「ごく平凡な記憶力の私が1年で全米記憶力チャンピオンになれた理由(わけ)」ジョシュア・フォア
2022/07/23公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(85点)
要約と感想レビュー
記憶術とは
記憶術のセミナーをすることになったので、手にした一冊です。著者はジャーナリストとして全米記憶力選手権の記事を書こうと取材いるうちに「記憶術」に興味を持ち、自ら記憶力向上トレーニングをはじめました。記憶力選手権では、15分で何人の人の顔と名前を記憶できるか、5分間で何桁の数字を記憶できるか、ランダムに並べられたトランプの順番を何分で記憶できるか、15分でランダムな英単語を何個記憶できるかなどを競います。実はそれぞれ記憶するためのテクニックが確立されているのです。
例えば、ランダムな数字を憶えるのなら、00~99の2桁の数字それぞれに、「人」と「動作」と「物」を割り当てます。例えば、「00」に対して「オオカミ」が「食べて」いるのが「お団子」、「34」の数字は「三四郎さん」が「切り刻んでいる」のが「CD」としましょう。すると003434は、オオカミ(00)が切り刻んでいる(34)のがCD(34)と記憶することができるのです。また、人の顔と名前を記憶するには、石山なら石だらけの山脈に、フォアなら4(フォー)に、レーガンを光線銃(レイ・ガン)に転換させればいいのです。それを人の顔にくっつけたり、関連づけたりすることで記憶します。
・君の名前はジョシュア・フォアだったね・・・私の助手(じょしゅ)のようだった君の姿が浮かんだよ・・・それから、自分が何かを4つ(フォー)に分けている姿を思い浮かべる(p61)
記憶の天才の嘘を見抜く
この本の中でビックリしたのは、「ぼくには数字が風景に見える」の著者ダニエル・タメットが天才的な記憶力の持ち主ではなく実は、著者と同じように記憶術を訓練していた若者であると告発していることです。ダニエルは幼児期にてんかんの発作によって脳に変化が起きて、アスペルガー(高機能自閉症)となり、円周率を2万桁暗唱したり、10ヵ国語を話せるということで、テレビやマスコミで名を轟かせていました。
著者がダニエルに疑問を持ったのは、数字をイメージで覚えているというのにそのイメージに一貫性がないことでした。そしてインターネットのキャッシュにダニエルの自己紹介が残っており、記憶力をトレーニングを積んでいたことが書かれてあったのです。記憶力のトレーナーとしてうまくいかなかったダニエルは名前を合法的に変えて、幼少期の病気で霊能力を得たという商売をはじめて有名になっていたのです。記憶術を極めると霊能力者にでもなれるのです。
・ウェブサイトのキャッシュを見つけた・・・ダニエルの自己紹介のページに・・トレーニングと勉強のあと、知的競技者として世界トップ5の位置にたどり着いた(p288)
記憶力全米チャンピオンになる
興味深かったのは、著者は記憶力全米チャンピオンになったのですが、それはオリンピックの選手と同じで、やり方は確立されており、その訓練を続けて成果を出したということを強調していることです。やり方さえわかれば、訓練すればだれでもできることなのです。まず、なぜ学校でこの方法を教えないのかという疑問があります。その一方で、これだけのテクニックと労力をかけて暗記して何か意味があるのだろうか、という疑問も持っているのです。もちろん頭の中に記憶していないよりも記憶していたほうが良いのでしょうが、それは本当に価値あることなのかという疑問です。
昔の日本のように意味のわからない漢文を百回、千回と繰り返し読むことで暗唱し、自然と意味もわかってくるという記憶法もあり、こちらのほうが潜在意識の中で習得した内容を活用できるのではないかという問題意識も提示しています。現状の社会はテストの点数だけで優秀さを評価していますので、単にテクニックを知って、訓練した人だけが評価されてしまうという現状があります。それは、現在の日本の入試制度にも当てはまるのでしょう。
ジャーナリストだけあって、単なる記憶術だけでなく、「記憶」についての社会的問題も提起している素晴らしい一冊でした。未読の方はぜひ読んでみてください。フォアさん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・名前の音の感じを自分がはっきり思い描けるものに結びつけるんだ(p61)
・私たちの脳はジョークとセックスの2つの事柄をとりわけ面白く感じ、記憶に残すようにプログラミングされた(p127)
・何かを記憶したいときには、モスクワのゴーリキー通り、トルジョークの自宅・・・を頭の中で歩きながら、1つ1つのイメージを異なる場所に並べていくことを想像する(p51)
・「ペンを拾う」という文を憶えるときに、本当にペンを拾いながら憶えると記憶に定着しやすくなる(p167)
・15世紀に入り、グーテンベルクの登場によって本が大量生産されるようになると、本に書かれていることをわざわざ憶える必要はなくなった(p20)
・脳に刻まれた1冊の本は 書籍にある1000冊分の価値がある(オランダの詩人ヤン・ルイケン)(p139)
▼引用は、この本からです
ジョシュア・フォア 、エクスナレッジ
【私の評価】★★★★☆(85点)
目次
第1章 世界で一番頭がいい人間を探すのは難しい
第2章 記憶力のよすぎる人間
第3章 熟達化のプロセスから学ぶ
第4章 世界で一番忘れっぽい人間
第5章 記憶の宮殿
第6章 詩を憶える
第7章 記憶の終焉
第8章 プラトー状態
第9章 才能ある10分の1
第10章 私たちの中の小さなレインマン
第11章 全米記憶力選手権
著者経歴
ジョシュア・フォア(Joshua Foer)・・・ジャーナリスト。『ナショナル・ジオグラフィック』『エスクァイア』『スレート』誌、『ニューヨーク・タイムズ』『ワシントンポスト』紙に記事を書いている。デビュー作『ごく平凡な記憶力の私が1年で全米記憶力チャンピオンになれた理由』は、アメリカで発売後、たちまちベストセラーとなった
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