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【書評】「中西輝政×鎌田浩毅 国際政治を見つめて:大英帝国の落日と日本の行方」中西輝政, 鎌田浩毅

2026/07/02公開 更新
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「中西輝政×鎌田浩毅 国際政治を見つめて:大英帝国の落日と日本の行方」中西輝政, 鎌田浩毅


【私の評価】★★★★☆(89点)


要約と感想レビュー


欧米に学んだインテリジェンスと孤立

この本は、京都大学で国際政治を歴史から紐解いてきた中西輝政名誉教授が定年を迎えた後、同僚の鎌田浩毅名誉教授との対談で、大学・学会の実態や自身の研究人生を率直に語った一冊です。


中西教授がケンブリッジ留学中に師事したハリー・ヒンズリー教授は、第二次世界大戦中にドイツのエニグマ暗号解読作戦「ウルトラ」を指揮した人物でした。そのゼミにはキッシンジャーをはじめとする欧米の著名な政治家や外交官、経済人が集い、欧米のエリートの考え方を学ぶことができたといいます。


中西教授は欧米のエリートの考え方に基づくことで、多くの予言を的中させてきました。


1985年頃にはゴルバチョフの登場を見て「冷戦はもうすぐ終わる」と語りました。1990年代には中国が日本と世界の大きな脅威になると警告し、日本の軍備増強、憲法改正の必要性を主張しました。湾岸戦争では中東が混乱し、イランやイスラム原理主義が拡大し、アメリカが泥沼に引き込まれると反対しました。


いずれも当時は「左翼」あるいは「右翼」とレッテルを貼られて受け入れられませんでしたが、後に現実となったのです。日本では、「左翼」か「右翼」か、政権を支持するか、しないか、そういう立場を決めてから、対応を決めるというのです。日本のムラ社会の悪いところなのかもしれません。


ちなみに、中西教授の「つねに20年先を見るようにしている」という姿勢には感銘を受けました。


(1980年代末)自衛隊の海外派遣が必要な時代がきている、といえば「右翼」と言われ、アメリカの外交を批判すると「左翼」と言われて驚いた(p61)

大学教授の出世のコツ

この本の中で特に興味深いのが、日本の大学・学会の実態をぶっちゃけた部分です。


中西教授は、左寄りの同僚が多かった京都大学で「右寄り」と見られたことで、さまざまな実害を受けたといいます。特定の政治家を支持したので懲戒にしろと突き上げられたり、研究室のカギが潰されたり、研究室に油をまかれたり、講義中に過激派に乱入されたりしたというのです。


特に印象的なのが文系の大学教員の間では、保身や出世のためにはマスコミで左寄りの立場で書くのが得策だとされていたという。テレビ出演前に「明日はテレビは左半身でいこう。あさってはあのメディアの活字になるから、少し保守でいこう」「NHKでこういうと右翼っぽく思われるとあれだから、こういう路線で行く」「この問題が外務省がこうだから、そうストレートに言うわけにはいかん」と平気で立場を使い分ける著名な教授の発言が紹介されています。


著者はその後、左派が凋落し、現実主義の国際政治学者たちが右派として集団化・派閥化し、霞が関や大メディアと一体化していく構図も指摘しています。左右を問わず、学問の世界が政治化・利権化しやすい構造があることへの警鐘なのでしょう。


大学という場所に身を置いている文系の教員の間ではマスコミにちょっと書くようになったら、護身のために「左半身で書け」とよく言われていました。これが大学社会での保身や出世できる「いちばんの手だよ」とよく言われていました(p90)

日本になぜ本格的な情報機関がないのか

中西教授は日本に情報機関が必要であると主張し続けてきました。では、なぜ日本には本格的な情報機関がないのでしょうか。


その主な理由として、三つ挙げています。一つ目は霞が関の縄張り争いで、外務省・警察・公安調査庁・防衛省がそれぞれ「オールジャパン」の情報機関の設立に抵抗していること。


