「半導体ビジネスの覇者 TSMCはなぜ世界一になれたのか?」王 百禄
2024/01/22公開 更新本のソムリエ [PR]
Tweet
【私の評価】★★★☆☆(75点)
要約と感想レビュー
モリス・チャンがTSMCを設立
米中対立により、米国は中国への半導体の先端技術の輸出禁止措置を行っています。さらに中国の台湾侵攻を見越して、TSMCの半導体工場を日米韓欧に建設している最中です。特に5nmや3nmプロセスといった半導体製造技術を持つ台湾のTSMCをめぐって、中国と欧米の綱引きが続くはずです。
この本ではこの台湾TSMCがいかにして生まれ、世界一の半導体ファウンドリー(顧客の設計データに基づき受託生産するサービス)となったのか説明しています。
TSMCは1987年、実業家のモリス・チャン(張忠謀)が、台湾政府から依頼を受けて設立しました。台湾政府は、新竹サイエンスパークの設置に合わせて、半導体企業を誘致することとし、米国テキサス・インスツルメンツで半導体部門の責任者であったモリス・チャンに白羽の矢を立てたのです。
政府による48.3%の出資・・民間企業や党営企業から何とか24.2%分の出資金を集めることに成功(p87)
半導体製造産業の垂直分業化
TSMCが世界一の半導体ファウンドリーとなったのは、時代の流れ、資金調達ができたこと、人材が確保できたためでしょう。半導体製造産業は、垂直統合から垂直分業に向かっていました。「ハーバード・ビジネス・レビュー」が1991年に半導体産業は「ファブレス半導体企業」という新しいビジネスモデルに移行していくと指摘したように半導体ファウンドリーに半導体製造を外注する企業が増えていたのです。
資金調達については、政府が40%を出資、台湾企業から25%を出資しており、国家プロジェクトであったことがわかります。また、人材についても、米国で半導体事業のプロフェッショナルであるモリス・チャンをトップとして招いただけではなく、台湾の電子研究所からスタッフを移籍させたり、工業技術研究院からの人材を受け入れることで、技術者チームを確保することができたのです。
起業チーム・・UMCのCEO(のちに会長)である曹興誠、宣明智(後任のCEO)、劉英達(工場長)は電子研究所の出身であり、TCMCのモリスも含め、いずれも工業技術研究院の出身(p214)
民主主義陣営と中国陣営の戦い
著者は米中対立により、10年後、世界の半導体産業は自由で民主的な国々と、中国を中心とする一帯一路構想の参加国の二つの陣営に分かれると予測しています。10年後、台湾TSMCが民主主義の陣営にいるのか、それとも中国の陣営にいるのか、未来はどうなるのでしょうか。台湾の運命と連動しそうです。
日本では役所が支援するとその産業は弱くなると言われていますが、適切な人とカネとタイミングと技術がそろえば、国家プロジェクトでも成功する可能性があることがわかりました。公表されている内容をまとめた一冊ということで★3つとしました。王さん、良い本をありがとうございました。
無料メルマガ「1分間書評!『一日一冊:人生の智恵』」(独自配信) 3万人が読んでいる定番書評メルマガ(独自配信)です。「空メール購読」ボタンから空メールを送信してください。「空メール」がうまくいかない人は、「こちら」から登録してください。 |
この本で私が共感した名言
・モリスはどんなに忙しくても1週間に新しい本を1冊読み・・友人をつくり視野と見識を広げるために「世界を旅する」習慣だ(p102)
・TSMCの制度やマネジメントを深く見ていくと「外見は米国式、中身は台湾式」・・2000年当時、会長だったモリスは、取締役会の構成について9人中5人を独立取締役にする(p125)
・熊本工場は12/16nm、26/28nmプロセスというミドルクラスの半導体製造拠点になり、製品は主に、日本の自動車、家電、通信などの業界向けだ(p19)
【私の評価】★★★☆☆(72点)
目次
第1章 護国神山、TSMC
第2章 TSMC誕生の歴史
第3章 モリス・チャンとは何者か
第4章 TSMCの七つの競争優位性
第5章 TSMCの技術開発秘話
第6章 今後10年を展望する
著者経歴
王 百禄(わん・ばいるー)・・・科学技術ジャーナリスト、作家。1982年に国立台湾科技大学を卒業後、中国時報グループに入社後、『工商時報』の科学技術担当記者として台湾のエレクトロニクス産業や半導体産業などを黎明期から取材してきた。台湾科技大学で講師、准教授を務めたのち、現在はジャーナリストとして活動している。
この記事が参考になったと思った方は、クリックをお願いいたします。
↓ ↓ ↓
この記事が気に入ったらいいね!
コメントする