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「藤井聡太は、こう考える」杉本 昌隆

2023/10/31公開 更新
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「藤井聡太は、こう考える」杉本 昌隆


【私の評価】★★★★☆(80点)


要約と感想レビュー

「安全にやろう」といった発想がない

すべての将棋タイトルを取った藤井聡太八冠について、師匠である杉本昌隆(まさたか)八段が語った内容です。面白いのは、藤井聡太八冠を小学生一年生の頃から見ている杉本師匠だけあって、藤井八冠のエピソードが豊富なことでしょう。


例えば、藤井八冠がタイトル戦で序盤から大駒を切って攻め合いを選択した事例を紹介して、藤井八冠にはそもそも「安全にやろう」といった発想がないとしています。杉本八段は、最善手を打ち続ければ勝てるとわかっている手順でも、自分には無理かもしれないと諦めることがあると告白しています。しかし、藤井八冠の場合には、多くの手がAIが選ぶ手と一致するのです。


彼(藤井聡太)はそもそも「安全にやろう」といった発想をしないんだな、と再認識しました(p42)

ただ将棋が好きなだけ

また、師匠自らを藤井八冠と比較して、藤井八冠は普通の棋士と比べて何が違うのか、説明してくれるのがわかりやすいのです。例えば、藤井八冠は敗戦するとものすごく悔しがります。しかし、すぐに切り替えて、感想戦をいかにも楽しそうに、笑顔さえ見せて行うことを紹介しています。そうしたことから、藤井八冠は思ったより勝ち負けにこだわっているのではなく、ただ将棋が好きなだけなのだろうと分析しています。負けて悔しがるのは、最善手を指せなかった自分を責めているのでしょう。


そして杉本八段は自分がタイトル戦を戦ったときには、「もし、勝ったら賞金で何を買おう」などと考えて、結果して負けてしまった事例を紹介しています。それに対し、藤井八冠は、いつでも同じ雰囲気で将棋に向き合う姿は、藤井八冠には物欲さえないのかもしれないと分析しているのです。


藤井の場合、どうやら本当に名誉欲はおろか物欲もありません(p87)

運や神様に頼らない

圧倒的な強さを誇る藤井八冠は、運や神様に頼らないという。ある時、神社に赴いた藤井八冠は、神様に自分の将棋のことではなく、兄の大学受験合格について祈っていました。その時、藤井八冠は「将棋のことは神様にお願いしてもしょうがないので」と語っており、将棋については、運や神様に頼るのではなく、自分自身の実力だけが決めると考えているのです。


純粋に将棋が好きで、将棋に打ち込む藤井八冠の姿に大谷翔平のような純粋なものを感じました。好きな人には誰もかなわないのです。藤井八冠を側で見ている師匠だからわかることがあるのだと思いました。杉本さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・AIには感情や、あるいは意思というのがないので・・自分としても指し手の意味や意思というのを大事にしたい・・一手一手深く考えて自分の考えというのが盤上に表れるような将棋が指せればなというふうに思っています(p33)


・藤井は序盤の早い段階でAIがマイナス評価をする戦法を、あえて選ぶことはしません・・必ずしもAIが最善とする手だけ選んでいるわけではありません(p179)


・先輩の棋士に言われたもの・・「一緒にいて楽しい人で集まるより、自分を高めてくれる人と一緒にいること」(p116)


▼引用は、この本からです
「藤井聡太は、こう考える」杉本 昌隆
杉本 昌隆、PHP研究所


【私の評価】★★★★☆(80点)


目次

序章 純粋さの勝利―なぜ名人位を獲れたのか
第1章 構想力―最善手を最速で見抜く
第2章 集中力―好きなことに取り組む
第3章 平常心―プレッシャー、緊張を楽しむ
第4章 探究心―将棋そのものを理解したいと願う
第5章 才能とは、努力を続けられること
第6章 羽生善治九段から学んだこと
対談 温故知新―谷川浩司十七世名人×杉本昌隆



著者経歴

杉本 昌隆(すぎもと まさたか)・・・1968年11月生まれ、愛知県名古屋市出身。1980年6級で(故)板谷進九段門下。1990年10月1日四段。2002年5月、第20回朝日オープン将棋選手権準優勝。2019年2月22日八段。第77期順位戦を9勝1敗とし、史上4位の年長記録となる50歳でのB級2組昇級を果たす。2008年、「NHK将棋講座」の講師を務める。本格派振り飛車党で、特に相振り飛車については棋界きっての研究家として知られている。地元の東海研究会では幹事、また杉本昌隆将棋研究室を主宰し、後進の育成にも力を注ぐ。藤井聡太の師匠として知られる。


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