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「フェルメールになれなかった男: 20世紀最大の贋作事件」フランク・ウイン

本のソムリエ 2021/07/07メルマガ登録
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「フェルメールになれなかった男: 20世紀最大の贋作事件」フランク・ウイン


【私の評価】★★★★☆(83点)


要約と感想レビュー

 オランダにファン・メーフェレン(Van Meegeren)という画家がいました。20代で個展を開催し、アトリエで個人レッスンをするなど、妻と一人の二人の子を養うくらいの画家としての腕に自信を持っていました。


 しかし、酒と女好きが災いし、友人の妻に手を出すなどで家庭崩壊。離婚後、パリに移り、絵画制作もせず、金になる絵画の修復などに手を出します。修復の仕事をしている中で、ファン・メーフェレンは贋作を自分がうまく作れるのではないか、という思いを強くしていったのです。


・フェルメールはアズライトを嫌い、大事な個所ばかりではなく、下描きにも広い範囲にわたって天然ウルトラマリンを塗った。十九世紀になると、天然ウルトラマリンに代わって合成ウルトラマリンとコバルト・ブルーが使われるようになる(p113)


 十七世紀の絵画の贋作を作るのは、絵画に用いられるX線撮影や成分分析といった科学分析に耐える技術が必要となります。そのために、十七世紀のキャンバスと張り材と釘、絵を描く顔料も当時使われていたものを準備するところからはじめています。


 さらに、鑑定家が行うアルコールテストに耐えられるよう合成樹脂を混ぜて硬化させ、自然な亀裂を表面に走らせるために加熱する温度と時間を調整しているのです。贋作を描くためには単に絵をうまく描くだけでなく、化学者でなくてはならないのでしょう。


・油彩絵の具は三日で硬い手触りになるが、溶媒がすっかり蒸発し、表面がカチカチに硬くなるには50年かっかる。ハンは、目端のきく買い手なら誰もが、古い絵の何気なく描かれた隅っこをアルコールにつけた綿で拭き取ってみる・・・常識的なテストをするだろうと心得ていた(p94)


 欧米の美術業界で、多くの贋作が流通していることに驚きました。敢えて言えば、贋作を作る人、鑑定する人、そして売る人と買う人がいるから、美術業界で食べていける人がいるという構造になっているのです。


 「開運!なんでも鑑定団」というテレビ番組がありますが、この番組も骨董品はほとんど贋作であるということを前提としている点で画期的だったのでしょう。


 美術という世界の闇の一端を垣間見れる一冊ということで、★4としました。ウインさん、良い本をありがとうございました。



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この本で私が共感した名言

・「牛乳を注ぐ女」はオランダが誇る最も偉大な画家の、おそらく最高傑作だ。にもかかわらず、使われた色は10色、多くても一ダースくらいのものだ。フェルメールのすごいところは、数少ない色彩を組み合わせ、ほとんど混色をせず、レーキとニス層を用いて現実を髣髴とさせるところにある(p40)


・『ニューヨーク・タイムズ』紙は、美術市場で売りに出されるメジャーな作品の四割は贋作であると報ずる・・・ジャン=バティスト=カミーユ・コローの真作は2500点だというのに、アメリカ国内のコレクションだけでも7800点はある(p9)


・贋作の多くは人から人へと売り渡され、その過程でどんどん真作へと変化していく。売られる回数が多ければ多いほど、画廊に飾られている期間が長ければ長いほど、その作品は正真正銘の本物となっていく(p17)


・レオナルドがホモだろうと、ボードレールが梅毒にかかっていようと、ゴーギャンが妻を棄てようと、世間は気にしない。とすれば、自分の些細な過失も多めに見てもらえると信じたのだ(p86)


・モナ・リザの逸話がある。十六世紀の伝記作家ヴァザーリは、ダ・ヴィンチのこの肖像画について、彼女の「常とは異なる濃い」眉毛と記している・・・十七世紀の修復の際に思慮の足りない溶剤が用いられ、眉毛がすっかり消えてしまったという説が唱えられている(p90)


・画商の常だが、・・自分が買う作品には最悪のものを、売る作品には最良のものを見る。誰か売り手が、明らかにレンブラントの素描と思われる作品を持って訪ねてきたとしよう。すると、テオはそれをけなし、模写かもしれないと仄めかす(p93)


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▼引用は、この本からです
「フェルメールになれなかった男: 20世紀最大の贋作事件」フランク・ウイン


【私の評価】★★★★☆(83点)



目次

プロローグ―1945年7月7日アムステルダム
贋作者の若き芸術家としての日々
再生を企てる男
思いがけなく英雄に
エピローグ―ロンドン2004年7月7日


著者紹介

 フランク・ウイン(Frank Wynne)・・・1960年アイルランド生まれ。ジャーナリスト・翻訳家。訳書の『素粒子』(M・ウエルベック著)でIMPAC賞、『アレックス』(P・ルメートル著)でCWA国際ダッガー賞を受賞するなど、受賞歴多数


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