「アメリカの鏡・日本 新版」ヘレン・ミアーズ
2014/03/21公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★★(93点)
要約と感想レビュー
1948年にGHQ労働局で働いた女性により書かれ、アメリカで出版された書籍です。日本では、GHQから翻訳出版不許可となっています。
この本が伝えたいのは、当時の日本が西欧の国際力学を学び、実践した結果、西欧列強のように植民地を持つまでになった経緯です。そして、日本が植民地を持ったときには批判されず、西欧列強の権益を脅かすようになると、一転、日本は「凶暴で貪欲」になったということです。
・西欧列強はいま、日本を激しく糾弾している。日本が「凶暴で貪欲」であったことは明白は事実だが、からといって、列強自身の責任は、彼らが思っているようには、免れることはできない。日本の本当の罪は、西欧文明の教えを守らなかったことではなく、よく守ったことなのだ。それがよくわかっていたアジアの人々は、日本の進歩を非難と羨望の目で見ていた(p386)
昔も今も、国際社会とは、経済と軍事力を通じて国益を最大化させるための交渉の場です。日本は、国際連盟で人種差別撤廃を主張しましたが、否決されました。日本は日清戦争に勝ち、遼東半島を割譲しましたが、三国干渉で遼東半島を返還しました。
ボスニア・ヘルツェゴビナが独立を宣言しました。NATOは独立に反対するセルビアを空爆しました。クリミアが独立を宣言し、ロシアが併合しました。欧米はロシアに経済制裁を行いました。国際社会は平和と自由を叫びながら、各国は、"国益"で動いているのです。
・欧米列強は「平等」を口にする。しかし、実際には人種差別を行い、人種と力と「条約上の権利」を盾に特権を要求している。彼らは「自由競争」と「自由経済」を口にする。しかし彼らは後進地域で独占支配を強め、経済的圧力あるいは武力で高価な権益を獲得し、特権として関税も管理している・・・国際関係のルールとは、実は、暴力と貪欲を合法化したようなものだ。基本原則の中で大国がきちんと守っているのは唯一、各国の政策立案グループが設定した「国益」だけではないのか。日本人が学んだのは、そういうことだった(p267)
そして、国家間の外交は、地政学というパワーバランスで決まるのです。ウクライナをEU側に取り込むのか、それともロシアが取り込むのか。大国の間に挟まれた小国は、常にそうしたパワーバランスの中で、運命を左右されてしまうのです。
この本では、ロシアが台頭すると日本という対立軸を育てて、日露戦争でロシアを崩壊させた経緯は、その後、ソ連を崩壊させるために中国を育てたのです。いずれ中国がコントロールできなくなれば、また他に対立軸を作り、中国を崩壊させようとするだろうと予想しています。それは今も昔もそれほど変わっていないように見えます。
・イギリス型「安全保障」体制はまさしくボウリング場だ。たくさんの国がピンのように並べられ、倒されたり、立てられたりしてきた。まずロシアを倒すために日本が立てられた。そして、日本が「信頼できない」とわかると、日本を倒すために、ソ連が立てられた。これやヤルタである。しかし、ソ連も日本以上に「信頼できない」ことがわかったので、今度は中国を立てようとしている・・・私たち(アメリカ)が韓国の「安定化」を図っているのも、同じ目的からである・・・この先20年ぐらいのうちに、私たちは日本かソ連をもう一度立て、中国を倒そうとするかもしれない(p407)
ちょうどウクライナのロシア併合のタイミングで、この本を手にするとは不思議な巡り合わせに感じました。欧米人が書くと、ロジックがしっかりしていて説得力があります。
なぜ、中国、韓国が「歴史問題」に固執するのかもわかります。それは戦勝国にとって歴史問題は共通の恥部であり、恥部ゆえに戦勝国同士が団結できるからです。恥部だからこそ、アメリカのためにも日本はそこに触れないほうがいいのです。
ちょっと国際関係を新しい視点で見ることができました。ミアーズさん、良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・パールハーバーはアメリカが日本に仕掛けた経済戦争への反撃だった・・・1941年7月25日にアメリカ、イギリス、オランダが打ち出した「凍結」令である。三国は自国領内になる日本の全資産を凍結し、貿易、金融関係をすべて断絶した。日本は輸入必需品の80%を「凍結」地域に頼っていた・・(p87)
