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「侍」遠藤 周作

2017/05/05公開 更新
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侍 (新潮文庫)


【私の評価】★★★★☆(80点)


要約と感想レビュー

ノベスパニヤに、長谷倉六右衛門(支倉常長)を派遣

時は徳川幕府が成立したころ。仙台藩伊達政宗はエスパニヤ(スペイン)が支配するノベスパニヤ(メキシコ)に、長谷倉六右衛門(支倉常長)を派遣しました。徳川幕府はキリスト教の弾圧に傾きかけていた時期ですが、この使節団派遣の目的はノベスパニヤ(メキシコ)と貿易をすることでした。また、ガレオン船の造船技術、操船技術を盗むために派遣が行われたかのような示唆もされています。


スペイン人から見れば、日本人は小さいのに好奇心が強く、命を顧みず、工夫する知恵を持った、蟻のように勤勉な種族に見えたようです。


・日本人たちはガレオン船と同じ彼らの船を造ろうと考えているのかもしれぬ・・蟻のような人種だ。彼らは何でもやろうとする・・身を犠牲にして橋となり仲間を渡す蟻を思いだした。日本人はそんな智慧を持った黒蟻の群れだ(p27)


支倉常長はキリスト教に改宗

通訳兼案内人として使節に同行するベラスコ神父(ルイス・ソテロ神父)は、司教となり日本をキリスト教化したいという思惑がありました。一方、侍、長谷倉六右衛門(支倉常長)は、殿(伊達政宗)の意向であるノベスパニヤ(メキシコ)との通商の了解をもらう必要がありました。


そこで支倉常長は目的のためにキリスト教に改宗し、スペイン国王、ローマ教皇に謁見するのです。しかし、幕府がキリスト教を弾圧していることもあり、日本とスペインとの通商の目途は立ちませんでした。キリスト教は布教という名のもとに、その土地を植民地にしてきたということを太閤秀吉は知っていたのです。日本統一を目指してきた秀吉にとっては、キリスト教は侵略者の道具に見えたのでしょう。


・数十年間、ペテロ会は長崎にほとんど植民地にひとしい土地を得て、その収益から布教費を作りだしていた・・収税の権利も裁判権もその土地で行使していた。九州を占領した太閤がこの事実を知った時、布教に名を借りた侵略だと激怒して、禁教令を布いたことは誰でも知っている(p29)


キリスト教の教義への違和感

出発時期や侍の生死など史実と若干異なるところがあり、支倉常長をモデルとした小説となっていました。小説を通じてキリスト教徒である著者の中にある日本人の思考と、キリスト教の教義への違和感を表現しようとしているように感じました。


こうした本を読むことで、歴史や宗教をより深く学び、楽しめるはずです。遠藤さん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・(日本を)基督教化したいならば、もう言葉ではなく武力で征服したほうが簡単だ、と主張しはじめた・・「お二人はあの国をどうも甘く見すぎておられます。あの国はノベスパニヤやフィリピンではない。戦に馴れ、戦に強いのです。むかし、ペテロ会が、その考えを抱いて失敗したのを御存知か」(p82)


・布教のためには眼をつぶらねばならぬこともある。このノベスパニヤも征服者コルテスが1519年に上陸し、わずかの兵士で無数のインディオを捕え殺した(p139)


・「インディオも同じだが」・・「劣った人種ほど自殺したがるものだ」「日本人は恥を忍ぶより、死を選ぶことを徳としています」(p328)


侍 (新潮文庫)
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遠藤 周作
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【私の評価】★★★★☆(80点)



著者経歴

遠藤 周作(えんどう しゅうさく)・・・(1923-1996)東京生れ。幼年期を旧満州大連で過ごし、神戸に帰国後、11歳でカトリックの洗礼を受ける。慶応大学仏文科卒。フランス留学を経て、1955(昭和30)年「白い人」で芥川賞を受賞。一貫して日本の精神風土とキリスト教の問題を追究する一方、ユーモア作品、歴史小説も多数ある。主な作品は『海と毒薬』『沈黙』『イエスの生涯』『侍』『スキャンダル』等。1995(平成7)年、文化勲章受章。1996年、病没。


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