・・・研究成果の報告は、筆者の経験では研究費交付年度の11月ごろである。・・学術誌に論文を発表し、研究能力の高さを示そうと思えば、研究機関はさらに短くなる(p79)
大学の先生も楽ではないと思いました。特に真剣に研究をしたい人に限って、予算獲得に悩み、予算を獲得したとしても予算の消化に悩むのです。著者は、もう少し柔軟性のある研究予算の運用を求めています。そうしないと同じような不祥事が、また起こるのでしょう。
杉さん、良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・わが国では、政府から支給された予算を、その年度内に過不足なく使い切らねばならない・・会計年度の終わりにあたる三月になると、あちこちで道路工事がはじまる・・(p75)
・わが国の研究費申請書の審査は、欧米諸国に例を見ないお粗末極まるものである・・申請件数に比べて極端に少ない申請書の審査員が、机上に山積みにされた申請書を片端から読み、採否を決定していた(p215)
・筆者のような古い研究者からみると、論文に共著者として名を連ねることは、他の共著者とともに論文のすべての問題について責任を負うことを意味する(p28)
・自然科学の研究は、研究者が予想したように進行する保証はまったくない。予想外の方向に展開することが多く、・・・悠々と研究している者に、「役立たず」の烙印を押しかねない。この烙印を押されれば研究費はストップ(p77)
・大型プロジェクトから巨額の研究費を得ている者は、一般の研究課題には応募を許されない・・・自分の本当にやりたい研究が不可能になることがある(p143)
・巨大プロジェクトの研究補助者に採用されても、従来の大学の大学院生のようなゆとりのあるトレーニングを受けられる保証はなく、プロジェクトが終わればこのように使い捨てにされ、放り出されるのである(p143)
光文社 (2014-09-17)
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【私の評価】★★★☆☆(78点)
目次
第1章 理化学研究所STAP細胞事件とは
第2章 研究者はなぜ、データを捏造するのか
第3章 明治時代の生命科学の巨人たちはいかに活躍したか
第4章 近年のわが国の生命科学の沈滞
第5章 科学史上に残る論文捏造
第6章 分子遺伝学の歴史と、今後の目標
第7章 わが国の生命科学の滅亡を阻止するには
著者経歴
杉晴夫(すぎ はるお)・・・1933年東京生まれ。東京大学医学部助手を経て、米国コロンビア大学、国立衛生研究所(NIH)に勤務ののち、帝京大学医学部教授、2004年より同名誉教授。現在も筋収縮研究の現役研究者として活躍。
読んでいただきありがとうございました!
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