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「だんまり、つぶやき、語らい」鷲田 清一

2022/09/06公開 更新
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「だんまり、つぶやき、語らい」鷲田 清一


【私の評価】★★★☆☆(77点)


要約と感想レビュー

 2020年に哲学者が愛知県立一宮高等学校の生徒に語りかけた、文化講演会の内容です。内容はタイトルのとおり、人と人とのコミュニケーションについてです。最初のつかみは、語らいをテーマにした講演会なのに一時間以上、著者が一方的に話し続けるというこのシチュエーションは語らいとしては最悪だ、ということです。こういう一方的に話すのは駄目ですよ、と伝えたいのに、一方的に話をすることになるというこの矛盾。


 そうした中で、だれかとしゃべる、人と話すのはしんどいでしょう、と著者は語りかけるのです。著者は無口なタイプなのでしょうか。その一方で、ことばに救われることもある。じぶんの思いが形としてアヤフヤで理解できていないときに、本を読んでいるうちに自分の感情とぴったりの表現と出会うことがるというのです。やはり著者は語りより読書が好きなようです。


 著者が言いたいことは、ことばは面倒くさいけれどもそうしたプロセスが大切ということなのです。


・相手の話をちゃんと聴いて、「あ、じぶんがあたりまえだと思っていたのとはちがう感じかた、考えかたもあるんだな」と気づくことがだいじ(p55)


 印象的だったのは、口ごもってしまったり、「だんまり」を決め込んで、じぶんなりの思いと折り合いをつけようとするプロセスが大切と説明しているところです。実は私も予想もしない場面に直面すると自分の中で考えすぎてしまい、固まってしまうことがあるからです。


 例えば、自分より10歳若い他の部門の人から「本のソムリエさんは本をたくさん読んでいるようですが、その程度なんですね」と悪意を持って言われたときにどうするか。厳しいことばで激怒するか、黙って無視するのか、乗り鉄のお前に言われたくないと嫌味を言うのか。などと考えているうちに時間が過ぎてしまうのです。そもそも、そんな言葉を発する人間が目の前に存在していること自体、理解できていない自分がいます。


 著者はそうした自分の感情とことばの折り合いをつけるプロセスが大切であると説いているのです。


・いま必要なのは「話しあい」じゃなしに、「黙りあい」ではないか・・・ことばを呑みこむということがすごく少なくなって、ことばがじぶんに向けられるとそれに反射的にメッセージを返してしまう(p34)


 確かにことばと感情というものは、左脳と右脳との折り合いをつけるということであり、まったく違う仕組みを統合することであることに気づきました。そして自分の中で折り合いをつけながら、他人の考え方に接して、自分の考え方とも折り合いをつけるというプロセスに人間としての成長があるとうことなのでしょう。


 面倒くさいけれども語らいの中で面白さがあるとわかりました。鷲田さん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・ほんとうの語らい、語りはダアローグ、もっといえばむしろ聴きあうことのうちにある(p55)


・しっぽがあれば、相手だけじゃなく、じぶんの知らないじぶんとももっと素直に向き合えるんじゃないかと。(p14)


・家族インタビュー・・・「ビデオカメラをもって、お父さんやお母さんに質問してきてください・・・コロッとしゃべりかたが変わって、すごく整った話をされるんですね(p28)


・「だんまり」にもいろんな面があって、なにかが恐くて黙ることもあるし、腹が立って、あるいは抵抗のためにことばを発さない場合もある(p38)


・聴くというのは、相手がじぶんで語り尽くすまで待つということなんです(p60)


・本のすごいところは、会ったこともない、世代もちがうし、生きている時代もちがう人と一対一で向き合える点(p81)


▼引用は、この本からです
「だんまり、つぶやき、語らい」鷲田 清一
鷲田 清一、講談社


【私の評価】★★★☆☆(77点)


目次

最初はマスクの話から
なぜ顔を覆うものと、顔そのものとを同じことばで呼ぶのか
ことばって面倒くさいじゃないですか
記憶は脚色される
チグハグでアヤフヤだけど・・・
「名前のない学校」で
家族インタビュー
「あいつら、ほんとうは弱虫とちゃうか」
寺山修司はこう言った
いちばんつらいことば
「神戸のひとがうらやましい」
出したり引っこめたりの感触がだいじ
固有名詞と呼びかけ
命名・襲名・改名
京都市立芸術大学の卒業式
物語(ストーリー)として編まれるこの"わたし"
ストーリーがゆらぎ、傷つくとき
じぶんが壊れないように支えてくれるもの
河合隼雄先生の「ほう」
時間をあげる
ちがう語り口で話す
心がけてもらいたいことは、たったひとつ


   生徒とことばを(質疑応答)
友だちから相談されることが多いんです
ことばと「場」への責任
じぶんがなくなるまで影響下に入ってみる
「時空を超えた語らい」
ことばに道をつけてもらう
直感はね、意外と正しいんですよ
答えはすぐに出さなくてもいい



著者経歴

 鷲田 清一(わしだ きよかず)・・・1949年、京都生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程修了。関西大学文学部教授、大阪大学大学院文学研究科教授、同研究科長・文学部長等をへて、現在、大阪大学理事・副学長。専攻は臨床哲学。著書に『「聴く」ことの力』(桑原武夫学芸賞)、『モードの迷宮』(サントリー学芸賞)など、多数


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