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【書評】「再起動 リブート―波瀾万丈のベンチャー経営を描き尽くした真実の物語」斉藤 徹

2025/09/10公開 更新
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「再起動 リブート―波瀾万丈のベンチャー経営を描き尽くした真実の物語」斉藤 徹


【私の評価】★★★★★(98点)


要約と感想レビュー


創業2年で月商1億円を達成

著者は日本IBMを退社、独立し、当時大ヒットしたダイヤルQ2のコンサルティングや運用代行サービスで、創業2年で月商1億円を達成します。


ただ、急成長を目指すあまり,保証金や広告前受金を設備投資や運転資金に使ってしまっていたのです。事業が拡大しているうちは問題ありませんが、ダイヤルQ2ブームが去り、業績が下降線に入ると、とたんに資金繰りが苦しくなっていきました。


さらに、追い打ちをかけるように、技術系社員のうち,4名がオウム真理教の信者で、一台数百万円で販売しているシステムを数台横流しされていたのです。オウムの信者には辞めてもらいましたが、10人も辞めていったという。


運転資金が減っていく状況に対し、今の著者なら、すぐに組織をスリムにし、経費を減らし、赤字体質を解消しようとするはずですが、経験のない著者は、家を担保にいれ、借金で時間を稼ごうとしてしまいました。


それでも業績は改善せす、最後は、巨漢のコンサルタントに頼ることになったのです。巨漢コンサルはアダルト系営業に注力し、給料削減、債券をリスケし、取引先への手形の支払期間を伸ばし、手元の資金を増やす打ち手を実行していきます。


会社はギリギリ破綻を逃れますが、会社は巨漢コンサルに依存することになり、巨漢コンサルの高級車、高級マンションも会社が負担するようになってしまうのです。


僕はリストラに踏み切れなかった。なんとかして事業を維持したい・・家を担保に入れる(p51)

ソフトウェア受託開発事業の売却

会社はアダルト事業を推進しながら、経営をぎりぎり続けていましたが、その利益は借金返済と、巨漢コンサルタントへの支払いに使われる状況でした。


著者は、そうした状況に対し、一つの決断をします。それは収益事業のアダルト系は巨漢コンサルに譲渡し,借金は自分が丸抱えしたうえで,ビジネス系の事業を自分が新たに立ち上げるということです。著者はアダルト系で稼ぐことと、巨漢コンサルに依存していることの2つの依存からの決別を決断したのです。


著者が新たに開発したのは、ネットから送信可能とする「インターネットFAX」です。また、インターネットを通じて自宅で働ける人々を募集する「バーチャルスタッフ」システムを開発しました。


さらにダイヤルQ2の「イケテル・スーパーダイヤル パート2」をたった一カ月で開発して、事業は順調に育っていったのです。


しかし当時はバブル崩壊で、銀行は資金を引き揚げていきます。売上債権を担保に貸付してくれていた日本リースも経営破綻し、遂に資金繰りが回らなくなってしまいました。そこで考えたのが事業売却です。電話情報サービス事業は残し、ソフトウェア受託開発事業を売却するのです。


1999年、ソフトウェア受託開発事業の売却により、著者は1億円を調達し、日本リースからの借入金1億円を返済することができたのです。


すでに貸した資金を強引に回収する「貸しはがし」・・契約更新できなくなるケースが相次いだ・・資金繰りに余裕などまったくない(p106)

出資者に会社を乗っ取られる

著者の手に残ったのは、光通信から受託する携帯電話サービス「イケテル・スーパーダイヤル」のシステム開発運営でした。そして、2000年に入ると,ネットバブルに乗り、著者は光通信とその関係会社から10億円の出資を受け、借入金をすべて返済することができました。


