「生涯投資家」村上 世彰
2019/05/13公開 更新本のソムリエ [PR]
Tweet
【私の評価】★★★★★(92点)
要約と感想レビュー
■ニッポン放送の株式を買い占めて
フジテレビ、産経新聞という
フジサンケイグループを敵に回し、
インサイダー取引で有罪となった
村上氏の一冊です。
村上氏の投資スタイルは、
保有資産よりも割安な企業の株式を買い占めて、
保有資産の活用を要望するというもの。
投資家としては当然の行動と思われますが、
日本では認められないばかりか、
ハゲタカファンドとして断罪されるという
ことになりました。
さらには2014年に事務所の強制捜査を受け、
事務所を手伝っていたものの投資判断に関係のない
娘も捜査対象とされ、厳しい取り調べの中で
妊娠中であった娘が流産してしまったことで、
その悔しさ、反省がこの本となったようです。
・もともと短気な私は、自分の伝えたいことがわかってもらえなかったり、質問に対してはぐらかすような回答が返ってくると、ついつい前後を省いて要点のみを畳み掛けるように話してしまったり、口調がきつくなってしまう・・「物には言い方がある」と指摘されるように、私のコミュニケーション能力が拙いせいで、いまだに世の中の印象は悪いままだ(p18)
■日本では「出る杭は打たれる」と
言われますが、村上ファンド事件は、
その具体例なのでしょう。
ファンド経営者の村上氏は、
上場されているニッポン放送の
株式を買い占めて、
フジサンケイグループの支配構造を
改善したいと考えていた。
もちろんその過程で村上氏も
利益を得ることができるという
ビジネスモデルです。
そこにテレビとインターネットの
融合を考えるホリエモンが参戦してきた。
最後には著者はインサイダー取引で有罪、
ホリエモンも、粉飾決算で有罪と
なってしまいました。
ホリエモンの粉飾も、自社株式の売却益を、
会社の利益としただけで、
東芝やオリンパスなどの粉飾事件に比べると
厳しい判決だったと考えられています。
・ニッポン放送は、フジテレビの上場から長い間、議決権の三分の一超を保有する筆頭株主だった・・フジテレビの時価総額が2兆6200臆円であるのに対し、ニッポン放送は2400臆円ほど・・たった1200臆円の費用で、2兆6200臆円の価値を持つフジテレビの三分の一強を、ニッポン放送を通じてコントロールできる立場になれる・・(p113)
■株式投資を通じて企業に提案を行い、
企業価値を上げて、利益を得るという
当たり前のことができない悔しさが
伝わってくる一冊でした。
だんだんと変わっていくとは思いますが、
日本は、ルールに基づき金儲けをすると
叩かれる国なのです。
村上さん、
良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・米国のように、乗っ取られたり敵対的に買収されたりする局面を経れば、上場企業が望まぬ買収を防ぐためにそれぞれ企業価値の向上にまい進するようになり、市場が活性化し、資金の循環が促される・・・だから日本企業のPBRは平均で1なのに、アメリカ企業のPBRは平均3なのだ(p157)
・上場のメリットとデメリットを比較すると、資金調達の必要がなく、経営において株主から横やりを入れられたくないというのなら非上場化してプライベートカンパニーにするべきであるというのが、私の一貫とした持論だ(p26)
・問題を株主の立場から働きかけて改善しようとすると、「ハゲタカファンド」と批判されてしまう(p18)
・父の教えだが、企業に大きな変革を成し遂げるには、過半数に近い議決権を握らなければ難しい。私もファンド設立後、いろいろな案件でそのことを実感していた(p147)
・アメリカでは通常「株主+経営者 vs. 従業員」という構図で経営がなされている。日本においては「株主 vs. 経営者+従業員」となっている(p67)
・アメリカでは、5%ほどの株を取得すればほぼ確実に取締役を送り込むことができ・・ところが日本では、どれだけ多くの株式を取得しても、会社の了解を得ずに株を取得した株主であれば、取締役を送り込めることは稀だ(p74)
・日本の投資家は私の理念に賛同して出資してくれたが、アメリカの投資家は違う。まず理念を説明すれば、「日本の投資市場を変えたいという君の理念はわかったが、実際にどうやっていくら儲けるんだ?どうやってエグジット(利益を確保する)んだ?」と必ず聞かれ、・・・とにかく儲けてこい」とだけ言われた(p48)
・私たちが提案していたのは、ニッポン放送が危険な相手から買収を受ける事態への予防策だ・・・株式交換によりニッポン放送がフジテレビの子会社になること。持株会社を作って、ニッポン放送、フジテレビ、産経新聞のほかの事業会社を横並びにしてぶら下げること、を提案した(p122)
・投資家がもうひとつの大切な仕事は、投資先企業の経営を監視、監督することだ。投資家は、自ら投資に対するリターンを最大化するために、経営者に事業運営を委託している。したがって、経営がきちんとなされているかどうか監督することも大きな役割なのだ(p62)
・鉄道事業は、基本的に赤字にならない仕組みだ。鉄道事業法・鉄道営業法という法律の下、必ず利益が出る運賃設定になっている・・鉄道会社はこうした特殊なコア事業を運営しつつ、多くの駅や路線の周辺に所有してきた広大な土地を利用して、不動産事業を軸に、デパートやホテル事業も展開している(p134)
・西武鉄道、コクド、プリンスホテルのトップ・・・どのように会社や事業を再建し成長させていきたいのか、考えをじっくり聞きたかった・・・ところが、彼らの口から一様に返ってきた答えは、「オーナーから、指示に従うようにと言われておりますので」。この経営陣のあまりの自主性のなさに、どれほど大きなショックを受けたことか・・(p141)
・ファンドの経営者である以上、自分の信念を貫くためということだけを理由にリターンを度外視することはできない・・・現在私が人からの資産を預かって運用するという形式ではなく、自らの資産だけで投資を行っているのは、とことんまで自分の信念を貫くことができるようにするためである(p56)
・「上がり始めたら買え、下がり始めたら売れ」という右の教訓は、今でも私の投資の基準になっている(p12)
・そもそも投資とは何かという根本に立ち返ると、「将来的にリターンを生むであろうという期待をもとに、資金(資金に限らず、人的資源などもありうる)をある対象に入れること」であり、投資には必ず何らかのリスクが伴う・・・リターン>リスクとなる投資をするのが投資家だ(p16)
この記事が参考になったと思った方は、
クリックをお願いいたします。
↓ ↓ ↓
【私の評価】★★★★★(92点)
目次
第1章 何のための上場か
第2章 投資家と経営者とコーポレート・ガバナンス
第3章 東京スタイルでプロキシーファイトに挑む
第4章 ニッポン放送とフジテレビ
第5章 阪神鉄道大再編計画
第6章 IT企業への投資―ベンチャーの経営者たち
第7章 日本の問題点―投資家の視点から
第8章 日本への提言
第9章 失意からの十年
コメントする