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「搾取される研究者たち 産学共同研究の失敗学」山田剛志

2024/04/08公開 更新
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「搾取される研究者たち 産学共同研究の失敗学」山田剛志


【私の評価】★★★☆☆(73点)


要約と感想レビュー

特許権は誰にあるのか

大学教員でありながら、弁護士としても活動している著者の体験談から、大学における産学連携の問題を考えます。この本では著者の三つの体験談が紹介されています。


最初の事例は、大学と企業の共同研究での発明について、企業側が特許の独占を要求し、大学のA講師がそれを拒絶すると、誹謗中傷を含んだ文書が大学に送付されたというものです。


大学は利益を目的としていないのだから、共同研究の利益は企業側のものだという考え方をする人や企業がいるらしいのです。特に資金や技術的に劣る中小企業に多いという。本当にいるのでしょうか?びっくり。


本件では大学などに手紙などを出さないことを求める仮処分の手続きを行ったものの、企業側が特許権の裁判を起こしています。裁判の結果、実験ノートなどの物証から大学のA講師が発明者として認められたという。


特許権については、青色発光ダイオードで日亜化学工業と中村修二教授が争ったように、後々になって大きな問題となることがあるので、ルールを確認しておく必要があるのでしょう。


会社があらかじめ就業規則に「職務発明は会社に帰属する」と書いておけば、特許は会社のものとなる・・(従業員の特許となっていても)通常実施権が設定されることになっていて、結果として企業が使えるように調整された(p84)

共同研究は下請けの場合も

二つ目は大学と企業の共同研究で、大学側が試作品を期限までに完成させることができず、問題となった事例です。大学では2002年の独立行政法人化以降、一般研究費が減らされて、企業との共同研究で運営資金を補填するようになったという。


しかし実際には共同研究とは名ばかりで、実際には相手企業から材料を購入して、試作品を制作するなどの下請け的な仕事になっている場合が多いというのです。本件でも教授は共同研究の実施を助教や院生に丸投げして、過重労働で助教がうつ病になってしまいます。助教や学生を安く使おうとした教授が悪いのか、それとも企業が悪いのか。


欧米では助教、院生、学生は共同研究は有償で手伝うことがあるようですが、日本では無償で手伝う場合が多いようなのです。だとすれば、欧米のように事前に必要な費用とやる内容を明確にすることなしに共同研究を実施してしまっている両当事者が悪いということになります。


共同研究・・相手企業から材料や試料を買わなければならない制約があったりする・・この事例は、共同研究というより、試作品製作の下請けだった(p114)

任期付きと終身在職権

三つ目の事例は、大学発ベンチャー企業で働くポストドクターの事例です。任期付きの正社員とパート研究員の2名の事例が紹介されています。この事例でわかるのは、大学では任期付きの役職が多いということです。普通企業では65歳まで働くことを保障していますが、大学の若い研究員は5年程度の就業の保障しかないのです。


海外の大学でもテニュア(終身在職権)を持っている人は少ないのですが、現在の日本の大学の任期は、海外と比較しても適正なのでしょうか。本事例では1名が、民間企業に転職しています。


著者の体験談ですので、統計的にすべてを代表しているわけではありません。もう少し大学の産学連携の実態については、調査が必要だと思いました。山田さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・資金も技術もない中小企業が、大学と共同研究するのは「無償で技術も人も使える」」ためだ(p47)


・文部科学省は、2020年度から若手研究者の任期を「原則5年程度以上」とすることを目標に研究環境の改善に乗り出す(p194)


・大学発ベンチャー企業が、ポストドクターに限らず従業員を雇うならば、競争的資金以外のキャッシュフロー(売上)を安定的に確保しなければならない(p198)


▼引用は、この本からです
「搾取される研究者たち 産学共同研究の失敗学」山田剛志
山田剛志、光文社


【私の評価】★★★☆☆(73点)


目次

序 章 研究者はいかに搾取されているか
第1章 共同研究と特許権
第2章 共同研究契約と若手研究者
第3章 大学発ベンチャー企業とポストドクター


著者経歴

山田剛志(やまだ つよし)・・・成城大学教授・弁護士・博士(法学)。新潟大学法学部卒業後、銀行員を経て、一橋大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得。アメリカ・コロンビア大学ロースクール客員研究員。専攻は会社法・金融法(企業買収など)。専門業績多数。新潟大学准教授を経て、2010年成城大学法学部教授。上場会社社外監査役。2004年新潟弁護士会、2010年東京弁護士会に登録。2020年より、弁護士法人日新法律事務所設立


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