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「習慣と脳の科学―どうしても変えられないのはどうしてか」ラッセル・A・ポルドラック

2023/07/13公開 更新
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「習慣と脳の科学―どうしても変えられないのはどうしてか」ラッセル・A・ポルドラック


【私の評価】★★★☆☆(79点)


要約と感想レビュー

自制心のある人は良い習慣を作りやすい

スタンフォード大学心理学部教授による、人間の習慣について科学的な視点でわかっていることをまとめた一冊です。まず、習慣を変えるという視点で、なぜ人間はタバコやアルコールやギャンブルや多食依存症から抜け出せないのでしょうか。


データとしては、自制心の低い子供は若年層になってからアルコールで問題を起こす可能性が高いというデータがあります。また、禁煙を試みた人が成功する割合は、家庭内に喫煙者がいない場合は10倍、職場が禁煙である場合は2倍になるという。


著者が様々な実験結果から引き出した結論は、自制心が強いと思われる人は、衝動を抑えるのが得意というよりも、そもそも自制心を働かせる必要性を回避するのです。つまり、自制心のある人は良い習慣を作りやすく、結果として、努力を伴う自制心を発揮する必要性も減るというのです。


・喫煙者は、他人がタバコを吸っているのを見たり、紫煙の漂うバーに入ったりするだけで、タバコに火をつけたいという衝動に駆られる(p64)


実験による検証結果

この本の最大の特徴は、実験の結果で「習慣」というものの特徴を考察していることです。巷にあふれる習慣に関する書籍は、あまりに根拠が薄弱なものが多いのです。例えば、欧米では日本の瞑想からヒントを得て「マインドフルネス」が流行っていますが、検証試験の多くが定義があいまいで、サンプル数が少ないなど質の低いものであるという。同じように、母親が肥満である場合、子供は6倍以上の確率で肥満になるとして、本来は、遺伝的要因と環境的要因について多くのランダムなサンプルでデータを分析しなければ因果関係や寄与度を測ることは難しいのです。


実は大学の研究であっても、質が疑われるものが多いという。だから最近、Nature等の学術誌では、「事前登録研究論文」と呼ばれる実験の前に、第三者に研究の仮説と実験計画を提出して成果が予想どおりかそうでないのか、検証するようになっているのです。「事前登録」義務化前は、半数以上が良い結果であったのに、義務化後は1割以下に低下したというのです。つまり、多くの研究では、実験結果を見て良い結果が出たかのように方向修正していたわけです。


・「事前登録」と呼ばれる手法・・義務化前は、全臨床試験の半数以上が肯定的な結果・・義務化後は1割以下に低下した・・「ゴールポストを動かしていた」ことを示唆している(p245)


人の自制心に頼ることはできない

麻薬もギャンブルも甘い食べ物もネットサーフィンも人間の依存性につけこんで、人間はそのマイナス点がわかっているにもかかわらず、その誘惑から逃げられない人が多いのです。そうした依存から逃れるためには、その人の自制心に頼ることはできません。ルールを定めることで止められる人もいれば、そのマイナス点を学ぶことで止められる人もいるので、そうした複合的な支援が必要なのでしょう。


多くの習慣本に比べて実験データが多く納得性が高いものの、直訳で読みにくさが目立ちました。ポルドラックさん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・爪を噛むことほど、厄介な習慣もない。子どもの約半数、若年成人の約2割がこの行動を習慣にしていると言われている・・妻に爪のなかにどれほど恐ろしい細菌が生息するかを教えられたことをきかっけに、やめることができた(p58)


・ルールを定めることは行動変容にとって効果的である(p205)


・ドーパミンを遮断しても、基本的な食欲・・には支障がないように見えるが、食物を得るために必要な行動をとったり・・する意欲は阻害されるのである(p50)


・ある食べ物を口にした後に気分が悪くなり、それ以来その食べ物を嫌悪するようになった・・・神経科学で「味覚嫌悪学習」と呼ばれる(p225)


▼引用は、この本からです
「習慣と脳の科学―どうしても変えられないのはどうしてか」ラッセル・A・ポルドラック
ラッセル・A・ポルドラック、みすず書房


【私の評価】★★★☆☆(79点)


目次

第1部 習慣の機械―なぜ人は習慣から抜け出せないのか
第2部 習慣を変えるには―行動変容の科学



著者経歴

ラッセル・A・ポルドラック(Russell A. Poldrack)・・・スタンフォード大学心理学部教授。イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校にてPh.D.を取得。2014年より現職。人間の脳が、意思決定や実行機能調節、学習や記憶をどのように行っているのかを理解することを目標としている。計算神経科学に基づいたツールの開発や、よりよいデータの解釈に寄与するリソースの提供を通して、研究実践の改革に取り組んでいる。


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