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「上司は思いつきでものを言う」橋本 治

本のソムリエ 2022/05/05メルマガ登録
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「上司は思いつきでものを言う」橋本 治


【私の評価】★★★★☆(87点)


要約と感想レビュー

 本書は会社でありがちな「上司は思いつきでものを言う」のは、組織上の問題だと説明してくれる一冊です。例えば、あなたが担当者として、斜陽産業である会社の新しいビジネスモデル・方向性を提案したとしましょう。(例えば、コダックでフィルム事業を縮小して、他の事業に注力していこうというような提案)もちろん会議では、「このままでは会社はだめになる」ということは共有されます。しかし、では具体的に何をするのか、ということまで踏み込むことはできません。なぜなら、本質的に「今までの私達は無能だった」という事実がバレてしまうからです。上司達はそんな緊張に耐えられないのです。


 実際には、著者が書いていない視点ですが、具体的な変革の実行を決定して責任を取りたくないし、どの部門が検討するのか調整が難しいという現実もあると思うのです。だから、「では、大変な時期なので、各部門それぞれ考えていただきたい」で会議は終わるのです。上司のピラミッドを生きていくためには、「会社の今までのあり方を否定すること」は許されないし、他の部門のことに意見したり、仕事を押し付けることも、軋轢を生む可能性があり、タブーなのです。


 著者はこうした組織の状況を、官僚じみた、官僚ぽい、官僚臭い、官僚組織であるとしています。


・今まであんた達が無能だったから、会社はここまで傾いた・・・あなたの提案は、上司達の耳にはそう聞こえるのです(p39)


 面白いのは、上司が自尊心が高い人でも自尊心が低い人でも、「上司は思いつきでものを言う」という著者の主張でしょう。


 自尊心の低い上司である場合、あなたの素晴らしい提案によって、上司は「自分の優位性が否定され」、嫉妬心にかられます。場合によっては自分の無能が明らかになってしまう。そのため、提案の本質とは関係のない「どうでもいいこと」について、大丈夫だろうか、問題にならないかなどと言い出すわけです。そして、そうした上司の発言を理解できない部下が困惑する姿を見て、上司は優越感を持つことができるのです。


 自尊心の高い上司でも、現場から離れてしまった上司は、昔の古い情報しか持っていません。だから、本気でアドバイスするつもりで、ちょっとずれたことしか言えないわけです。構造的に現場から離れてしまった管理職が現場が見えていないということはよくあるケースと思われます。


・部下が戸惑えばこそ、上司としての優位性は保たれる(p83)


 著者の提案は、こうした官僚的な上司に対して、慈悲の心をもって対応することです。慈悲とは、バカにせず、バカかもしれない可能性も考慮して丁寧に対応することです。なぜなら、上司もバカである可能性があるからです。これは親との関係にも応用できます。反抗期になると、親を嫌ってバカにすることがあります。見方を変えると、親にそんなことをしても許されるんだと甘えて、よっかかっているともいえます。上司に反抗する部下は、反抗期の若者と構造的には似ているということです。


 つまり、人は第三者に対して、頭の良い人、バカな人がいることも考慮して、わかりやすく説明したり、わかりやすい文章を書いてあげないといけないということです。それでも理解してもらえなければ、怒るのでもなく、悲しむのでもなく、議論するわけでもなく、ただ「あきれる」だけでよいのだと著者は主張しているのです。


 組織の本質に迫った意欲的な一冊でした。その一方で、まわりくどい論理構成に困惑しました。このまわりくどさを楽しめる人には、楽しめるのかもしれません。それとも読者によく考えさせるために、あえてまわりくどくしているのでしょうか。「読者はそんなにバカじゃありませんよ!」と著者に伝えたいです。


 橋本さん、良い本をありがとうございました。



この本で私が共感した名言

・日本の支配者の基本形は、「社長になりがたがらず、重役のトップとして会社の実権を握りたい」です(p178)


・日本の会社は、どんどん官僚組織に似てしまった(p134)


・必要なのは、「バカにせず、バカかもしれない可能性も考慮して」なのです・・・「慈悲」です(p165)


・親をバカにせず、しかも"親はバカかもしれない"という可能性を考慮する(p204)


▼引用は、この本からです
「上司は思いつきでものを言う」橋本 治
橋本 治、集英社


【私の評価】★★★★☆(87点)


目次

第1章 上司は思いつきでものを言う
第2章 会社というもの
第3章 「下から上へ」がない組織
第4章 「上司でなにが悪い」とお思いのあなたへ



著者紹介

 橋本治(はしもと おさむ)・・・1948年、東京生まれ。作家。東京大学文学部国文科卒。1977年『桃尻娘』で講談社小説現代新人賞佳作受賞。以後、小説、評論、戯曲、古典現代語訳、エッセイ、芝居の演出等、幅広く創作活動を続ける。『宗教なんかこわくない!』で第九回新潮学芸賞、『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』で第一回小林秀雄賞を受賞


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