2020年ノーベル化学賞受賞「CRISPR-クリスパー-究極の遺伝子編集技術の発見」ジェニファー・ダウドナ
2021/02/05公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(84点)
要約と感想レビュー
2020年ノーベル化学賞を受賞したCRISPR-クリスパー遺伝子編集技術を開発した科学者による一冊です。この遺伝子編集技術とは、目的の遺伝子のコードがわかっていれば、特定の場所に新しい遺伝子を挿入できるし、特定の場所の遺伝子を入れ替えもできるという万能ツールです。
その発見までの道のりは専門的になるので省略しますが、CRISPRは特定の遺伝子を切断、挿入する機能を持っており、ウイルスに対抗するための獲得免疫機構として存在していました。この特定の遺伝子コードを持つ部分を正確に切断するという機能こそが、遺伝子編集を可能としたのです。
・特定の形質を決める遺伝子コードさえわかっていれば、CRISPRを使ってどんな動植物のゲノムの遺伝子でも挿入、編集、削除するこができる(p9)
つまり、今、私たちは遺伝子を自由に操作することができる時代にいるということです。これまでのように時間をかけて選別したり、突然変異をさせたりして有用な食物や家畜を品種改良する必要はないのです。また遺伝子組み換え作物のように試行錯誤的に組み替えるよりも、より正確に狙った改良ができるようになりました。
この本では一例として、マンモスは全遺伝子配列がわかっているので、150万塩基以上の遺伝子組み換えを行う時間と労力をかけさえすればマンモスを復活させることもできると断言しています。
・何ヶ月も腐らないトマト。気候変動に適応する植物。マラリアを媒介できない蚊・・・筋肉隆々のイヌ。角の生えないウシ。絵空事のように聞こえるかもしれないが、どれも遺伝子編集によってすでに実現している動植物だ(p156)
著者の心配は、この遺伝子編集という神に近い領域の技術がどう使われるのかということです。
遺伝子編集で作られた作物は消費者に受け入れられるのか。体外受精したヒトの胚の遺伝子を遺伝子編集技術で編集してよいのか。遺伝子編集技術で特定の生物を絶滅させてもよいのか。遺伝子編集技術が、ヒトを殺す大量破壊兵器として使われないか。
遺伝子編集技術に罪はありませんが、この技術は新しい殺人ウイルスさえ作ることができるのです。
・2015年4月18日・・・中国広州にある中山大学の黄軍就の研究チームによって・・・CRISIRは86個のヒト胚に注入されていた・・・βグロビン遺伝子を正確に編集することによって、症状が発現する前にこの疾患を阻止できるという原理を実証することが、黄らの研究の目的だった(p269)
この技術が発見されたのが2015年でありまさに最近、遺伝子編集技術が確立されたばかりであることを理解できました。遺伝子関係技術は今、急速に発展しており、その技術があるからこそ新型コロナ用のワクチン開発が短期間にできているのでしょう。
核兵器のようにウイルスが兵器として使われることを恐れる時代は過ぎて、どのように防御するのか考えなくてはならない段階にあると理解しました。ダウドナさん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・2000年代初めに日本の研究チームが、ホウレンソウの遺伝子を組み込んだブタの開発に成功している・・・しかし研究は多方面からの非難を招き、ブタはついぞ実験室の外に出ることはなかった(p171)
・すでに遺伝子工学を用いてヒト化したブタを用いて、・・・ヒヒに移植したブタの腎臓が6カ月以上機能し続け、ブタの心臓はヒヒの体内で2年半も機能した(p186)
・生産者や消費者は・・・X線やガンマ線、化学的変異原などによってゲノムにランダム変異を導入されてきた数千種類の作物のように、抵抗なく受け入れるだろうか?それとも遺伝子編集作物は、従来型の遺伝子組み換え作物(GMO)と同じ運命にさらされ、有益な貢献をする大きな可能性を秘めながらも、激しい反発を、あえていうならば、誤った情報に基づく反対を招くのだろうか?(p163)
・人間は植物のDNAにランダムな変異を起こし、有用なものを選んで繁殖させてきた・・・中性子線を照射してつくった赤いグレープフルーツに、コルヒチンという薬剤で処理してつくった種なしスイカ・・・現代農業のこういった側面のどれ一つとっても「自然」とはいえない。だが私たちは、何の文句も言わずにこうした食品を食べているのだ(p166)
・CIRSPR遺伝子ドライブは、遺伝子を編集して特定の病原菌を媒介できなくする、蚊を根絶するなど、・・・有害な殺虫剤を使うよりおそらく安全・・・この昆虫が突如いなくなるのは、人類にとって恵みだろうか、それとも呪いだろうか?(p198)
・ウイルスは自らのDNAを細胞内に送り込む方法だけでなく、新しい遺伝子コードを定着させる・・・ヒトのゲノムのなんと8%、約2億5000万塩基対が、人類の祖先が大昔に太古のレトロウイルスに感染した名残なのだ(p38)
▼引用は、この本からです
ジェニファー・ダウドナ、サミュエル・スターンバーグ、文藝春秋
【私の評価】★★★★☆(84点)
目次
プロローグ まったく新しい遺伝子編集技術の誕生
第一部 開発
第1章 クリスパー前史
第2章 細菌のDNAに現れる不思議な「回文」
第3章 免疫システムを遺伝子編集に応用する
第4章 高校生も遺伝子を編集できる
第二部 応用
第5章 アジア象の遺伝子をマンモスの遺伝子に変える
第6章 病気の治療に使う
第7章 核兵器の轍は踏まない
第8章 福音か疫災か?
エピローグ 科学者よ、研究室を出て話をしよう
著者経歴
ジェニファー・ダウドナ(Jennifer Anne Doudna)・・・ 1964年生まれ。アメリカ合衆国の化学者、生物学者。カリフォルニア大学バークレー校教授。1997年以来、ハワード・ヒューズ医学研究所(HHMI)の研究者である。エマニュエル・シャルパンティエと共にゲノム編集技術CRISPR-cas9を開発し2020年、ノーベル化学賞受賞。
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