・「歴史的拡張主義者」の日本がパールハーバー当時、太平洋地域で支配していた面積は、全体のわずかに0.2%だった。こうした中でアメリカの立場は興味深い。・・・私たちは初めてこの地に移ってきてから300年の間に、インディアン、イギリス、メキシコ、スペインを打ち破り、フランスを脅かし、国家統一のための内戦を戦い、大陸の3002万2387平方マイルを獲得して定着した。(p218)
・ペリー以後の近代日本が、侵略的であり、拡張主義的であったことは確かだ。しかし、近代以前の日本が平和主義であり、非拡張主義であったことも確かだ。だから、近代日本の侵略行為は1853年以後の出来事に原因があると考えるべきである(p215)
・近代日本が仲間入りした当時の国際社会は、政治・経済を中央管理しなければ生き残れない状況にあった。だから日本は中央集権国家になった。日本人は暴力と貪欲が基準であり、正当である国際社会に入ったのだから「凶暴で貪欲」になった(p230)
・今日私たちは「法と秩序」「条約の尊重」「国家の平等」「領土保全」・・といった、誰も否定できない原則に立って日本を非難している。しかし、最初の教育で日本は、そうした原則は文字に書かれた経典ではなく、力の強い国が特権を拡大するための国際システムのテクニックであることを、欧米列強の行動から学んだのだ(p265)
・米英両国の軍隊と砲艦が自公民の生命財産を守るために中国の「盗賊」を攻撃したとき、両国の世論は中国人を野蛮人と呼んで非難した。イギリスとアメリカの国民は忘れているようだが、日本人はよく覚えている。ところが、日本が同じように中国の「盗賊」を攻撃すると、同じ国民が日本人を野蛮人と呼ぶのである。(p295)
・満州での治外法権を最初に放棄し、中国本土に関して具体的な約束をしたのは日本だった。中国行政当局に租界を返還したのも日本だった・・・倫理面では、日本は私たちを何のはばかりもなく偽善者と呼ぶことができるのだ。(p345)
・1894年7月29日、韓国駐在のシル米代表は次のように書いている。・・・日本は思いやりの態度で韓国に接していると思う。今度こそ、韓国を中国の束縛から解放しようとしているようだ。韓国国民に平和と繁栄と文明開化をもたらすことによって、力の弱い隣国を安定した独立国にしようと考えている。こうした日本の動機は韓国の知識層である官僚の多くが歓迎している。アメリカにも異論はないと思われる(p256)
・ヤルタ会談の時点では、ソ連は日本と戦争していなかった。そればかりでなく、日本との間で不可侵条約を結んでいたのだ。イギリスとアメリカは、具体的条件を出して、ソ連が特定の期日をもって不可侵条約を破棄するお膳立てをしたのだが、両国代表団はそれを「違法」とは考えていないのだ。その結果として、アメリカは8月6日(1945年)原爆を投下し、ソ連は8月8日宣戦を布告、翌9日に参戦した(p403)
・ある日突然、日本帝国が解体された。植民地に投資した資産(政府企業だけでなく個人資産も)は今後の押収用にとして凍結された。何百万の人々が、男も女も子供も、戦火に焼かれた日本に強制的に送還されたのだが、それは恐ろしくも、ナチスがヨーロッパで断行した集団移送を思い起こさせる。人々は身に着けたものとわずかな小銭のほかはすべてを失った(p326)
角川学芸出版
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【私の評価】★★★★★(93点)
目次
第1章 爆撃機から見たアメリカの政策
第2章 懲罰と拘束
第3章 世界的脅威の正体
第4章 伝統的侵略性
第5章 改革と再教育
第6章 最初の教科「合法的に行動すること」
第7章 鵞鳥のソース
第8章 第五の自由
第9章 誰のための共栄圏か
第10章 教育者たちの資質
著者経歴
ヘレン・ミアーズ(Helen Mears)・・・1900年生まれ(1898年の説もあり)。1920年代から日米が開戦する直前まで二度にわたって中国と日本を訪れ、東洋学を研究。戦争中はミシガン大学、ノースウェスタン大学などで日本社会について講義していた。1946年に連合国最高司令官総司令部の諮問機関「労働政策11人委員会」のメンバーとして来日、戦後日本の労働基本法の策定にたずさわった。1989年、没
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