「ラッセル幸福論」バートランド・ラッセル
2021/11/10公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★☆☆(78点)
要約と感想レビュー
不幸は他人との比較から生まれている
1930年にイギリスの思想家バートランド・ラッセルが、人間の幸福や不幸について書いた一冊です。まず、多くの不幸は、他人との比較から生まれているという的確な指摘をしています。他人の成功を嫉妬したり、足を引っ張ったりするのが人間であり、他人の不幸は蜜の味。影で悪口を言い合って満足をしているのです。
他人を引き下ろして、自分の立場を上げようとするのは、自己肯定感の少ない人の傾向なのでしょう。他人と比較することなく、そのままの自分を自己肯定する人が幸福なのです。
・人々が恐れているのは、あすの朝食にありつけないのではないか、ということではなくて、隣近所の人たちを追い越すことができないのではないか、ということである(p49)
金持ちが必ずしも幸福ではない
さらに指摘しているのは、金持ちが必ずしも幸福ではないという点です。金があるゆえに、すべてが簡単に手に入ってしまうとしたら、生活に刺激があり面白くありません。天下りした役人が、「暇だ、暇だ」と嘆いているのと同じなのです。
仕事とは、退屈の予防策として、望ましいものとしています。なにもしないよりは、仕事でもしていたほうがいい。そして余暇に刺激を求めるのは、仕事での刺激が足りないので、自由な時間に快楽を求めているのです。
・働いている時間がわびしいので、自由に過ごせる時間には快楽の必要を感じるのだ(p87)
金持ちが必ずしも幸福ではない
最後に、ピューリタン的な教育を受けると、自分の罪、愚かさ、至らなさに落ち込む傾向にあることを指摘して、あるがままの自分を否定する宗教や道徳からの解放を主張しているところが面白いと思いました。自分を否定するのではなく、自分探しをする若者のように「あるがままの自分」を大切にするのです。自分らしく生きたいという現代人につながるところがあります。
そして、人生に対して熱意を持つ人になることを推奨しています。熱意を持っている人は、地震、大火災などの不愉快な経験を、新しい経験をすることができたと前向きに考え、不運であっても熱意を持ち続け、不運に自分の人生を左右されにくいというのです。これはプラス思考のススメというべきものでしょう。
こうした熱意の源泉は、自分は愛されているという感情を持つことだとしています。これは、自己肯定感でしょう。だから自己否定がまずいのです。自己肯定感がなければ、簡単にくじけてしまう、努力が続かないということになってしまうのです。
全体として現代の成功哲学の考え方を網羅している一冊だと思いました。昔も今も人間というものは、たいして変わっていないということです。ラッセルさん、良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・狩猟には興奮があり、戦争にも興奮があり、求愛にも興奮があった・・・農業の発達とともに、生活は退屈なものになりはじめた(p63)
・量が過多でないかぎり、どんなに退屈な仕事でさえ、たいていの人びとにとっては無為ほどには苦痛ではない(p230)
・金持ち自身が不幸であるとしたら、万人を金持ちにしたって、なんの足しになるだろうか(p14)
・道楽や趣味は、多くの場合、もしかしたら大半の場合、根本的な幸福の源ではなくて、現実からの逃避になっている(p170)
・泥酔は、一時的な自殺行為である。酒のもたらす幸福は、単に消極的なもので、不幸の瞬間的な停止にほかならない(p23)
【私の評価】★★★☆☆(78点)
目次
第1部 不幸の原因
何が人びとを不幸にするのか
バイロン風の不幸
競争
退屈と興奮
疲れ
ねたみ
罪の意識
被害妄想
世評に対するおびえ
第2部 幸福をもたらすもの
幸福はそれでも可能か
熱意
愛情
家族
仕事
私心のない興味
努力とあきらめ
幸福な人
著者経歴
バートランド・ラッセル(Bertrand Russell)・・・1872-1970。イギリスの哲学者。ケンブリッジ大学で数学・哲学を学んだ。1895年ドイツを訪れ、社会民主主義の研究に打込む。第一次大戦が勃発するや平和運動に身を投じて母校の講師の職を追われ、1918年には4カ月半投獄される。1920年労働党代表団とともに革命後のロシアを訪問。以後社会評論や哲学の著述に専念し、ヴィトゲンシュタインとの相互影響のもとに論理実証主義の形成によって大きな影響を与えた。1950年哲学者として3度目のノーベル文学賞受賞。また原水爆禁止運動の指導者のひとりとして99歳の生涯を閉じるまで活動を続けた。
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