「あなたのTシャツはどこから来たのか?」ペトラ・リボリ
2007/04/30公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★☆☆(77点)
●6年ほど前、スイスのジュネーブに滞在しているとき、
WTOに反対する学生がデモをしていました。
グローバル化、自由貿易に反対していたようですが
なぜ反対するのか?当時はわかりませんでした。
この本では、その疑問に答える形で、
アメリカで25セントで販売されるTシャツの
製造の過程をたどっていきます。
・ウォルマートは、まず仕入れ値を圧縮して国内の供給元を倒産に
追い込み、中国へ向かう。その中国でも原価を押さえ込むため、
中国のサプライヤーは自らの仕入先原価や搾取工場の賃金をさらに
引き下げることになる。この圧縮の連鎖によって、われわれは
Tシャツを25セント足らずで買うことができる。(p219)
●まず、綿の原料となる綿花は、なんとアメリカで作られています。
米国は、綿の生産高、輸出高など世界一を続けてきました。
そのアメリカの綿産業の強さは、徹底した機械化による省力化、
優れた生産方法と生産技術によるものもありますが、
国の膨大な補助金も影響しています。
・米国政府が支出している綿関連の補助金総額(2000年は約40億ドル)は、
世界最貧の綿産国数ヶ国の国民総生産(GNP)を上回るばかりか、
米国国際開発庁(USAID)のアフリカ関連予算よりも多い。(p73)
●そして、綿は中国に移動し、糸に紡がれ、布となり、裁断され
Tシャツとなります。
たしかに中国では農村から出稼ぎにでてきた女性たちが、
低賃金で働いています。
しかし、歴史的に見れば、日本もそうだったように、
発展途上国においては、低賃金で仕事を請け負い、
国として発展の基礎を作っているのは事実なのでしょう。
・先進国の生産者も途上国の生産者もともに、自由市場からの保護、
特に中国の脅威からの保護を求めている。しかも中国の脅威とは、
産業保護政策(国営企業、戸籍制度、補助金、通貨管理制度)
によるものであることから、市場の脅威ではなく政治の脅威なので
ある。(p318)
●中国で製造されたTシャツは、アメリカに戻ろうとしますが、
そこでは輸入規制という壁があります。
輸入品の数量制限、関税など政治により決められた規制で
輸入量は決まっています。
これらは、輸入制限を求める製造団体と、
輸入の自由を求める小売業界との戦いのように見えました。
●こうしてTシャツの流れを見てくると、
そこには自由貿易というようよりは、
政治による規制の世界が見えてきます。
つまり、いかに他国と貿易するかというのは、
政治で決まるものであり、
国民間の利害調整の結果ということです。
●この本を読んで、国際貿易の実体が少しだけ見えてきました。
貿易についての実体を学ぶための良書として★3つとします。
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■この本で私が共感したところは次のとおりです。
・彼ら(学生)にとっては、企業も、グローバル化も、国際通貨基金(IMF)
も世界貿易機関(WTO)も、すべて労働者の尊厳と生活を
容赦なく踏みにじる悪者なのであった。(p6)
・いつの時代にも市場と貿易によって若い女性たちが搾取工場に
縛り付けられたが、彼女たちはむしろ自由になったということ、
そして、農民は農村にいることこそ一番と決めつける前に、
もう一度よく考えた方がいいと。(p322)
・インドのアンドラ・プラデシュ州では、作物を害虫に食い尽くされた
綿生産者500人以上が自殺をした。
害虫が綿を食い荒らす音は農民の耳にも届き、
その不気味な音で村民は一睡もできなかったという。(p81)
▼引用は、この本からです。
東洋経済新報社 (2006/12)
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切り口がすばらしい!
自由貿易と雇用維持
【私の評価】★★★☆☆(77点)
■著者経歴・・・ペトラ・リボリ
米国ジョージタウン大学マクドナウ・ビジネススクール教授。
国際ビジネスにおけるビジネス倫理や社会公正問題が専門。
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