人生を変えるほど感動する本を紹介するサイトです
本ナビ > 書評一覧 >

「北方領土交渉秘録―失われた五度の機会」東郷 和彦

2011/02/18公開 更新
本のソムリエ
本のソムリエ メルマガ登録[PR]

北方領土交渉秘録―失われた五度の機会


【私の評価】★★★☆☆(72点)


要約と感想レビュー

 北方領土については、ロシアの要人が訪問したり、軍事強化と経済開発の推進を発表したりと、ほぼ返還の見込みはなくなったようです。こうした背景を勉強するために、本書を購入してみました。


 この本を読んで分かるのは、日露ともに従来どおりの主張をしているということ。日本は領土先行、ロシアは経済先行です。


 一時期、ロシアの経済が不調な時期、北方領土についてロシアが最大に譲歩した時期がありました。ロシアの最大の譲歩は、「歯舞・色丹の引き渡し」ここで手を打つのか、四島一括返還を求めるのか、これが大きな判断の岐路だったようです。


・「歯舞・色丹の引き渡し」と「国後・択捉についての討議」という二本の柱を日ロ交渉の軸にするべきだとする私の考えは、「四島返還」の実現を遠ざけるというのが、末次先生のご意見だった。(p46)


 著者はモスクワ大使館で佐藤優氏と一緒に仕事をしており、ロシア各界要人百五十人の人脈を紹介されています。朝食二回、昼二回、夜二回の勢いで佐藤氏の人脈をフォローしたと語っています。佐藤優氏と近いことで、「歯舞・色丹の二島の主権の先行返還」案に近いことがわかります。


 また、マスコミに著者が森総理に対し「歯舞・色丹の二島の主権の先行返還」案をブリーフしたという事実無根の報道が流れたとしていますが、著者としては「四島一括」に固執するつもりはなかったようです。


・「四島一括」の実現を日本がどれだけ切望しているか、私自身も骨身にしみて理解しているつもりである。しかし、その願望に身をゆだねる余り、ロシアを相手に現実に起こしうる変化の可能性を把握できなくなってもよいのか。自分の信ずる意見の正しさに自縛され、相手の出方を見誤ることにより、最終的な北方領土問題の解決を見失ったら、誰に対して責任をとるのか。(p368)


 結果を見れば、二島先行引き渡しを主導する鈴木宗男、東郷 和彦、佐藤優ラインの二人が逮捕され、日露交渉は停滞。これは国家として四島一括返還を選択したということです。


 ただ、かなり無理をして「逮捕」したということは、その背景に何か強力な力が作用したとも想像できます。そうでなければ、総理大臣が「四島一括返還」でいく、と決断すれば、それだけで良かったのですから。


 それとも二島先行引き渡しを進めると、こうなるぞ、という脅しだったのか、それとも外務省の方針に口を出すとこうなるのでしょうか。


・当時、「鈴木一派は『二島先行論』を掲げているが、それでは残りの二島を放棄したも同然だ」などとして、多くのマスコミと有識者から批判された(p47)


 ともあれ、歴史は確定したようです。この評価は、我々の子孫が歴史の本に記述してくれるのだと思います。東郷さん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・有効な中立条約を無視した参戦、約六十万人の日本兵のシベリア抑留、さらに、日ロ間の平和裡な国境確定によって日本領であることを何人も疑っていなかった北方領土の占領など、45年夏から秋にかけてとられたソ連の行動は、当時の日本指導部と日本人の中に、激しい怒りと心の傷を残した(p80)


・基本的に合意された協定は、第一条に、日本国漁船が四島周辺海域で漁獲を行うことが書かれ、第二条以下で、別途の文書によって定められる金額を払うこと・・・違反したときにどうするかは書かなくてもいいという信頼感が交渉の中でロシア側から出てきたのです(p230)


・支出は外務省が組織として実行したものであり、そのことによって佐藤氏が罪に問われることはあり得ません(p15)


北方領土交渉秘録―失われた五度の機会
東郷 和彦
新潮社
売り上げランキング: 14821


【私の評価】★★★☆☆(72点)


目次

ソルジェニーツィンにならって
ロシアとの出会い―青年外交官時代
ゴルバチョフ書記長の登場
ゴルバチョフ大統領の日本訪問
ロシア連邦の成立
ロシア「九二年提案」と東京宣言
ロシア内政の季節
エリツィン第二期政権の始動
クラスノヤルスクと川奈
プーチン首相の登場
イルクーツクへの七ヵ月間交渉
二〇〇一年三月イルクーツク
二〇〇五年三月モスクワ



著者経歴

 東郷 和彦(とうごう かずひこ)・・・1945年生まれ。1968年外務省入省。三回の在モスクワ大使館勤務、ソ連課長、欧亜局長を歴任。条約局、経済局、在米大使館などで勤務。2002年に退官。


楽天ポイントを集めている方はこちら



読んでいただきありがとうございました!

この記事が参考になった方は、クリックをお願いいたします。
↓ ↓ ↓ 
人気ブログランキングに投票する
人気ブログランキングへblogrankings.png


メルマガ「1分間書評!『一日一冊:人生の智恵』」
50,000名が読んでいる定番書評メルマガです。購読して読書好きになった人が続出中。
>>バックナンバー
もちろん登録は無料!!
        配信には『まぐまぐ』を使用しております。


お気に入りに追加
本のソムリエ公式サイト

<< 前の記事 | 次の記事 >>

この記事が気に入ったらいいね!

この記事が気に入ったらシェアをお願いします

この著者の本


コメントする


同じカテゴリーの書籍: