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【書評】「リーダーのための認知バイアスの科学」藤田政博

2025/11/20公開 更新
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「リーダーのための認知バイアスの科学」藤田政博


【私の評価】★★★☆☆(79点)


要約と感想レビュー


ナンセンスな数式効果

ビッグモーターと損保ジャパンの問題、日大アメフト部問題、東芝不正会計事件、ジャーニーズ事務所問題などの社会事件を心理学の認知バイアスから説明しようという一冊です。


例えば、ビッグモーターの事件では副社長が事故車両の修理に1台当たり14万円前後のノルマを課していました。工場ではノルマを達成するために、故意に車を破壊して修理費を水増ししていたのです。


東芝でも元副会長がパソコン事業部に120億円の営業利益の改善を強く求めたため、利益のかさ上げが行われました。同じようにインフラ工事やパソコン事業など、7年間で2300億円もかさ上げされていたという。


著者は、数字が入っていると実現可能性がなくても説得力が増す「ナンセンスな数式効果」で説明しています。


そうした効果があるかもしれませんが、私には、そうした無理な業務命令を許していた組織の問題のほうが大きいと感じますが、みなさんはどうでしょうか。


(ビッグモーターは)事故車両の修理による収益として、工場に1台当たり14万円前後のノルマを課していた・・社員のがんばりでは修理の金額を増やすのは困難です(p92)

短期的利益を得に感じる「時間割引」

ビッグモーターの修理費水増しによる保険金不正請求事件については、損保ジャパンの対応も問題となりました。


不正に気付いた各保険会社が取引を中断し、調査をビッグモーターに依頼し、「不正はなかった」との報告を受けました。 不正の可能性が高いにもかかわらず、損保ジャパンだけが、ビッグモーターとの取引を再開したのです。他社は再調査をビッグモーターに依頼しています。


著者は損保ジャパンの社長が「ビッグモーターを信じよう」と主張してビッグモーターとの取引を再開したのは、 短期的利益を得に感じる「時間割引」の影響だと説明しています。


確かに社長は短期的利益を取りに行ったのだと思いますが、私には、社長の提案をそのまま通した組織の問題のほうが大きいと感じます。他の役員は、会議の中でどんな意見を出したのか聞きたいのです。


損保ジャパンは、社長が不正の可能性を認識しながら、それまで中断していたビッグモータ‐との取引を再開するなど、不適切な対応を取っていました(p87)

都合のいい方を選ぶ「確証バイアス」

著者は自分の頭の中に仮説があると、その仮説に都合のいい事象が目に入ってしまい仮説を正しいと考えてしまうことを「確証バイアス」と説明しています。


例えば、ジャニーズ事務所問題では東京高裁が、ジャニーズ喜多川氏による性加害は存在したものと認定したことがあります。ところが、新聞、テレビ局は、このニュースを取り上げず、ジャニーズ事務所との取引を続けたのです。


ジャニーズ事務所の意向に逆らえば、タレントを引き上げるという圧力があったというのも事実です。各テレビ局は自社の検証番組を放映し、ジャニーズ事務所への忖度を認めたケースもあります。


検証番組の中では、男性への性被害という認識がなかったというものもあり、著者は「確証バイアス」で説明するのです。


私から見ると、自社の利益を優先したテレビ局の対応は損保ジャパンと同じであり、そうした状況を良しとした新聞、テレビ局の組織の問題が大きいと感じます。


集団極化現象・・ユダヤ社会では「全員一致の議決は無効」という考えがあります(p195)

嘘でも100回言えば真実となる

この本では嘘でも100回聞くと真実と感じる「真実性の錯覚」を紹介しています。


NHKは2024年1月1日にウクライナ戦争について、「欧米の「支援疲れ」も指摘されています」と報道しました。著者が世論調査の結果を確認してみると、支持する市民の比率は下がっているものの、ウクライナ支援を支持する市民が多数派でした。NHKは「支援疲れ」という言葉で、視聴者を錯覚させようとしたのです。


また、2000年頃に凶悪な少年犯罪が繰り返し報道され、その結果、2023年4月1日から18歳、19歳の少年の犯罪について厳罰化する改正少年法が施行されました。著者は実際には、1983年ごろから2021年ごろまで、少年犯罪は減少していたと説明しています。メディアは世論を操作し、法律までコントロールできるのです。


事例が盛り沢山でそういえば、そんな事件があったなと思い出しました。新聞やテレビは事件の表面だけ報道するだけで、それも正確なのか角度をつけているのかわからないので、それら事件の真相は自分で調べてみるしかないのかもしれません。


藤田さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言


・不作為バイアス・・・年間1000人の命を奪っている感染症・・感染症にかからない薬が開発されたとしましょう。しかし、強い薬のため副作用が生じ、年間700人ほどの命が奪われてしまいます(p41)


・現状維持バイアス・・ビジネスではムダなことをやるほうがいい・・試行錯誤(p79)


・「うちはこうやってきた」・・・その慣例ができた場面を考えずに常に適用していると、おかしなことも生じます(p29)


・行為者観察者バイアス・・自分が眠いときは「昨夜は遅くまで企画書を見ていたから」と思い、部下が眠そうにしているときは「あいつはだらしがないな」と思ったことはありませんか(p167)


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「リーダーのための認知バイアスの科学」藤田政博
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藤田政博 (著)、秀和システム新社


【私の評価】★★★☆☆(79点)


目次


第1章 なぜリーダーにバイアス対策が必要なのか?
第2章 実例から押さえておきたい重大(十大)バイアス
第3章 身近に潜む組織に悪影響な20のバイアス
第4章 意思決定を妨げる錯誤に要注意
第5章 バイアスや錯誤を把握して、ベターな問題解決を


著者経歴


藤田政博(ふじた まさひろ)・・・関西大学社会学部心理学専攻教授。東京大学法学部卒業、大学院法学政治学研究科博士課程修了。専門は、社会心理学、法と心理学、法社会学。研究では、社会心理学を司法の問題に応用する研究をおこなっている。


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