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「サラ金の歴史-消費者金融と日本社会」小島 庸平

2022/10/07公開 更新
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「サラ金の歴史-消費者金融と日本社会」小島 庸平


【私の評価】★★★★☆(83点)


要約と感想レビュー

 東京大学の先生が、サラ金の歴史をまとめてくれた一冊です。


 サラ金のない戦前には、副業として親戚・知友人に金を高利で貸す「素人高利貸」が数多く存在していました。それも20日間で26%もの利息を取る小口の日掛金融です。毎日少額ずつ返済させることで、回収率を高めていたという。こうした「素人高利貸」が顧客をサラリーマンに拡大する中で、質屋を代替する形でサラ金が成長してきたのです。


 1960年代には団地の主婦をターゲットとした団地金融が生まれ、「現金の出前」というキャッチコピーで顧客を集めました。その団地金融も人件費がかさむため、「お客さまを待つスタイル」のサラ金が代わりに伸びていくのです。


 1960年代くらいまでは銀行は、サラ金に資金を提供しようとしなかったため、サラ金は資金調達に苦しんできたことがわかります。しかし、1970年代に入って信託銀行や、日本長期信用銀行が融資先の確保に苦しみ、サラ金向け融資に特に力を入れはじめる頃から、状況が変わっていきます。


 新規参入者が増え、サラ金業者間での競争が激しくなる中で、銀行から資金調達が可能だった武富士や、与信判断の簡易化などサービスを改善したり、レイクのご家族ローンなど顧客の拡大が図られました。


・1962年・・「質屋よさようなら、サラ金よこんにちは」・・サラ金は、直接的に質屋を代替する形で成長していく(p47)


 サラ金が問題となったのは、厳しい取り立てとそれを苦にした自殺が多発したからでしょう。これは1970年代後半に、サラ金が生命保険会社と提携して、団体信用生命保険の導入したことが大きな要因となっています。これは、利用客が死亡した場合、残債を生命保険でカバーする保険ですが、債務者の自殺を誘発することになったのです。


 特に男性の債務者は、家族に迷惑をかけられない、と自殺を選択する人が多かったというのです。大手消費者金融が受け取った団信の保険金を調査したところ25.5%が自殺によるもので、自殺の割合は2.8%大きく越えるものでした。サラ金大手各社が団信の廃止に踏み切る2006年まで、この問題は続いたのです。


・1978年に借金苦で自殺した180名のうち、90%に当たる162名は男性で、自殺に追い込まれた債務者には圧倒的に男性が多かった(p194)


 2006年制定、2010年から完全施行された改正貸金業法では金利は最高年20%に引き下げられ、「過払い金」は取り戻せることになっています。この法律も自由な経済活動という視点で見れば問題があるように見えますが、長年の歴史の結果であることもわかりました。


 サラ金の歴史は、いかに確実にお金を返してくれる人にお金を貸すのか、という工夫とアイデアの歴史でした。ちなみに、バングラディッシュのグラミン銀行がノーベル賞を受賞していますが、これは貧困者を5人グループにまとめて資金を貸し付け、連帯責任で返済させるという仕組みです。金利は年20%でサラ金よりも高いのです。


 多くのグラフが多用されていて好感を持ちました。小島さん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・サラ金が登場するまでは、親戚や知人・友人との信頼関係に支えられて、個人間の資金貸借が盛んに行われていた(p13)


・神内良一のプロミスは、迅速な信用調査を行うため・・融資対象を株式上場企業の社員または公務員とし・・ホワイトカラーの中でもエリート層に貸付を限定していた(p100)


・1972年・・・アメリカで主流となっていた店舗での小口信用貸付への転換を決断・・武富士は業績を大きく伸ばした(p131)


・外資の上陸・・・1977年・・・武富士が貸付利率を従来の年102.2%から一挙に62.06%へ引き下げる(p173)


・1982年10月には、サラ金問題研究会が編者となって小冊子「自分でできる破産」を発行した・・・自己破産件数増加の最初の呼び水となった(p218)


・1990年代に急速な成長を遂げたアイフルは、1998年から継続的に融資残高に対する貸倒れ金の比率が3%を超え、2002年には5.3%に上がった。2001年以降は、アコム・プロミス・武富士もそろって危険水準の3%を超え、2002年にはプロミスが5.1%、武富士が6.6%を記録している(p257)


▼引用は、この本からです
「サラ金の歴史-消費者金融と日本社会」小島 庸平
小島 庸平、中央公論新社


【私の評価】★★★★☆(83点)


目次

序章 家計とジェンダーから見た金融史
第1章 「素人高利貸」の時代―戦前期
第2章 質屋・月賦から団地金融へ―一九五〇~六〇年代
第3章 サラリーマン金融と「前向き」の資金需要―高度経済成長期
第4章 低成長期と「後ろ向き」の資金需要―一九七〇~八〇年代
第5章 サラ金で借りる人・働く人―サラ金パニックから冬の時代へ
第6章 長期不況下での成長と挫折―バブル期~二〇一〇年代
終章 「日本」が生んだサラ金



著者経歴

 小島庸平(こじま ようへい)・・・1982年東京生まれ.東京大学大学院経済学研究科准教授.2011年,東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了.博士(農学).東京農業大学国際食料情報学部助教などを経て現職.


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