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「世界の富裕層を魅了する「日本酒」の常識 元ファンドマネジャーの蔵元だから語れる本当の話」久保順平

2023/05/27公開 更新
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「世界の富裕層を魅了する「日本酒」の常識 元ファンドマネジャーの蔵元だから語れる本当の話」久保順平


【私の評価】★★★☆☆(76点)


要約と感想レビュー

長期熟成の完全発酵純米酒

ファンドマネジャーが蔵元になった!ということで手にした一冊です。著者は大和銀行ロンドン支店のファンドマネジャーとして8兆円の資産を動かしていたという。実家の蔵元を継ぐために33歳のときに脱サラしたのです。


蔵元を引き継いだ時、売上の9割が大手メーカーの下請けだったという。ただ、日本酒需要が減っている中で蔵元生き残りのため、初心に戻って長期熟成の完全発酵純米酒を造りはじめました。普通の日本酒は秋に新米を仕入て、12月に搾りたてを販売できるので、3か月くらいで資金を回収できるのです。下請けなら安いけれど、確実に資金は回収できるのです。それに対し長期熟成ということは資金回収が遅れることになり、資金調達が課題となります。


資金調達については、銀行が基本ですが、今はシャンパンを証券化した事例もあるし、クラウドファンディングでファンから資金を調達する蔵元もいるという。いずれにしろ著者は蔵元オーナーとして、安く大量生産の下請けから、ニッチで価値の高い商品を自力で販売していく方向に転換したということなのでしょう。


・クラウドファンディング・・蔵元仲間も、原料米を購入する資金を調達・・その蔵のファンになって、お酒を買い続けてくれているという好循環(p53)


酒類製造は許可制

酒蔵といえば酒を製造しているだけというイメージですが、実は国税局が酒税法によって酒の製造から販売までコントロールしていることがわかります。酒類製造と酒類販売は許可制であり、国税局の認識では、日本酒需要は減り、日本酒業界は過当競争に陥っているため新規免許は出さない方針だという。著者は、新規参入者のいない業界は活性化しないと警鐘を鳴らしています。


また、著者が長期熟成酒を造り始めた頃、在庫が増えていくことを不信に思ったのか、年4回も税務調査が入ったという。とにかく早く酒を造って売って、税金を払え!というのが国税局の考えなのです。国が民間に口を出すとろくなことにならないと一般的に言われていますが、口を出し続けてきた日本の酒類製造はどうなるのでしょうか。


・酒税は明治の終わりころ、国税収入の35%を占め、地税を抜きトップ・・酒屋を牛耳っていれば国家財政は安泰であった(p99)


日本の蔵元、企業や土地が買収される

ボルドーのシャトーのように、海外の金融資本から酒蔵へ買収提案が来ているという。現在の日本円は極端に割安となっているので、ドルベースで見ると投資のチャンスに見えるのです。元ファンドマネジャーとしては、脱デフレを目指す日本の有り余る資金が海外に出ていって、その金で日本の蔵元だけでなく企業や土地が買収されることに悔しさがあるようです。


蔵元には何百年という歴史を持つところが多いので、こうした円高円安にかかわらず、よい日本酒を造り続けてくれるのではないかと感じました。また、著者の実家の家訓の「百年の計は山にあり、それ以上は人にあり」というのも素晴らしいと思いました。久保さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・久保本家酒造の家訓でも「一年の計は田にあり、百年の計は山にあり、それ以上は人にあり」(p73)


・フルーティな香りは酵母から来ています。発行中の醪(もろみ)のアルコール度が高くなってくると、酵母は生きていけなくなり香気成分を出します(p110)


・ワインの原料であるぶどうの甘味成分は畑で作られるように、日本酒の場合は糀室(こうじむろ)で糖分がつくられる(p135)


・漫画「夏子の酒」で幻の米として有名になった「亀の尾」は庄内地方生まれた品種であり、コシヒカリやササニシキなどのルーツ・・寒さに強い米です(p177)


▼引用は、この本からです
「世界の富裕層を魅了する「日本酒」の常識 元ファンドマネジャーの蔵元だから語れる本当の話」久保順平
久保順平、日経BP


【私の評価】★★★☆☆(76点)


目次

第1章 日本酒は外国人から、どう思われているのか
第2章 世界で造る「SAKE」は投資対象になるか
第3章 日本酒酒蔵には、なぜ老舗が多いのか
第4章 日本酒と日本の歴史・文化
第5章 日本酒造りと蔵元の話―熟成酒を中心に
第6章 蔵元が考える日本酒の愉しみ方
第7章 8つの酒蔵から日本酒の特徴を探る



著者経歴

久保順平(くぼ じゅんぺい)・・・久保本家酒造11代目蔵元、株式会社久保本家酒造代表取締役。1961年奈良県生まれ。84年金沢大学経済学部卒、同年大和銀行(現りそな銀行)入行。87年ロンドン赴任、預かり資産8兆円のファンドマネジャーとして活躍。証券アナリスト取得。94年12月、33歳で大和銀行を退職し家業へ。大手酒造メーカーの下請け的な役割から自社ブランド開発に舵を切る。生もと造りを導入し、完全発酵・長期熟成のオリジナル純米酒の商品化に成功、300年続く老舗の改革として話題になった。SAKEの魅力を全世界に伝えるため尽力している。


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