さらに調子に乗って、ハイレベルの人材を集めることに集中し、国内トップのJavaエンジニアが数人いるくらい凄腕技術者が集結していたという。ところが、技術力ばかりに集中しすぎて,社員間の信頼関係の構築を怠っていたことが表面化します。京都ラボと東京ラボの技術者が対立し、結局、社内コンペで敗北した東京ラボの社員が大量退社する事態となってしまったのです。


さらに追い打ちをかけるように、半年前、個人で第一勧銀から借入していた3億円を返却するように第一勧銀から通告されます。その3億円は、自社株を購入した形で、会社の運転資金として使われていたのです。


そこで著者は会社に相談するのですが、会社としては、それは個人の借金の問題であり、対応できないという。つまり会社としては、個人の借金のために融資はできないということです。さらに、会社はこの件を著者の責任問題として、会長である著者の退任を提案してきました。


実は、会社はIT,金融、商社の3社から10億円の出資を受けており、その契約には、三社の提案に対して反対した場合には、三社の持つ株式を10億円で買い戻さなくてはならないという条項があったのです。10億円を手にした段階で、会社の実権は外部の株主三社に握られていたのです。

 
外部の株主三社から派遣されていた非常勤取締役は、もし著者の持っている未上場株式が売却されると、時価が判明し、仮に時価が10億円より下回ると責任問題となるため、責任を取って会社から去ってほしいと言ってきたのです。


創業以来、僕はフレックスファームのすべての金融債務に対して連帯保証をしていた。会社の借金は個人の借金だった。そのため、オーナーとして会社と個人の区別がない感覚に陥っていた(p160)

自社株売却で借金を整理

著者は納得はいかないものの、外部の株主三社の非常勤取締役の意向に沿った形で、会長を辞任しました。銀行からは担保の自宅売却の手続きを始めると通告され、家族にも不安が走りました。


しかし、ここで落ち込む著者ではありません。家の家計を絞り、ネットを使って日銭稼ぎを考えます。


それは、ヤフオクで中古オフィス家具を売却代行するビジネスです。さらに、その場で買い取りサービスも始め、月100万円くらいの現金が手元に残るようになりました。


家計が安定した中で、辞任した会社の業績が悪く、再度、会社に戻ってほしいとのオファーがあったのです。著者は、新規事業立ち上げ、事業部制での収益管理を行い業績を立て直すのです。 


ここで著者は一つの決断をします。それは、銀行に対して株主代表訴訟を起こすことです。そして裁判の中で、会社から追い出された経緯も社会にオープンにしようというある意味、脅しです。


その結果、外部の株主三社の非常勤取締役の態度が変わり、それまで反対していた著者の持っている未上場株式の売却に成功するのです。


会社に復帰してフレックスファームの経営を立て直す以外、僕には選択の余地はなかった。僕は怒りを飲み込み、冷静さを装った(p199)

ソフト開発の課題要求で大損失

借金を整理した著者は、こりずに当時注目されていたソーシャルネットワークに興味を持ちます。口コミで広がっていくソーシャルメディアの可能性に気づき、著者は株式会社ループス・コミュニケーションズを創業し、ソーシャルネットワークのソフトウェアを開発するのです。


「ループスSNS」を完成させ、企業向けSNS「アイキューブ」も開発しました。


その勢いで1億円プロジェクトの株式情報SNSの開発を受託するのです。


ところが、金融出身者の集まりである発注者から、金融基幹システム並みのドキュメント(設計書やテスト計画書など)を要求され、大赤字を出してしまいます。下請け会社から一方的に契約解除され、債務不履行の訴訟も起こされました。


そこで「ループスSNS」の事業売却で状況を打開しようとしますが、契約直前で、リーマンショックが発生して交渉がストップ。結局、大きな利益の出ていた企業向けSNS「アイキューブ」を安値で売却することになるのです。
 

著者はベンチャーキャピタルから、株式の買い戻しを要求され、数十万円でループスの株式をすべて買い取ることになるのです。


最大の問題は、納品物のレベルに十分な合意がないまま開発を開始してしまったことだった(p234)

