「希望を捨てる勇気―停滞と成長の経済学」池田 信夫
2010/03/01公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★★(96点)
■「地獄への道は善意で舗装されている」
と言われますが、
その人を助けようと思っていたのに、結果は、
逆にその人が不幸になってしまったという事例を
ズバッと指摘する一冊です。
まず指摘するのは、
姉歯元建築士から大問題になった
耐震強度計算の擬装です。
姉歯の設計したマンションを取り壊したり、
耐震強度をちゃんと計算しようとしましたが、
チェック強化により建物着工ができず
業界が大不況となりました。
・姉歯元建築士の設計した建物は「震度5で倒壊する」とされて取り壊されたが、同じ論法でいけば、1981年の建築基準法改正以前の建物は、みんな取り壊されなければならない。しかし役所もメディアも、それは問題にしない。震度5でコンクリートの建物が倒壊した事件はほとんどないからだ。(p32)
■そして、グレーゾーン金利にいたっては、
それまで問題ないとされていた金利が違法となり、
過去の金利を返済しなくてはならなくなりました。
そのため、消費者金融業界は崩壊。
消費者金融を利用していた人は、
より高利の闇金融を利用するしかない
状況になっているのです。
・グレーゾーン金利が、裁判所によって事後的に違法とされ、過去に遡及して訴訟が続発していることは、法治国家としての日本の信頼を傷つける。シティグループは日本の消費者金融から撤退するとき、記者会見で「ルールのない国でビジネスはできない」とのべた(p28)
■派遣労働についても、
禁止や規制強化がなされれば、
派遣労働者が幸せになるわけではなく、
派遣労働者の仕事がなくなるだけに
終わる可能性があるのです。
・不況の最中に46万人といわれる製造業の派遣労働を禁止したら、規制強化を口実にしてクビを切るか、契約社員やアルバイトに切り替えるだろう。(p47)
■これ以外にも、不動産の入居者の権利が強すぎる件、
医者の手術失敗が刑事罰に問われる件、
地方を無理に活性化させようとしている件など
よく考えるとそうかもしれないという
目からウロコがたくさんでした。
・問題は産婦人科医の不足ではなく、手術の失敗に刑事罰を科すなど、人命のためには他のすべてを犠牲にする司法のバイアスである。それは結果的には、多くの人命を失う結果をもたらしている。(p29)
■書籍のタイトルが今一ですが、
内容は最高に充実しています。
問題というものは、表面的な対応だけでは
根本的な解決にならないこともわかりました。
池田さん、よい本をありがとうございました。
━━━━━━━━━━━
■この本で私が共感したところは次のとおりです。
・硬直的な人事制度のおかげで、日本のサラリーマンのほとんどは、年をとると何もすることがなくなる。・・・特に管理職になると地方勤務が多くなり、単身赴任という世界に類を見ない生活形態が増える(p55)
・奴隷は彼らの鎖の中ですべてを失ってしまう。そこから逃れたいという欲望までも。(ジャン・ジャック・ルソー)(p59)
・需要の変動に対応して雇用調整を行うメカニズムが、解雇(50年代)、配置転換(60年代)、出向(70年代)、非正社員(90年代)と変化してきたのである。(p67)
・店子の権利が非常に強く・・・立ち退かせにくい家族を入居させず、独身向けワンルーム・マンションを建てる。その結果、日本の賃貸住宅の質は低く、家賃は高い。(p26)
・地方はもっと(経済の自然な流れにそって)衰退してもおかしくない。・・・これからは都市国家の時代だ。(p136)
・比較優位・・・「アインシュタインが秘書よりタイピングがうまくても、彼がタイプしてはいけない」のだ(p185)
・「世界一速いコンピュータ」・・・時代錯誤の戦艦大和のような「大艦巨砲コンピュータ」に多くの優秀なエンジニアを投入することは、IT産業をミスリーディングし、税金よりもはるかに重大な人材の浪費になるだろう(p194)
・新聞社には気の毒だが、この流れはもう変わらないだろう。・・・デジタル情報の限界費用(複製費用)はゼロなので、その価格がゼロになることは避けられない。(p207)
▼引用は、この本からです。
【私の評価】★★★★★(96点)
■著者経歴・・・池田 信夫
1953年生まれ。大学卒業後、NHK入社。1993年退職後、国際大学GLOCOM教授。経済産業研究所等を経て、現在は上武大学大学院教授。
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