「風に立つライオン」さだまさし
2020/04/02公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(85点)
要約と感想レビュー
アフリカと日本
ミュージシャンのさだまさしが小説を書いている!?と手にした一冊です。もともとさだまさしは、「風に立つライオン」という歌を作っていたという。
この歌は、アフリカの僻地で巡回医療を行っている青年医師が、日本に残してきた恋人に送った手紙という設定の歌なのです。2011年の東日本大震災が起こり、さだまさしはこの歌に、青年医師がアフリカで救った子どもが医師となって日本の被災地で日本人を助けるという物語を付け加えたのです。
撃ち殺した誰かも必ず誰かに撃ち殺される。そういうものなんだ世の中はな・・・それにしても世界中で日本人だけじゃねえのかい?「人に迷惑をかけるな」なんて教えるのは。いや、バカにしているんじゃないよ。尊敬して言っている(p205)
日本の医療の課題
驚くのは、さだまさしが日本の医療の現状をよく理解していることでしょう。勤務医の激務と低報酬。モンスター患者の存在。縦割り医療の弊害。
例えば、名医なんてそんなに沢あ山いるわけじゃないことを指摘し、普通に日本の医者は、みんな自分のできるやり方で患者を治そうとする。自分より上手な人がいてもそちらへは患者を回さない。それで良しとするのが日本の医療の現状だよと、出演者に言わせているのです。
日本の患者といえば、医師に気を遣い、医師に気に入られることで、病気を治してもらいたい一新で信者のように卑屈に医師と接する人もいるのです。こうした人は、病気が治らないと思ったと同時に掌を返すように医師を攻撃する人の比率が多いという。いわゆるモンスター患者となるのです。
日本の病院における勤務医の厳しさなんか、分かる?びっくりするほどの激務とプレッシャーに加えて、てんで報われない程度の報酬を思ってごらんなさい。誰だって「俺はこの苦労と、何とを引き替えようとしているのだろう」っていう、まあ、なんて言うのかな、虚しさや不安に襲われる。それも分かるだろ?(p81)
アフリカの医療の課題
そして日本と対局的に、アフリカの紛争地での医療は限られた人と資金と物資の中で助けられる人だけを助けるという別の世界なのです。日本の医療に限界を感じてアフリカへ行けば、そこにはまた限界がある。それが世の中なのでしょう。なぜ彼はアフリカへ行ったのか。そこに、日本の良い点、悪い点が見えてくるのだと思いました。
さだまさしは作詞作曲家などではなく天才ストーリーテラーなのでしょう。東日本大震災から9年という時期に読めてよかったと思います。さだまさしさん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・資本主義的には、売れない物は作れないんだな。仮に特効薬が開発されたとしても、買おうにも、貧しくて買えない人の方が多いってこと。そんな病気は世界中にびっくりするほど沢山あるんだよ(p90)
・最も弱い人から守りなさい。それは病人であり、老人であり、子ども達です。マザー・テレサはそれを「愛すること」と表現しました。「大きなことなど要らない。あなたのできる小さなことをしなさい」(p264)
・近くのある避難所・・・責任者の俺に逆らうやつには何も配ってやらねえってね。そういう最低のリーダーが仕切る避難所もあったよ。悪代官だよ全く。そういうのは、自分が間違っていると思ってないから始末に悪いんだよ。また取材には上手に演じるんだよな(p303)
【私の評価】★★★★☆(85点)
目次
序章 2011年早春
第1部 航一郎
第2部 ンドゥング
第3部 木場
終章 2011年夏
著者経歴
さだまさし・・・1952年長崎市生まれ。1972年に「グレープ」を結成、「精霊流し」「無縁坂」などが大ヒットする。1976年、グレープを解散後、シングル「線香花火」でソロデビュー。2001年、初小説『精霊流し』がベストセラーになる。『精霊流し』をはじめ、『解夏』『眉山』『アントキノイノチ』はいずれも映画化され、話題に。その他の著書に『はかぼんさん―空蟬風土記』『かすてぃら』『ラストレター』など。
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