「PIXAR <ピクサー> 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話 」ローレンス・レビー
2023/06/29公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★★(94点)
要約と感想レビュー
「トイ・ストーリー」の裏にあったドラマとは?
WBCの準決勝、決勝の逆転劇のように時として現実は小説より奇跡のようなドラマを見せてくれます。1995年に発表されたフルCGアニメ「トイ・ストーリー」の裏には、アニメスタジオ・ピクサーの大逆転劇があったのです。著者がピクサーにCFO(最高財務責任者)としてスティーブ・ジョブズに招聘されたのはちょうど「トイ・ストーリー」が完成しようかという1994年末のことです。
ピクサーは、ルーカスフィルムのCG部門を1986年にスティーブ・ジョブズが買収。コンピューター部門が欲しかったジョブズでしたが、赤字が続き、コンピューター部門は売却され、CG部門だけが残ったのが当時のピクサーだったのです。
当時はディズニーから制作費を出してもらって「トイ・ストーリー」を制作しており、その完成度の高さに著者は驚愕するのです。しかし、その「トイ・ストーリー」がヒットするのかどうかはわからないし、ピクサーは運営資金を毎月ジョブズに提供してもらうほど困窮していました。著者は迷いましたが、メンターから「もっと自分の直感を信じたほうがいい・・きみがすべきだと思うことができなければ、そのときは辞めればいいんだよ」と言われ、ピクサー入社を決めたのです。
・スティーブ・ジョブズ・・気まぐれな暴君なのか、それとも、パーソナルコンピューター革命を推進した天才なのか(p18)
ジョブズとピクサーの対立
ピクサーに入社してみると、ジョブズとピクサーとが対立していることがわかってきました。すばらしい映画を作ろうという制作スタッフと10年間、ほどんど利益を出していないピクサーに5000万ドル(70億円)もの私財を出してきたジョブズとの対立は必然だったのです。著者はその中間に立って、ピクサーの成長戦略を考えました。ピクサーの置かれている現状を把握をしてみると、ピクサーはディズニーとの契約でがんじがらめに縛られていました。
まず、制作費用は全額ディズニー持ちという契約を分析してみると、全収益のうちピクサーの持ち分は10%に満たない額であり、かつ、3本の映画を作り終えるまで、ディズニー以外の仕事はできな契約でした。また、どういう映画を制作するかもディズニーの承認が必要という内容だったのです。
また、実写映画では監督、俳優、カメラ、エキストラなど関係者は制作のたびに集めるのに対し、アニメ制作会社は社員を継続雇用しています。つまり、アニメの制作の仕事がなくても給与を支払い続けなければならないので、作品を作り続け、ヒットさせ続けなければならないという構造的な課題を持っていたのです。
著者がジョブズと策定した成長方針は、ディズニーとの契約をより平等なものに変更することでした。ピクサーも制作費用を負担すること、制作作品数を増やすことを条件に、ピクサーの取り分を増やし、ピクサーブランドを明記したうえで作品を公開できるようにすることです。
・「駒がいまどう配置されているのか、それを変える術はない。大事なのは、次の一手をどう指すか、だ」(p71)
「トイ・ストーリー」の大ヒット
成長方針を進めるためには、まずIPO(新規株式公開)を成功させ、自己資金を集めなくてはなりません。しかし、ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーといった大手投資銀行は断ってきました。「トイ・ストーリー」がヒットするのかどうかわからない段階で、IPO(新規株式公開)を引き受ける投資銀行が存在するのかさえ、危ぶまれる状況だったのです。
結果して、IPO(新規株式公開)を引き受ける投資銀行が見つかり、「トイ・ストーリー」の公開前に株式公開して、資金調達することができました。自己資金で作品を作れるだけの資金調達が成功し、「トイ・ストーリー」が大ヒットして、やっとディズニーと契約見直しの交渉ができる最低限の条件がそろったのです。ディズニーはこのまま3本の映画をピクサーに作らせて、利益のほとんどを手に入れるのか、それともピクサーにとって平等な条件とするかわりに、長期の契約に見直すかどうかの決断を迫られたのです。
・なるべく包み隠さず投資家に語るのが一番だと思う・・リスクは、隠そうとしてもばえてしまう。どうせばれるなら、最初から率直に伝えたほうがいい(p139)
ディズニーとの契約見直し
ディズニーとの契約見直しでは、ピクサーをディズニーと同等に併記するのかどうかという点で暗礁に乗り上げました。ディズニーはディズニーブランドでの作品公開にこだわり、ピクサーはディズニー・ピクサー併記にこだわったのです。スティーブ・ジョブズの交渉術は、落としどころなど用意しないものです。要求をいったん決めたらそれが絶対であり、望むものが得られないなら、交渉は打ち切るというものでした。ブランドについて、ピクサーが対等な扱いを求め、結果してディズニーが折れたのです。
結果を見てみれば、「トイ・ストーリー」の大ヒットにより、ディズニーとの契約見直しが合意できて、ピクサーは儲かる会社に変わったのです。これは著者が言うように、すばらしい作品と適切な経営方針と契約先であるディズニーとの交渉の結果だったと感じました。2006年にピクサーはディズニーに買収され、完全子会社となっています。
印象的だったのは、著者が最後に「ビジネスや世界を一種のゲームだと思っている」という言葉です。つまり、ゲームの世界でピクサーという成功に係ることができたから成功と言えるだろう。しかし、ゲームだから成功することも、失敗する可能性もあったのです。自分はこのゲームをどうしたいのか。そう考えたとき、著者は昔から興味のあった東洋哲学を学びはじめたという。
考えさせられる一冊でした。星5とします。レビーさん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・すばらしいストーリーと新たなテクノロジー、練達の経営がそろった会社が未来を切り開くのです。そして、ピクサーにはそれがすべてそろっています(p174)
・映画の制作・・劇場用映画10本あたり6本から7本が採算割れ、1本がとんとんと言われている(p100)
・ストックオプション・・15%から40%と大きく幅があるが・・スティーブとして・・15%から20%くらいに抑えたいと考えていた(p114)
・我々は違うものを作ろうとしている。独創的な映画だ。いままで、だれも見聞きしたことのない物語だ(スティーブ・ジョブズ)(p217)
・「まやかしは、一度目ならだましたほうが悪い、二度目はだまされたほうが悪い」スティーブがよく口にする警句だ(p224)
【私の評価】★★★★★(94点)
目次
第1部 夢の始まり
第2部 熱狂的な成功
第3部 高く飛びすぎた
第4部 新世界へ
著者経歴
ローレンス・レビー(Lawrence Levy)・・・ロンドン生まれ。インディアナ大学卒、ハーバード・ロースクール修了。シリコンバレーの弁護士から会社経営に転じたあと、1994年、スティーブ・ジョブズ自身から声をかけられ、ピクサー・アニメーション・スタジオの最高財務責任者兼社長室メンバーに転進。ピクサーでは事業戦略の策定とIPOの実現を担当し、赤字のグラフィックス会社だったピクサーを上場させた。のちにピクサーの取締役にも就任している。カリフォルニア州パロアルト在住。いまは妻のヒラリーとふたり暮らしである。
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