二つ目は左派勢力による反対。三つ目は、意外なことにアメリカも長年反対してきたということです。


著者はさらに日本文化の面からも、二つの理由をあげています。


一つは、日本人が「人を騙して情報を取る」行為に本能的な後ろめたさを感じる文化的傾向があること。そのような感覚は他の国の人にはほとんど理解されないというのです。


二つめは、日本では、エリートも庶民と同じ感覚で育つため、危機意識や覚悟が研ぎ澄まされにくいという問題も指摘しています。


日本になぜ本格的な情報機関がないんですか、とよく訊かれるんです。理由は大きく三つあって、一つは霞が関の縄張り争いで・・・二つ目は、今までは左派勢力が反対だったんですね・・・三つ目は、意外なことにアメリカが反対してきたんです(p259)

今後、国際社会はどうなるのか

中西教授は、まず2016年を境に、グローバリゼーションと世界国家統合の流れに終止符が打たれ、各国のナショナリズムが強まったと述べています。


日本は1990年代のグローバリゼーション時代に海外へ生産を移転したことで国内の空洞化で国力を落としました。これは、1890年代のイギリスも同じように国外へ偏重した投資で衰退したので類似性があると分析するところは、国際政治学者として歴史を知り尽くした中西教授ならではの指摘です。


2030〜2040年代には「第四の波」と呼ぶべき再民主化の流れが訪れると予測しています。ハンチントンが「第三の波」と呼んだ1980年代の民主化の流れが冷戦終結につながったように、今のナショナリズムへの逆行がいずれ振り戻され、再び民主化が進むというのです。


大学を定年したということで、本音で語られた学術の世界の実態と、国際政治の見方が詰まった一冊でした。中西さん、鎌田さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言


・1990年代からずっと私の言いたかったことは、日本は何としても、もう一度国力とにく経済力を再生して、防衛力でも中国との間にバランスを保たないと大変なことになる、具体的には防衛面での備えをしつつ、中国の長期的な変化を待って時間をかせぐ(p82)


・プーチンはウクライナの次はエストニアがいちばんのターゲットでしょうが、侵略するとしたら、まず最初はラトビアから手をつけるでしょうね(p128)


・西郷隆盛も陽明学者ですね・・・陽明学は、私は本来の儒学だとは思いません。あれは日本独自の哲学体系で・・・知行一致の哲学ですね。知の本質を行動と捉える・・武士道とか、あるいは自らを殺して公に奉じる、とか、そいいう日本人にしか理解できないような特質をもつものです(p186)


・あの有名なスパイ、ゾルゲが遺した言葉とされていますが、日本という国はカニと同じだと。カニは普通に中に入ろうとすると甲羅がものすごく固くてまず入れない。しかし・・・頭の付け根のところのスキ間があり、そこから一旦入り込めばどこへでも行ける。頭の付け根ってどこだというと、政府の中枢だと・・・ゾルゲはそれに倣って、尾崎秀美と深い関係がある近衛首相にダイレクトにつながる情報網をいちばん重視するわけです(p275)


▼引用は、この本からです
「中西輝政×鎌田浩毅 国際政治を見つめて:大英帝国の落日と日本の行方」中西輝政, 鎌田浩毅
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中西輝政, 鎌田浩毅 (著)、ミネルヴァ書房


【私の評価】★★★★☆(89点)


目次


第1部 "温かな保守"論客の軌跡
 第1講 子ども時代~大学──大阪気質をたずさえて
 第2講 留学時代以降──自由で独立した知識人へ
 こぼれ対談1 歴史の土地勘
第2部 国際政治の世界
 第3講 日本の歴史・風土と国民性
 第4講 日本の文明史
 こぼれ対談2 学術雑誌とビジネスマン
 第5講 インテリジェンスの世界
 こぼれ対談3 学者のノブレス・オブリージュ
 第6講 世界を読む眼──2020年代の視点で


著者経歴


中西輝政(なかにし てるまさ)・・・1947年 大阪府生まれ。1978年 京都大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得退学。現在 京都大学名誉教授。


鎌田浩毅(かまた ひろき)・・・1955年 東京都生まれ。1974年 筑波大学附属駒場高等学校卒業。1979年 東京大学理学部地学科卒業。通産省主任研究官,京都大学大学院人間・環境学研究科教授などを経て,現在 京都大学名誉教授(2021年~)専門は地球科学・火山学・科学コミュニケーション。


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