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「死体は今日も泣いている 日本の「死因」はウソだらけ」岩瀬 博太郎

2024/07/16公開 更新
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「死体は今日も泣いている 日本の「死因」はウソだらけ」岩瀬 博太郎


【私の評価】★★★★★(95点)


要約と感想レビュー

日本では犯罪が見逃されている

この本で著者の岩瀬さんは、日本では司法解剖がほとんど行われないので、犯罪が見逃されていること、警察による冤罪を助長していること、死因統計がデタラメであることを説明しています。まず、日本では年150万人が亡くなりますが、警察に届け出のある死者は17万人で、そのうち解剖されるのは2万人以下です。解剖しなければ、正確な死因はわからないので犯罪が見逃されるのは当たり前なのです。


有名なのはパロマガス湯沸かし器の不完全燃焼で20年間で28件、20人が亡くなった事件でしょう。警察が死因を特定し、一酸化炭素中毒の原因を解明していれば、同じ事故は起こらなかったはずです。


時津風部屋力士の暴力死事件でも、当初警察は消防隊が、搬送中に「不審死の疑いがある」と報告していたにもかかわらず、警察は遺体の目視と医師の所見、親方らの証言から病死と判断しています。実は、遺体はアザだらけで、死因を不審に思った親族の告発で、暴行により死亡したことが判明したのです。実は、相撲部屋では過去に20人も若手が死亡していて、この中にも暴行で死亡した人がいるはずですが、解剖されなければ証拠はないわけで、死因は闇に葬られてしまっているのです。


また、子どもの虐待死も、見逃されることが多いという。子どもが死んでも、保護者が「階段から落ちた」「転んだ」と言えば、証拠がない限り、虐待であることを証明することは難しいのです。


本当に自殺かどうかは初動捜査ではわからないことが多く、後々のためにも解剖まで実施して、最悪の事態に備えるべき・・しかし日本ではそれができないので、どうしても自殺にせざるをえない(p93)

日本は死因究明の発展途上国

日本では、異状死した遺体は、検察や警察の「検視」の結果、「犯罪性がある」と判断されたものだけが、解剖に回されます。警察官には、解剖に回すのは手続きが大変でめんどうくさい、予算もない、捜査も大変なので、事件を"犯罪性なし"にしたい傾向があるという。


日本以外の先進諸国では、犯罪性の有る無しにかかわらず、明らかな病死とはいえない場合は全て死体を解剖し、血液や尿などの試料を期間を決めて保管しておくように義務づけられている国が多いのです。また、日本以外の先進諸国では、警察を信用せず、別機関である法医学研究所で解剖やDNA検査を実施しています。


日本では、現場の警察官が1日にも満たない初動捜査で、交通事故死であるとか、自殺であると判断すれば、それ以上の捜査は行われないのです。日本の「死因」はウソだらけというわけです。


スウェーデンでは・・警察は、犯罪性が疑われないケースでも、医学的に死因が明らかでなければ、すべて解剖や薬物検査などの法医学的検査を実施して、死因を明らかにします(p157)

日本で冤罪が起きる理由

また、日本で冤罪が起きる原因は、遺体を解剖せず、供述に頼った捜査を重視する警察の体質があるという。解剖もせず捜査もろくにしないので、客観的証拠がほとんどない場合、警察は無理にでも自白を取りにいこうとして、多くの冤罪を生んできた歴史があるのです。


著者は法医学者として、警察官や弁護士から意見を求められる場合が多いのですが、「意見が一緒なら、証拠として採用する」という姿勢であり、真実を追求する法医学の誇りを踏みにじられ、いやな気持ちになるというのです。解剖でどの嘱託医を選ぶかは、警察にゆだねられているので、警察は都合のよい結果を出してくれる医師を選んでいるわけです。


そもそも日本では、法医学研究所はなく、東京都監察医務院が類似の組織ですが、東京都に予算があるからやれているのです。地方では、大学の法医学教室があるくらいですが、医師が1人か2人しかいないため、十分な議論もできないという。


日本では通常の検死で解剖しないので、死亡診断書(死体検案書)を書くために医師は警察官の話を聞いて死因の種類を推定します。警察官が「病死だろう」と言えば、医師には「病死ではない」と反論する根拠はないのです。そして死亡診断書に署名捺印を要求されるのは医師のみなのです。


日本では解剖せず死因が病死かどうかわからない段階で、犯罪性があるかどうかを判断しようとするがゆえに、亡くなった人や遺族の携帯電話記録を見たり、私生活を聞いて回ったりということが行われます(p65)

何も改善されていない死因究明

日本では、司法解剖の経費は警察庁が出すため、警察は解剖をしたがらないのです。警察が司法解剖しないとすれば、行政解剖するしかないのですが、経費は地方自体持ちとなります。ところが、財政に余裕のない地方自治体は監察医制度を廃止し、解剖経費の公費による支払いを停止し、遺族に払わせたりしているという。


だから「死体を捨てるなら千葉」というジョークがあって、異状死体の解剖率が東京都は2割で、隣の千葉県は4%なので、人を殺したら、千葉県に捨てれば、解剖されず、死因を特定できないので、逮捕されにくいのです。


10年前の書籍ですので、この10年でどれだけ日本の死因究明が改善しているのか知りたいと思いました。「死因究明等推進白書 2023」を見ると、まったく変わっていないことがわかりました。結局、死因究明に必要な経費については警察庁と厚生労働省と文部科学省と自治体が押しつけ合い、何も変わらずに現在に至っていることがわかりました。


まず、解剖に30万円かかるとすれば、解剖を倍増させるなら2万件で年間60億円くらいの予算があれば可能なのに、何も変わっていないのです。日本人として残念というか、恥ずかしいと感じました。岩瀬さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・異常死はすべて解剖し、臓器や血液を保管しておく制度が整っていれば、そのときはわからなくても、後になって新たな危険ドラッグが原因だったとわかる(p37)


・日本では、飲酒運転だけが厳罰化され、警察もアルコールしか調べません・・・先進諸国では、「飲酒運転」ではなく「DUI(driving under the influence of drug)=薬物の影響下にある運転」に対する罪が定められています(p38)


・日本ではドナー(臓器提供者)の死因判定に際して、法医が立ち会うことはほとんどありません・・移植を急ぐあまり、一見自殺や事故死に見える遺体が本当にそうなのかどうか、判定が甘くなる(p173)


・日本のデンタルチャートは絵のように写実的であり、そのため見た目がわかりやすいという利点がありますが、データベース化しにくいのです・・諸外国のデンタルチャートは模式図に近く・・コンピュータに入力しやすく、デジタル情報化が進んでいます(p43)


▼引用は、この本からです
「死体は今日も泣いている 日本の「死因」はウソだらけ」岩瀬 博太郎
岩瀬 博太郎 、光文社


【私の評価】★★★★★(95点)


目次

第1章 検死はこうして行われる
第2章 死因は誰が決めるのか
第3章 あぶなすぎる検死・検視の現状
第4章 先進諸国があきれる日本の死因究明制度
第5章 情報開示と遺族感情をめぐる課題


著者経歴

岩瀬博太郎(いわせ ひろたろう)・・・1967年千葉県生まれ。千葉大学大学院教授、解剖医。東京大学医学部卒業、同大学法医学教室を経て2003年より現職。2014年より東京大学法医学講座も兼務。日本法医学会理事。内閣府「死因究明等推進計画検討会」委員


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