僕には四度死ぬチャンスがあった

あまりに上下がありすぎて、わけがわからなくなってきました。著者は「僕には四度,死ぬチャンスがあったんだ」と語っています。しかし、著者は死なずにこの本を書いているのです。


著者は失敗経験からお金より大切なもの。それは心の平穏、仲間や顧客の笑顔、社会貢献の実感、そして僕自身の成長だと悟ったという。幸せはもっと身近なところにあったのです。著者は社員に愛され、顧客に愛され、地域に歓迎される三方よしの経営を目指して、再出発しています。


この本からわかるのは、オーナーに連帯保証を求める融資制度と、失敗を許さない日本の風土がベンチャーの育成を阻害しているということです。シリコンバレーでは、連帯保証は求めないし、再チャレンジはむしろ尊敬されるのです。だからこそ、起業家はリスクをとって何度も起業に挑戦できるのです。
 

著者は、成功を追い求めるあまり、急ぎすぎてしまったと反省しています。金、名声、権力など幸せを外に求めれば、欲望はどこまでも満たされず、心の喜びは続かないないのです。最後に、著者のアドバイスに心を打たれました。それは、次の言葉です。


誰にでも苦しい時が必ずあるだろう。苦境に陥ると、人は陰口を叩くものだ。徒党を組んで追い落としにかかる人もいる。でも、気にすることはない。その人にもその人の人生があり、家族や友人を大切にして、泣き笑いしながら精一杯生きているだけなのだ(p299)


最高に痺れました。斉藤さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言


・創業時にはオープンで家庭的なムードが大切だ・・オフィスビルに移ると社員の意識が業務モードになってしまう・・僕は一軒家にこだわった。すると自然と人が集い、笑顔が生まれるような職場が共感を呼び、優秀な技術者が集まってきた(p231)


・どの媒体のどの枠に,どんなデザインとコピーを施して,どのタイミングで広告を投入すると,どんな反応があるかを測定する(p30)


・岩郷氏は書店やコンビニでいかがわしい雑誌をどっさり買ってくると,広告を掲載している会社に片っ端から電話をかけるよう,営業社員に指示した・・緻密に練られたシナリオをベースに,岩郷氏自身が顧客となって電話営業を何度もシミュレーションする(p62)


▼引用は、この本からです
「再起動 リブート―波瀾万丈のベンチャー経営を描き尽くした真実の物語」斉藤 徹
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斉藤 徹(著)、ダイヤモンド社


【私の評価】★★★★★(98点)


目次


第1話 ブレイクスルー―自由への始動
第2話 リアリティ―起業の現実
第3話 ブレイクアウェイ―依存心との訣別
第4話 ベンチャーバブル―狂乱の宴
第5話 ロックボトム―失意と戦いの日々
第6話 パラダイムシフト―再挑戦、そして覚醒
第7話 リブート―再起動


著者経歴


斉藤 徹(さいとう とおる)・・・株式会社ループス・コミュニケーションズ代表取締役社長。1961年、神奈川県川崎生まれ。慶應義塾大学理工学部を経て、1985年、日本IBM株式会社入社。29歳で日本IBMを退職。1991年、株式会社フレックスファームを創業し、ダイヤルQ2ブームに乗り、月商1億円を突破したが、資金繰りに苦しみ、アダルト事業を売却する。その後、フレックスファームは、未上場ながらも時価総額100億円のベンチャーとなるが、バブル崩壊を機に銀行の貸しはがしに遭う。40歳にして創業した会社を追われ、3 億円の借金を背負う。銀行から自宅まで競売にかけられるが、事業売却で借金を清算する。2005年、株式会社ループス・コミュニケーションズを創業し、ソーシャルメディアのビジネス活用に関するコンサルティング事業を幅広く展開。ソーシャルシフトの提唱者として「透明な時代におけるビジネス改革」を企業に提言している。


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