「生きていくうえで、かけがえのないこと」吉村 萬壱
2018/09/01公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★☆☆(70点)
要約と感想レビュー
20個のテーマについて、二人の作家がエッセイを書くという企画です。吉村さんは芥川賞作家、若松さんは元三田文学編集長です。こちらの吉村さんは、作家らしく文体は読みやすく55歳の自分を素直に出している印象でした。
・老いる・・・怒りっぽくない、テレビに向かって「嘘をつくな」「それでも歌手か」などと文句を言う。一日に十回ぐらい探し物をする。人の名前が出てこない・・・駐車違反や信号無視に対して怒りを抑えられない。人の話を聞かず、何度も「何が?」と問い返す(p47)
ダメな自分をあきらめているのか、そのまま受け取っているようでした。55年も生きているとそうした受け止めになるのですね。吉村さん、良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・超高齢社会の中で、人付き合いが下手で、上手く人前で自分が出せない孤独な独居老人はますます増えていくだろう・・ぶつかってきたりマナーが悪かったりする人間に対して私は紛れもない殺意を抱く。自分でもヤバイと思う程に(p20)
・私は何であれ、人の手によって書かれた文字が好きである・・・シベリアに抑留された人が白樺の木の皮に煙突の煤で記した短歌、漁師の書いた漁業組合の寄り合いの日時を記したメモ(p29)
・小学生だった頃・・子犬を高々と掲げた。そしてずっと下方のU字溝目掛けて、子犬を投げ捨てた・・・牛や豚や鶏を殺すころを悲しむ人々に対して、「生きることは殺すころだ」と反論したりするのは、取り返しの付かないことを、既に自分の手が下してしまったからなのだと思う。過去は修正できない(p36)
・ある人が、「本を読んでいる女性はカッコいい」と言っていた。確かにそうだ、と思った・・読書している女性は少なくとも間抜け面はしておらず、どこか引き締まった顔をしている(p51)
・逆に私は、生徒指導に熱心な教師が苦手だった・・・生徒の役に立つことが彼らの生きがいらしかったが、「我々はあなたの生きがいになることを了承した覚えはない」と言いたかった(p74)
・電車に乗ると、親指を物凄い速さで動かしながら、ラインに夢中になっている女子高生を見かけることがある。彼女は決して楽しんでいるようには見えない。恐らく必死に即レスしているのである・・・延々とラインの中に閉じ込められ続けるのだろうか。それでも彼女達にとってそれは、大切な友達関係なのだろう。しかしそれは本当に、友達と言えるだろうか(p95)
・長年のタバコや不規則な生活、ストレス等によって健康も壊しつつあるのが現状である。壊してみて、初めてその価値が分かるようなところがある(p110)
亜紀書房
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【私の評価】★★★☆☆(70点)
目次
眠る
食べる
出す
休む
書く
ふれる
悲しむ
喜ぶ
嘆く
老いる
読む
見る
聞く
ときめく
忘れる
働く
癒す
愛する
耐える
念ずる
待つ
憎む
見つめる
壊す
著者経歴
吉村 萬壱(よしむら まんいち)・・・1961年、愛媛県松山市生まれ、大阪で育つ。京都教育大学卒業後、東京、大阪の高校、支援学校教諭を務める。1997年「国営巨大浴場の午後」で第1回京都大学新聞社新人文学賞受賞。2001年「クチュクチュバーン」で第92回文學界新人賞を受賞しデビュー。2003年「ハリガネムシ」で第129回芥川賞受賞。近著、『ボラード病』(文藝春秋2014)、『臣女』(徳間書店2014)など。
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