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「小泉信三―天皇の師として、自由主義者として」小川原 正道

2019/02/27公開 更新
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小泉信三―天皇の師として、自由主義者として (中公新書)


【私の評価】★★★☆☆(73点)


要約と感想レビュー

慶應義塾の塾長にして、皇太子の教育常時参与を務めた小泉信三という男がいました。1912年から4年間ヨーロッパ留学。その後、経済学の教授としてマルクス主義を批判しています。そして対米戦争には反対するものの、開戦後は祖国を守るために戦うべしと戦意高揚を支持しています。


当時は平和を主張したり、親英米論を論ずることは、軍部から不忠呼ばわりされたり非愛国者の扱いをされるため、沈黙を守るか自分の主義を捨てて軍部の主戦論に賛成する人が多かったという。その中で、小泉氏は宮中の知人に手紙を書き送り、昭和天皇へ対米戦争回避を訴えていたというのです。


・日中戦争の開戦以来、小泉はさかんに戦意高揚を訴える。紛争の早期解決、平和を願うのは当然だが、一旦戦争になった以上は、勝利のために邁進すべきだというのがその信条であった(p81)


面白いのは、共産主義を研究し、表向き正しそうな理論に対し、その欺瞞性を指摘していたことでしょう。当時、マルクス主義を批判することは、身辺に危険が及ぶ可能性がありました。


実際、よく脅迫状が届き、そこには「暗闇に気をつけろ」「家族に危害を加える」といった言葉が書かれており、護身用に小泉はいつもステッキを持っていたというのです。そうした脅しにもかかわらず、主張を変えなかったのは肚の据わった人だったのでしょう。


・小泉は資本主義の発達によって労働者は窮地に陥るのではなく、むしろ労働状態は良好となってきているのであり、暴力革命は無理であるという(p52)


小泉は、70年代の安保闘争では極左集団に操られた学生たちに、かつての軍部の青年将校と同じような目的さえ正しければ暴力に訴えてもよいといった思想がみられると指摘していたという。社会情勢を正しく理解できる人であったのでしょう。


皇太子教育については、敗戦にも拘らず国民が皇室を信じ続けたのは陛下の「徳」によるものであるとし、皇太子に対して、「人格その見識」は自らの国の政治に影響すると伝えたという。したがって、皇太子の勉学と修養が日本の国運を左右するものと考えるよう話したというのです。


また、皇太子とともに小説を読んでおり、志賀直哉『城の崎にて』、井上靖『蒼き狼』、川端康成『古都』などを読んだという。小泉信三は研究してみる価値のある人だと思いました。私たちは歴史を知っていますので、過去の人を評価してみるのは面白いことだと思います。


小川原さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・小泉は冷戦下における戦後日本の方向性として、自由主義陣営に身を置くべきことを説き、サンフランシスコ講和条約調印に際しては、ソ連など東側陣営を含めた国々との講話を求める全面講和論に対して、西側との単独講和論を説き、共産主義を批判した(p3)


・平和な時代が到来するのを待ち望むことは、身を殺して同胞を守ろうとした人々と、その行為の尊さを忘れるということにはならない。「日本を愛するものは、その日本のために死んだ人々のことを忘れてはなりません」。小泉自身、愛息を失った者として、遺児に寄り添おうとした(p116)


・小泉は野球の早慶戦を第一回から観戦し続けている野球好きであり、野球がアメリカ発祥のスポーツであることから「敵性スポーツ」と攻撃されるようになってからも、体育に関する審議会で、野球はテニスなどへの弾圧は無意味であり、国の処置が偏頗(へんぱ)すぎると難じていた(p92)


小泉信三―天皇の師として、自由主義者として (中公新書)
小川原 正道
中央公論新社
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【私の評価】★★★☆☆(73点)


目次

第1章 父と修学時代
第2章 論壇の若き経済学者―マルクス主義批判の旗手
第3章 戦時下、慶應義塾長の苦悩―国家・戦争の支持
第4章 皇太子教育の全権委任者―「新しい皇室」像の構築
第5章 オールド・リベラリストの闘い



著者経歴

小川原正道(おがわら まさみち)・・・慶應義塾大学法学部教授.1976年長野県生まれ.99年慶應義塾大学法学部政治学科卒.2003年同大学大学院政治学専攻博士課程修了,博士(法学).武蔵野学院大学助教授を経て,現職。専攻・近代日本政治史・政治思想史。


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